予想外の反応②
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
拓海はタクシーから降りるなり、マンションのエントランスへと駆け込んだ。モダンな造りの低層マンションだ。
麗子の部屋を訪れるのは今日が初めてだ。オートロックの操作盤に、あらかじめ伝えられていた部屋番号を入力すると、インターホン越しに麗子の弱々しい声が聞こえてきた。
「……部屋の鍵は開いてるから」
「わかった」
オートロックのドアが開くと、拓海は足早にエレベーターへ向かった。
四階で降り、彼女の部屋へと急ぐ。412号室の前で立ち止まり、ドアノブに手をかける。言葉通り鍵は開いていた。
「麗子!」
部屋に飛び込むなり、拓海は彼女の名前を叫んだ。ところが、彼女の姿は見当たらず、呼びかけにも反応がない。
リビングへ進むと、少しだけ開いたドアが目に入る。間取りからして寝室だろう。迷うことなくその部屋を目指す。
そこはやはり寝室だった。照明は点いておらず、室内は薄暗かった。
「麗子!」
ダブルベッドの上に、麗子の姿があった。上半身を起こし、拓海のほうをじっと見つめている。
しかし、その顔には包帯がぐるぐるに巻かれ、露出しているのは右目と口元だけだ。
「麗子、何があったんだ!?」
拓海はベッドへ駆け寄った。
麗子が弱々しい声で答える。
「お料理してるときに、キッチンで転んで……。それで熱湯を……頭から……」
「そ、そんな……」
「命には別状ないの……。でも……火傷のせいで……」
麗子は声を震わせ、やがて嗚咽を漏らした。
拓海は彼女の背中に手をそっと回す。彼女の震えが手のひらを通して伝わってくる。背中をさすりながらかける言葉を探していると、麗子が顔を上げた。
「……拓海さん、覚えてる? どんなことがあっても、わたしのこと愛してくれるって」
「ああ、覚えてるよ」
すると、麗子が手を顔の包帯に持っていく。
「拓海さん、驚かないでね」
彼女の右手が、何重にも巻かれた包帯をほどいていく。
拓海は生唾を飲み込んだ。これから目にするであろう彼女の姿を想像して緊張が高まっていく。
そして数秒後——包帯がほどかれ、麗子の変わり果てた素顔が露わになった。
「……!」
変貌した姿を見にした瞬間、拓海は思わず息を呑んだ。それは想像をはるかに超えるおぞましい姿だった。
右半分の顔は赤黒くただれ、左目は完全に塞がっている。無傷の右側とは対照的で、その不均衡さが、よりいっそう不気味さを際立たせている。もしも夜中にこの顔が突然目の前に現れたなら、悲鳴を上げて逃げ出していたかもしれない。長くは直視できず、拓海は思わず視線をそらした。
重苦しい沈黙の中、麗子が声を震わせながら言った。
「あのね、拓海さん……。先生が言うには、皮膚の移植をしても、元の顔に戻すのはむずかしいだろうって……。それに、失った髪も、もう生えてはこないだろうって……」
「そうか……」
それ以上何も言えずにいると、麗子が静かに涙をこぼし始めた。寝室の空気はさらに重く沈んでいく。
彼女の傷が想像を超えていたせいで、事前に考えていた励ましの言葉が喉の奥で止まってしまう。拓海はただ彼女の手を握り、うつむくことしかできなかった。
「……拓海さん、もうわたしのこと、嫌いになっちゃったわよね?」
「そ、そんなこと——」
慌てて否定しようとしたところで、麗子が懇願するように声を上げた。
「でも拓海さん、前に誓ってくれたわよね。どんなことがあっても、わたしのことを愛してくれるって!」
拓海はここで深く息を吸い込み、大きく息を吐き出す。そして気持ちを落ち着かせると、彼女の目をまっすぐ見つめて言った。
「ああ、もちろんさ。ぼくはいつまでも、君のことを愛し続けるよ」
「え……」
麗子がひどく驚いた様子で目を見開く。
