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【猟奇的サイコスリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第五章 破滅へのカウントダウン

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新たな標的 ①

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

「ハワイで挙式だなんて、やっぱ金持ちはスケールが違うな」

 佐藤が皮肉っぽく言い、拓海は小さく苦笑した。

 ハワイで挙式を上げたあと、そのままヨーロッパを巡る新婚旅行を終え、二週間ぶりに帰国したばかりだ。

 拓海は薄暗い店内を見渡す。相変わらずガラの悪い連中が目立つが、まだ早い時間だからか、客の入りは二割ほどだ。

「どうだ? 金持ちの暮らしに少しは慣れたか」

「さあ、どうでしょう。少しは慣れたかもしれないですけど、長年貧乏暮らしだった身としては、今でも金銭感覚の違いに驚くばかりですよ」

「で、あの女から、いくらもらってるんだ?」

「月百万です」

 言った瞬間、拓海は後悔した。つい自己顕示欲が勝り、正直な金額を言ってしまったのだ。五十万とでもごまかせばよかったと反省する。

 ところが、佐藤は驚いた様子も見せずに納得している。

「まあ、妥当な金額だな。もっと要求してもいいんじゃないか?」

「いや、さすがにそれは……。正直、百万でも多いと感じてるくらいですから」

「だろうな。おれの三倍近くもらってるわけだからな」

 週五で働く男の三倍かと思うと、改めて百万という金額の破格さを実感する。

「やっぱり百万ってすごいですよね。バイトを二つ掛け持ちしてたころでも、三十万にも手が届かなかったくらいですから。それを思うと、もう昔の生活には戻れないですね」

 正直な気持ちだった。贅沢を知った今、二度と貧乏暮らしには戻りたくなかった。

「で、挙式はどんな感じだったんだ?」

「普通ですよ。余計な人がいなかった分、気が楽でした。日本でやるとなると、家族や親戚、友人知人を呼んで大掛かりになりますから、彼女がハワイで挙げたいと言ってくれたときは正直ほっとしました。何せ、結婚の理由があれですからね」

「まあ、そうだな」

「ぼくとしては、結婚した事実はなるべく知られたくない。それに勘当された身ですから、両親を式に呼ぶわけにもいかない。麗子みたいに両親が他界してたら仕方ないですけど、両親ともに健在なのに欠席じゃ示しがつかない。実家の弟によると、父親はぼくが定職につくまでは結婚なんて認めないと言っているそうですし、母親のほうは父の顔色をばかりうかがっていますから」

 両親とは十年以上会っていなかった。人にその話をすると、事情も聞かずに会いにいったほうがいいと余計な忠告をしてくる。本当に無責任な発言だと思う。気軽にそう言える人間は、家族仲がそれなりにいいのだろう。だが、みんながみんな、自分と同じではないということがわかっていない。親が子を、子が親を殺すというニュースがあふれているのに、すべての家庭が円満だと盲信している。そんな連中とは、自然と距離を置くようになっていった。

 とはいえ、今では拓海も少し大人になり、両親の話題が上ると、親子仲は良好だと嘘をつくのが常になっていた。

「でも意外だったな。あの女のことだから、挙式は派手にするかと思ったが」

「それなんですけど、今回のことで思うことがあって」

「ん? 何をだ?」

「普通、式や披露宴って、女性にとっては一生に一度の晴れ舞台で、自分をアピールする絶好の場じゃないですか。でも彼女がそれを望まないのは、本物の金持ちだからなのかなって。わざわざそんなところで自分を主張する必要がないっていうか。逆に貧乏人ほど、派手な披露宴をしたがる傾向があるんじゃないかって」

「なるほどな。確かにそうかもな。ちなみに、新婚旅行はどうだった?」

「どうってことないですよ。楽しんだふりをしただけです」

「ふっ。楽しんだふりか」

 佐藤が皮肉っぽく笑った。

「そりゃそうですよ。知っての通り、あの女とは好きで結婚したわけじゃない」

「そうかもしれないが、あんな美人とタダでヨーロッパを周れたんだ。楽しまなきゃ損だろうが」

「何度も言いますけど、あの女はぼくのタイプじゃない」

「まあ、好みは人それぞれだからな」

 この会話で、拓海は佐藤との価値観のズレをはっきり感じた。佐藤は恋愛感情などお構いなしで、顔さえよければ誰でもいいらしい。だが、自分は違う。外見よりも魂の相性を重視する。麗子クラスの美女とは若いころにさんざん遊んできたが、そこで得た気づきは、魂のフィーリングが合わなければ、相手がどんなに美形だろうがセックスは楽しめないということだ。実際、義務感で行っている麗子とのセックスはスポーツみたいなものだった。

