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【猟奇的サイコスリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第四章 闇堕ちする男

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40/61

報告

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

「佐藤さん、ようやく婚約まで漕ぎ着けましたよ」

 拓海がそう報告すると、相手は満足げな笑みを浮かべた。

 薄暗い地下のバー。いつもの密会場所は、相変わらずの雰囲気だ。見た目からしてイカれているような連中であふれ返っている。近くの席では、白いタンクトップ姿の痩せた男がテーブルを叩きながら絶叫している。黒いTシャツを着た店員たちは、我関せずといった様子でその光景を退屈そうに眺めているだけだ。

 拓海は騒々しい連中を意識から締め出し、先日の出来事を佐藤に語って聞かせた。

 稽古中に麗子から連絡を受けてマンションに駆けつけると、事前に佐藤から聞いていた通り、寝室にいた麗子は火傷を装った顔で出迎えた。拓海はそこで、だまされていることを知りながら永遠の愛を誓い、その勢いのままプロポーズをして、見事に目的を果たしたのだ。

「すげえ顔だっただろ?」

「ええ。事前に知らされてなかったら、ぼくも佐藤さんと同じようにだまされていたかもしれません。あの顔は、本当に手が込んでましたから」

「だろ? おれもあれを見たときはぶったまげたかんな。マジで心臓が口から飛び出しそうになったぜ」

「実は、事前に頭の中でシミュレーションして、彼女にかける言葉を用意してたんです。でも、あの顔を見た瞬間、素で驚いて用意してた言葉を全部忘れてしまって。おそらく、佐藤さんと同じ反応だったと思いますよ」

「まあ、誰でもそうなるよな」

「あ、ところで佐藤さん、例の薬を使い切っちゃって……」

 本当はまだ少し残っていたが、予備を確保しておきたくて嘘をついた。

 とたんに、佐藤の目が輝く。

「てことは、誰かに試したんだな?」

「ええ、まあ……」

「で、どうだった?」

 拓海は一拍間を置き、重々しい口調で答えた。

「……どうやら、あの薬は本物みたいです」

「だから最初からそう言ったろ? 念のため聞くが、疑われない相手を選んだんだろうな?」

「ええ、まあ」

「ちなみに、誰に使ったんだ?」

「それは言わないでおきます」

 拓海がはぐらかすと、佐藤は不敵な笑みを浮かべた。

「まあ、それもそうだな。余計なことは知らないほうがいいか。いずれにせよ、これであんたも安心してあの薬を使えるってわけだ。で、いつあの女と籍を入れるつもりだ?」

「来週にでも婚姻届を出す予定です」

「おお、そうか。いよいよ、おれたちの計画が本格的に動き出すってわけだな」

「ええ」

 佐藤が満足そうにビールをあおる。拓海も少なからず興奮していた。これほど気分が高ぶったことは、これまでの人生で記憶にないほどだ。

 佐藤がビールジョッキを手に続けた。

「もうあの女はあんたの(とりこ)だろうな。だってそうだろ? あいつはこれまで何人の男を試してきたと思う? 一人や二人じゃないと思うぜ。過去の男が全員拒否ってきた中で、あんただけが受け入れたんだ。惚れないわけがないだろ」

「まあ、そうかもしれませんね」

「あんな顔でも愛せる男なんて普通いないぜ。顔は関係ないなんて言ってる連中だって限度があるに決まってる。ブス専といえども、許容範囲はせいぜい(ちゅう)()ってとこまでだろ」

「まあ、そうでしょうね」

 視線の先では、スキンヘッドの男がテキーラの瓶を一気飲みしていた。あと先考えない連中のやることだ。今はよくても、あんな無茶な飲み方を続けていれば肝臓はいずれ悲鳴を上げるはずで、あのスキンヘッドの男がやつれ果てた姿で透析(とうせき)を受けている姿が自然と目に浮かんだ。

 スキンヘッドの男がテキーラを飲み干すと大きな歓声が上がる。拓海はため息をつき、視線を佐藤に戻した。

「さっきも言いましたけど、薬を使い切っちゃったんで、新しいのを……」

「もう用意してある」

 佐藤はそう言うと、ジャケットの内ポケットから見慣れた小瓶を取り出した。

「さすがですね」

「ああ、おれは準備がいいんだ。どうせ二つ目が必要になると思って、あらかじめ用意しておいた」

 拓海が小瓶を受け取ると、佐藤が念を押すように言った。

「いいか。今度は必ず一滴ずつにしろよ。新婚早々に大富豪の一人娘が死んだら、変な噂が立ってもおかしくないからな」

「わかってますよ」

 佐藤が真剣な表情で続ける。

「おれだってすぐに金を手に入れたい。だが、ここで焦ってしくじれば、これまでの苦労が水の泡だ。だから我慢が必要なんだ。あの女を少しずつ弱らせていって、あんたが絶対に疑われないようにするんだ。いいな?」

「わかってますよ。ぼくは待つのには慣れてますから、辛抱強くやりますよ」

「それと、屋敷の連中に夫婦仲が悪かったなんて言われてもまずい。だから結婚後も、今まで通り、あの女の機嫌をとっていけよ」

「わかってますって。いい加減、ぼくを信用してください。ぼくはあなたが思うほどバカじゃない」

「だといいがな」

 佐藤は疑わしげな目を向けてから、ビールジョッキを口元に持っていった。

 拓海は手にした小瓶を鞄にそっと仕舞う。これは自分を幸せへと導く魔法の薬だ。だが、あの女にとっては、未来を閉ざす悪魔の薬に違いなかった。

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