拓海は彼女を強く抱きしめた。すると、耳元で嗚咽が聞こえてくる。
「麗子、もう泣かなくていい。君のことは、ぼくが死ぬまで守るから」
だが、麗子は腕を振りほどき、拓海の胸を引き離す。
「ん? どうした?」
麗子が正面からじっと見つめてくる。それから念を押すような調子で言った。
「拓海さん、いい? この顔をよーく見て。ほら、わたし、こんなバケモノみたいになっちゃったのよ。髪の毛も、耳のまわりにしか残ってない。こんな姿じゃ、街もいっしょに歩けない。映画に行くことだって、旅行することもできない。それでも、本気で愛してくれるっていうの?」
拓海は、彼女の肩をしっかりとつかみ力を込めて言う。
「ああ、約束したじゃないか。いや、誓ったじゃないか。ぼくはどんなことがあっても君を愛し続けるって。あのときの誓いは口先だけじゃない。それを今、ここで証明するよ。麗子、これからもぼくは、君を全力で愛し続ける」
麗子が目を見開く。その数秒後、彼女の目から大粒の涙がこぼれ始めた。
拓海はそっと手を伸ばし、触れるか触れないかの距離で、麗子の爛れた頬に手のひらを寄せる。
「痛かったろう? こんなひどい火傷を負って……。でも、きっと心のほうはもっと傷ついたよね。その心の傷を、少しでもぼくが引き受けられたら……」
「……ごめんなさい」
麗子が唇を震わせ、か細い声を出す。
「何も謝ることなんてない」
「違うの……、そういうことじゃないの……。実は……」
少し逡巡するような素振りを見せたあと、麗子は爛れた自分の顔に右手を持っていった。
「麗子、何を!?」
彼女は左顎のあたりをぐっとつかむと、まるで仮面を剥がすように爛れた皮膚を剥いでいった。ベリベリと不穏な音を立てながら、ケロイド状の皮膚が引き剥がされていく。やがて、剥がれた皮膚の下から、元の美しい顔が姿を現した。
拓海は息を呑み、声を震わせながら問いかける。
「麗子、これはどういう……」
「ごめんなさい……」
麗子は顔を伏せる。
拓海は少し強めの口調で言った。
「もしかして、ぼくを試したのかい?」
とたんに、麗子が怯えたような表情を浮かべた。まるで、いたずらがばれた子どもが親の叱責に怯えるかのように。
彼女は首を大きく横に振りながら声を上げた。
「違うの、違うの! だます気なんてなかったの! でもどうしても、確信が欲しかったの。どんなことがあっても、わたしのことを愛してくれるっていう……」
麗子は懇願するような眼差しを向けてくるが、拓海はすぐには言葉を返せなかった。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい……。拓海さん、お願いだから、わたしを嫌いにならないで……」
潤んだ黒い瞳が、まっすぐに拓海を見つめてくる。
拓海はそっと彼女の頬を包み込むと、努めて優しい口調で語りかけた。
「もう、こんな真似はしなくていい。ぼくを試す必要なんてないんだ。だってぼくは、もう君なしじゃ生きられないほど、君のことを愛してるんだから」
「ああ——!」
感激したように、麗子が声を上げた。
「麗子、結婚しよう」
「え!?」
突然のプロポーズに、麗子が驚いたように目を見開く。
拓海は続ける。
「あの写真展で君を一目見たときから、運命の人だと感じていたんだ。だから、結婚するなら君しか考えられない。絶対に幸せにするから、いっしょになろう」
「ああ! 拓海さん!」
麗子は声を上げると拓海に抱きつく。そして、独り言のように耳元でささやく。
「パパ……。この人となら、いっしょになってもいいよね……」
しばらく無言で抱き合い、互いの温もりを確かめ合う。
やがて、麗子が伏し目がちに口を開く。
「……拓海さん。実はまだ、隠してることがあるの」
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