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【猟奇的サイコスリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第四章 闇堕ちする男

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38/61

黒装 ①

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

 拓海はコーヒーの入ったペーパーカップを口に運ぶ。

 店内中央の二人掛けのテーブルに腰を下ろしていたが、都心のコーヒーショップはだいぶ混雑していた。万が一の用心のため、拓海はニット帽を目深に被り、普段はかけない黒縁の伊達眼鏡で顔を隠していた。

 窓の外に目をやると、傘を差した通行人が行き交っている。朝から降り続く雨のせいだ。

「たっくん」

 気づくと、美穂がペーパーカップを持ってそばに立っていた。全身、黒一色のコーディネートだ。

 彼女が席に座るなり、拓海は切り出した。

「……どうだった?」

 美穂はすぐには答えず目を伏せる。顔は緊張でこわばっている。大きく息をついてから、ようやく口を開いた。

「問題なかった……。誰も疑ってなかったよ」

「それはよかった」

 拓海はほっと胸をなで下ろす。結果に心底安堵した。

「三か月で、ぽっくり逝ったわけか」

「もともと肝臓が悪かったみたい。あと、煙草もすごい吸ってたし」

「そうか」

 美穂の服装が黒一色だったのは、亡くなった女上司の葬儀に参列した帰りだったからだ。

 表向きの死因は病死。しかし真相は、美穂が数か月にわたり、例の薬を飲ませ続けた結果だった。例の薬の効果を確かめるために、彼女の上司を実験台に選んだのだ。


 計画がうまくいったのは、美穂の職場環境が味方したからだった。給湯室の棚には従業員たちのマグカップが並び、亡くなった女上司も例外ではなかった。

 決心を固めた美穂に拓海が例の薬を渡すと、彼女は誰よりも早く出社するようになった。そして無人の給湯室に入り、女上司のマグカップに毎日三滴ずつ薬を垂らしていった。三滴にしたのは、効果を早く確認するためだ。

 最初の数週間は目立った変化はなかった。しかし、一か月を過ぎたころから女上司は体調を崩して仕事を休む日が多くなり、美穂がさらに薬の量を増やすと、みるみる体調を悪化させていった女上司はついに入院することとなり、二週間後には病院のベッドで息を引き取った。

 期待通り、死因は病死として処理された。これで次のステップに進むための安心材料が手に入った。

 しかし、薬の効果を実証できたのはよかったが、拓海は美穂の精神状態が気がかりだった。何せ、罪のない一般人に手をかけてしまったのだから。

「美穂、だいじょうぶか? その、気持ちの面で……」

「あたしのことなら心配いらないよ。言ったでしょ? 殺したいほど憎んでたって」

「まあ、そうだけど……」

 美穂は気丈に振る舞っていたが、顔はまだ青ざめたままだ。そんな顔を見て、拓海の胸に改めて罪悪感が募っていく。

 拓海が黙っていると、美穂が周囲を気にするように声を潜めて言った。

「でもほんと、死んでくれてせいせいした。みんな口には出さないけど、あたしと同じ気持ちだと思う。何度も言ってるけど、あの人、信じられないくらい性格が歪んでたから死んで当然だったと思う。だからあたし、あの人に対して可哀相だなんて気持ち、これっぽっちもないから」

 気持ちを吐き出したことで少し落ち着いたのか、青白かった顔に赤みが差し始めていた。彼女はさらに続けた。

「今回は急いでたからあれだったけど、本音を言えば、もっと苦しめてやりたかった……。あの人のせいで辞めた人もたくさんいたし、あたしだって何度辞めようと思ったか……」

 美穂の顔が怒りで歪む。過去のいやな記憶がよみがえったのだろう。

 聞いた話では、死んだ五十代の女上司は会社の古株で、二十人ほどの小さな職場で好き勝手振る舞っていたらしい。些細なことで機嫌を悪くし、社内の空気を険悪にしていたという。五十代で独身、結婚歴もない。となれば、性格が歪むのも当然なのかもしれない。社長以外には挨拶すらせず、出社してもろくに仕事もせずに一日中ネットサーフィンに耽っていたそうだ。美穂は一度、その女が女性専用風俗のサイトを閲覧しているのを目撃したことがあるという。それを見たことで、男っ気がまったくない女上司に悲壮感がない理由がわかったと語っていた。定期的に男を買うことで、心の隙間を埋めていたのだろうと。人肌に触れることは精神安定剤の代わりになる。だが、美穂はこうも言った。金で買われた男は気の毒だったろうと。肉を好むからか女上司は加齢臭がひどく、歯も肌も異様に汚らしい上に、身体はぶ厚い脂肪で醜く覆われていた。仕事とはいえ、そんな相手と肌を合わせるのは地獄だったに違いないと。

「もう二度と、あの顔を見なくて済むと思うと……」

 美穂の顔に生気が戻っていた。大仕事を終え、肩の荷が下りたのかもしれない。

「たっくんのためだったけど、結果的に自分のためにもなったよ」

「ならよかった」

 拓海は少しだけ安堵した。罪悪感が薄らいだ気がした。

 すると、美穂が黒いポーチをがさごそと漁り出し、やがて例の小瓶を取り出してテーブルの上に置いた。

「……まだ少し、残ってるから」

 美穂がこわばった笑みを浮かべた。

 拓海は小瓶に目を向けた。液体が底から四、五ミリほど残っていた。

「次は、ぼくの番ってわけか……」

 拓海は自分の唇が震えるのを感じた。

 その緊張を察したのか、美穂が励ますように言った。

「だいじょうぶだよ。飲み物に入れるだけだから、罪悪感なんて感じないよ」

「そうか……」

 拓海はしばらく無言で小瓶を見つめ続けた。

 やがて、美穂が切なげな表情でぽつりと言った。

「たっくん、もうすぐ結婚しちゃうんだね……」

 拓海は彼女の気持ちを察して胸を痛めた。佐藤にはまだ伝えていなかったが、先日、麗子が火傷を装った顔で試してきたとき、拓海は偽りの愛の言葉で彼女の心をつかみ、婚約までこぎつけていた。

「ああ、薬の効果がわかったんだ。もう躊躇(ちゅうちょ)する理由はない」

「だよね……」

 美穂は今にも泣き出しそうな顔になっていた。

 拓海は目の前の小瓶をつかむと言った。

「美穂、これからが本番だ」

「うん……」

「これから本格的に計画が動き出す。まだまだ君の助けが必要になる」

 拓海は彼女の承認欲求を刺激し、沈みかけた心を奮い立たせようとした。

 美穂が怯えた表情で声を震わせる。

「……たっくん、あたし何だか怖い」

「ぼくもだ。だけどもう、あとには引けない」

「うん、そうだね……」

 拓海は冷めたコーヒーを飲み干した。喉がひどく渇いていた。今は冷えたビールを一気に喉に流し込みたい気分だった。

 美穂の手を取ると、拓海は言った。

「しばらく会えなくなるんだ。今日は一晩中、いっしょにいよう」

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