 佐藤が卑猥な目つきをして聞いてきた。

「毎回、避妊してるんだよな?」

「ええ、そうですね」

「なら、ハネムーンベイビーはなしか。でも、やりまくったんだろ?」

「そういう下世話な話はやめてください」

 拓海は不快感を隠さずに言った。

 それでも佐藤は気にする様子もなく、卑猥な目つきを崩さずに続けた。

「あの女、白い胸に青白い血管が何本も浮き出てんだろ? あれって、揉んでくれって訴えかけてくる感じがしないか? あの胸を毎日タダで拝めるなんて最高だよな。あとあの女、首が弱いだろ?」

「佐藤さん、そういう話は終わりにして、そろそろ本題に入りませんか」

「つまんねえ男だな。おれら穴兄弟なんだぜ。夜の情報交換くらいしたっていいじゃねえか」

 拓海は強引に話題を変えた。

「計画通り結婚しました。今のところ順調ですよね」

「ああ、確かに順調だ。怖いくらいにな」

 佐藤がニヤリと笑う。計画通りに事が進んでいることに、内心浮き立っているのだろう。それは拓海も同じだった。

「でも佐藤さん、女心って案外そんなものかもしれませんね。外見じゃなくて中身が好きだと言えば、ころっと落ちる。彼女も結局、ただの女だったってことですよ。ただ金持ちの家に生まれたっていうだけで、中身はどこにでもいる女と変わらない」

「ま、そういうこったな」

 いつもならこんなガラの悪い店は一刻も早く退散したいところだったが、この日の拓海はもう少し佐藤といっしょにいたいと思った。計画が大きく前進し、麗子と一つ屋根の下で暮らすことになった今、これまで以上に不安が募っていたから、この問題を共有できる仲間と語り合える時間が欲しかったのだ。

 佐藤は新しい煙草に火をつけると言った。

「ところで、例の薬は飲ませてるのか?」

「いえ……。それがまだ、飲ませるタイミングがなくて」

 新婚旅行中に飲ませることも考えたのだが、税関で薬が見つかるリスクを恐れ持参は控えたのだ。

「そうか。まあ、焦る必要はない」

 拓海はその発言に意外さを感じた。のんびりするなと叱責を受けるかと思ったからだ。だが考えてみれば、佐藤は金に困ってるわけではない。約束の三千万を受け取る必要に迫られてるわけではないのだ。それに今回の計画にしても、金よりも麗子への復讐がおもな目的なのかもしれない。あるいは、退屈な日常からの逃避か。いずれにせよ、金に困っていればもっと急かしてきたはずだ。

 佐藤がいつになく真剣な表情で言った。

「いいか。一滴ずつだ。一滴ずつ、あの女に飲ませるんだ。あまり早く死なれたら、あんたに変な疑いがかかるからな」

 拓海は小さくうなずいて見せた。

 目の前の男を心から信頼しているわけではなかったが、計画のパートナーがこうも慎重派なのは心強かった。それでも、今後のことを思うと気が重かった。薬の検証には美穂が手を貸してくれたが、次は自分が動かなければならない。いざ自分が手を汚すとなると、言いようのない不安が押し寄せてくる。同じ立場になってはじめて、美穂がどれほどのプレッシャーを感じていたのかを実感した。彼女にこんな思いをさせていたのかと思うと胸が張り裂けそうになる。

 美穂への罪悪感に苛まれていたところで声がかかった。

「例の薬なんだが、一つで足りるとは思うが、念のためもう一つ用意しておきたい。希少な薬だから、手に入るときに確保しておいたほうがいい」

「ええ、ぼくもそう思います」

「でな、桜井。今はおれよりも、あんたのほうが金を持ってる。今度はあんたが薬代を用立ててくれないか」

「いくらですか?」

「前に言わなかったか? あれ一つで三十万だ」

 その金額に疑念を抱いたが、薬の効果を考えれば妥当とも思えた。

「三十万ですね。わかりました。次会うときに用意しておきます」

「さすが百万ももらってる男は違うな。もっと吹っかけてもよかったか」

 拓海は相手の嘲笑に苛立ちを覚えた。

「佐藤さん、あんまり調子に乗らないでくださいよ」

 その瞬間、佐藤の目の奥で怒りの火花が散った。拓海は軽率な発言を即座に悔やんだ。

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