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【猟奇的サイコスリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第三章 悪魔的策略

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31/69

ひらめき ②

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

 午後六時を少し過ぎたころ、佐藤はコーヒーショップをあとにした。

 三十分後に会社に着くと、佐藤はノートパソコンを開き、事務処理をダラダラと続けた。気づけば八時を回っていた。週の始めということもあり、今日は遅くまで残業する気にはなれなかった。

「早く帰るんだな」

 帰り際、社長にそう声をかけられた。終業時間はとっくに過ぎているというのに、ずいぶんな言い草だ。佐藤は卑屈な愛想笑いを浮かべてオフィスをあとにした。


「ったく、イラつくな!」

 ビルの外に出たとたん、憤りを声にして吐き出した。月曜日だったが、今は飲まずにはいられなかった。とっくに夕食時を過ぎていたが、昼に食べた280グラムのステーキが胃の中にまだ残っていて空腹は感じなかった。今は固形物よりも、アルコールを強く欲した。

 会社から遠ざかるため、タクシーで渋谷へ向かった。十分ほどで渋谷に着くと、渋谷警察署の近くで降り、いきつけのワインバーを目指す。最近はストレスから酒量が増えていたが、今後ますます増えていきそうな勢いだった。それでも、不快な気分をてっとり早く解消するには酒がいちばんだった。

 国道沿いの歩道を歩いていると、スタンド型の看板が目に留まった。いつもは素通りしていたが、どうやら年季の入った雑居ビルにカフェバーが入っているらしい。佐藤はどことなく惹かれ、ふらっとビルの中へ足を踏み入れた。 

 乗り込んだエレベーターはとても狭く、カビ臭さが鼻をついた。また上昇中、不気味な軋み音が絶えず響いていた。目的の階で降りると、エレベーターを出たすぐ左手がエントランスになっていた。佐藤を迎え入れるべく、人感センサーに反応したガラス製の自動ドアが左から右へと開いた。

 店内はこじんまりとしていて薄暗く、横に長い作りだ。カウンターとテーブル席を合わせて三十席ほど。客はまばらで、立地的にも常連しか来ないような雰囲気だ。

「いらっしゃいませ」

 カウンターの奥から、白シャツの店員が声をかけてきた。すらっとした長身の男で、端正な顔に薄い無精ヒゲを生やしている。

「ここ、煙草吸える?」

「ええ、電子タバコなら」

 佐藤はカウンター席に腰を下ろし、電子タバコを取り出した。注文を促され、ウォッカトニックを頼む。

 カウンター席には先客がいた。ベージュのスーツを着た二十代後半くらいの女で、会社帰りのOLといった雰囲気だ。少し目が吊り上がっていて、きつめの印象を受ける。女性客はちらりと佐藤に顔を向けてきたが、すぐに関心がなさそうに視線を外してドリンクに口をつけた。

 カウンターの奥は厨房になっていた。キッチン担当らしき若い男女が談笑している。客が少ないからヒマなのだろう。二人とも私服のようなラフな格好だ。

 佐藤の左側に座る女性客は、白シャツの店員に熱心に話しかけていた。

「タクミさん、わたし、次の舞台も絶対に見にいくからね」

「ありがとう。よかったら友だちも誘ってよ」

 この会話から、店員の男が演劇か何かに携わっていることがうかがわれた。女性客は彼のファンなのかも知れない。男はルックスがいいので、裏方ではなく演者だろうと佐藤は推測した。

 注文したウォッカトニックがカウンターに置かれ、佐藤はさっそくグラスを口に運んだ。

 アルコールが喉を通る感覚を味わいながら今日の疲れを癒していくが、距離が近いため、女性客と店員の会話が自然と耳に入ってくる。二人のやりとりから、白シャツの店員はやはり役者をやっているようで、かなり本格的に活動しているらしいことがわかった。女性客はうっとりとした表情で彼との会話を楽しんでいた。

 一時間ほどして女性客が帰ると、カウンターに残った客は佐藤だけになった。空いたグラスを見て白シャツの店員が声をかけてきた。

「おかわり、どうです?」

「ああ、頼む」

「また同じもので?」

「ああ」

 男は手際よく新しいドリンクを作り始めた。

「この店、初めてですよね?」

 出来上がったドリンクをカウンターに置きながら男が声をかけてきた。

「ああ、たまたま通りがかったんだ。いい店だな」

「どうも。オーナーのセンスがいいんですよ」

 男は謙遜するように笑って答えた。

「さっき話が聞こえてきたんだが、あんた、役者やってんの?」

「ええ、まあ、売れない役者ですけど」

 男は頭をかきながら、自嘲気味に口元を緩めた。

「次の舞台が近いんだって?」

「あはは、丸聞こえだったんですね。まあ、この距離なら当然か」

 苦笑を浮かべる男に、佐藤はさらに質問を続けた。

「もしかして、主演なの?」

「ええ、まあ一応」

「あんた、顔がいいから、ファンとかいそうだな」

「そんなことないですよ」

 男は苦笑しながら照れくさそうに頭をかいた。

「さっきの客なんて、あんたのファンなんじゃないのか?」

「どうなんですかね。何度か見に来てくれてはいますけど」

 ここでふと、佐藤の脳裏に〝新庄麗子〟の顔が浮かんだ。そして次の瞬間、天啓のようなひらめきが頭をよぎった。

「……そうか。あの女はまた、きっと別の男でも試すはず」

「え、何か言いました?」

「いや、何でもない」

 白シャツの男は怪訝そうに小首を傾げたが、それ以上は追求してこなかった。

 佐藤は新庄麗子と遭遇した場面を思い起こす。彼女は満面の笑みで高級ブランドショップから出てきて、移動は運転手付きのリムジンだ。佐藤は怒りで身体が震えた。特殊メイクか何かで火傷を装い、あざ笑うかのように自分を試してきた彼女に殺意すら覚えた。思わず、どんとカウンターを強く叩いてしまう。

「……くそっ。だまされっぱなしじゃな」

 白シャツの男が視線を向けてきたが、今度は何も言わなかった。

 佐藤は電子タバコの煙を吐き出すと、グラスを拭く男に目を向けた。

「役者のほうは、長いことやってんの?」

「ええ、そうですね。学生時代からだから、もう十年以上になります」

「なら、演技には、それなりに自信があるんだろうな」

「いえ、そんなこと……。ぼくなんて、まだまだですよ」

 そう謙遜する男を、佐藤はじっと見つめた。万人受けするような甘いルックス。そこに演技力が加われば——。

「おれもあんたの舞台、今度見に行ってみようかな」

 佐藤がそう言うと、男の顔がぱっと輝いた。

「本当ですか? ぜひ来てくださいよ!」

「じゃあ、連絡先、教えてもらえるか?」

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