人には言えない仕事
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
稽古後、拓海は団員たちとの談笑の輪に加わっていた。二月の確定申告を前に、「面倒くさい」「憂うつだ」という不満の声が次々と漏れる。ほとんどの団員がバイトを掛け持ちしており、みな自分で確定申告する必要があったからだ。
拓海もかつては自ら確定申告を行なっていた。だが、今年からは麗子の知人の会社から給与として小遣いを受け取っていたため、年末調整はすべてその会社が済ませてくれた。そのため、今年の確定申告は他人事でいられた。
確定申告の話が一段落すると、話題は声優のオーディションに移った。この時期は声優のプロダクションに所属するためのオーディションが集中しているらしく、役者と同時に声優も目指している劇団員の一人は、連日のようにオーディションに参加しているのだという。しかし、プロダクションに所属するのは狭き門らしく、合格するのはほんの一握りとのことだ。
拓海はそんな話を聞きながら、『エヴァンゲリオン』を最後にアニメをほとんど観ていないことに気づく。新海誠監督の作品くらいは見ようと思いながらも、つい実写映画を選んでしまうのだ。
独身時代は、休日は洋画を中心に一日三本以上の映画を観ていた。映画館にもよく足を運んだ。結婚を機に映画を観る本数は減ったが、これまでに累計で三千本以上の映画を観てきた。すべては役者としての糧にするためだ。
劇団内にも映画好きは多かったが、たまにしか観ないという者も少なからずいた。そんな彼らに理由を聞くと、「演じるのは好きだけど、観るのはあんまり……」という曖昧な答えが返ってくる。だが、拓海は役者を目指すなら映像作品は積極的に観るべきだという考えから、特別な理由がない限り、勉強のために多くの作品に触れるべきだと思っていた。それを怠るのは単なる怠慢だ。映画に興味を示すことなく役者を続けている者は、芝居を何となく楽しんでいるだけで、釣りやキャンプのような趣味と同じ感覚なのだろう。「有名になれたらラッキー」くらいの軽い気持ちで取り組んでいて、人と違うことをしている自分に少し酔っているだけなのだ。
リョウもそんな中途半端な姿勢で活動している者の一人だ。飲みの席で映画の話題が上ると、「面白そう。今度観てみよう」と返すが、絶対に観ることはない。まさに中身のない人間の典型だ。他人のマナー違反は糾弾するくせに、自分は平気で脅迫まがいの行為をする。他人の人間性を批判する者ほど人間性に問題があり、自分が気に入らないという理由だけで他人に対して徹底的に残酷になれる。そんな精神性の持ち主たちが、この社会を徹底的に生きづらくさせているのだ。
談笑が落ち着き、団員たちが帰り支度を始めた。
拓海はリョウが稽古場を出たところで声をかけた。
「リョウちゃん、例の件で話がしたいんだけど」
「あ、はい」
声をかけられるのを待ちわびていたのだろう。彼女の瞳は期待で輝いていた。その期待を一瞬で打ち砕けるかと思うと、拓海は心底愉快な気持ちになった。
近くの公園に足を運んだ。砂場とブランコ、ベンチが二つあるだけのとても小さな公園で、他に人影はなかった。
拓海は逸る気持ちを抑え切れず、さっそく切り出した。
「ねえ、リョウちゃん。君って、人に言えない仕事してるよね?」
リョウの顔が一瞬で凍りつく。期待通りの反応に、拓海は痛快な気持ちになる。自然と顔がにやけてしまう。
「……あ、あたしのこと、調べたんですか!」
「なんかその言い方、ぼくが悪いことしたみたいだね」
脅迫をされていただけに、つい棘のある言葉で返してしまう。
当然、リョウにこちらを責める権利はない。拓海にも落ち度はあったが、脅迫するほうが明らかに悪質だ。もっと強く非難してもいいくらいだ。
やがて、リョウは声を震わせながら言った。
「……劇団の人には、黙っててくれますよね?」
「もちろん。お互い黙っていれば問題ないよ。あと、これ——」
拓海は封筒を差し出した。
「何ですか、それ……」
「プレゼントだよ。あとで見といて」
それでも受け取ろうとしないリョウに無理やり封筒を押しつけると、拓海は背を向けて歩き出す。
足取りは軽かった。厄介な問題が一つ片づき、胸のつかえが取れた気がした。この勢いのまま、久しぶりに麗子を抱いてやろうか。そんなことを思いながら、拓海は大通りを目指して歩き続けた。
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