やる気がでないときに作業を進める RPG
「さて、みなさん、今日はやる気が出ないときに作業を進める方法を紹介しましょう。従来より、やる気がでないときは、やる気なんてやってから出るもんなんだよ、私達高校生なんだよ、青春なんだよ、やる気なんてやったら出てくるんだよ by 単純なバカでありたい、と言われてきましたが、そう、いまの私達は高校生でもないし、青春でもありません。果たして、やる気をどうしたら獲得できるのでしょうか?」
「あの、私、高校生で受験生なんですけど」
「あ、そうですね。高校生で受験生の方は、もうやるしかないので、やる気がないとかそういう問題ではありません。やるしかないので、お引き取り下さい。この講座は、高校生以上のやる気がなかなか出て来ない大人の方を対象にしています」
「え? それでは困るんですけど。受験日は近づいてくるし、時間が近づいてくるし、でもやる気がでないと受験勉強なんてできないし、どうしたらいいんでしょうか?」
「ああ、そうでしたか。そうですね。切羽詰まってますよね。時間が迫っていますよね。期限が迫っているわけです。そういう場合はですね、やる気は関係ないので、とにかくやるっきゃない!で十分です」
「えええ? でも、それって単純なバカになっちゃうんでしょう? それだと受験勉強として困るし、バカだと合格できないし。どうしたらいいですか?」
「いやぁ、そうですね。もうひとつのやる気を出す方法として Just do it! という方法があります。とにかく、やるっきゃない! やるしかない! やるっきゃない! と唱えます。youtube にも動画があるから "just do it" で検索してみてください。美術大学の先生がマッスルな形で応援してくれますよ。ちょっと、やる気が出てくるかもしれません」
「あ、それは、さっきみました。あの、マッスルな人が、やるっきゃない! やるしかない! と言っている割には何をやらないといけないかはっきりしないので、やる気ってのは伝わってくるのですが、そのまま勉強に繋がらないんですよね。Just do it の動画を1時間ほど見続けてもやる気が湧いてきません。困ります」
「そうですね、やる気が出るといって、実際にやる気を出したといっても、何をやるかが問題になるので、そこをはき違えてしまうと、やる気がでても実際の行動に移らないことが多いですね。あの授業はですね、「あれこれ悩んでいる暇があったら、とにかく手を動かせ! 絵を描くなり、彫刻を始めよ。事前に考えるよりも、とにかく始めるのだ」という精神なので、やる気がでるというよりも、スタートラインを最初にクリアする手法なんですよね。なので、目の前に問題を置いて、そこから Just do it! でスタートするのがいいんです。布団の中でとか、部屋の真ん中で大の字で寝ころびながら、Just do it! と唱えても、実際に何かができるわけではありません。まあ、習慣的に "やる気" ってものが創出されるわけですが、それが行動に移らないということですよ」
「行動ですか...この場合は、受験勉強ということですか?」
「そうですね、受験勉強がなんのためにやるのかわからない、というのではなくて、受験日が迫っているのにやる気がでない、という場面の限定なんですけどね、似た感じではあります。この場合、受験日が迫ってきている、という精神的な不安...といいますか、頭の働きがそれでいっぱいになってしまうのが問題なのです。それだけで頭がいっぱいになってしまうから、他に何か考える余裕がなくなる。これは "やる気" すら考えることもできなくなる。そういう現象ですね。強迫観念...というほどでもないですが、何かと締め切りばかりを意識してしまうと、そこの締め切りに遅れたらどうしようかという気持ちだけが先行してしまって、他のことに手がつかなくなってしまうんです」
「それは、精神異常とか、そういうことですか?」
「いやいや、単なるストレスによって頭の働きが鈍くなっている状態ですね。そもそも、頭の中の働きというのは脳内物質の循環によって決まっているものですから、その物質が減少してしまえば、頭の働き自身が遅くなってしまうのです。ちょうど、新型コロナウィルスの後遺症みたいな現象です。そういう場合は、なんらかの治療が必要なのですが、受験とか仕事の締め切りとか、漫画の原稿の締め切りみたいな感じでストレスがかかっている場合は、"締め切り" を気にするあまり先に一歩も進められないという状態になってしまいます。一見すると、ストレスによって頭の働きが鈍くなっているように思えますが、いえ、先の後遺症のような形とは違います。頭の働きは正常なのですが、締め切りというものを考えることに脳内の労力を費やしてしまって他へ廻す余裕がなくなってしまうだけです。なので、そういう場合は、締め切りそのものを無くしてしまえばよいのです」
「えーと、締め切り...というか、受験日はなくならないのでそうもいかないんだけど...」
「ええ、そうですね。受験日とか漫画の原稿の提出日とか、年末調整の提出日とか、確定申告の提出日のような、巨大な締め切りに対してはなくなりません。現実的なものですし、避けられるものではありません」
「じゃあ、どうしたらいいんですか?」
「こういう場合は、大きな締め切りに囚われてしまうので、もっと小さな締め切りを別に置くのです」
「?」
「例えばですね、2月頃に受験日があって、それまでに勉強しないといけない、という大きな締め切りがどーんとあると、圧迫感が出てきてしまいますよね。しかも、巨大な敵のようなもので、それは簡単に倒すことはできない。一気に倒そうとしても、HP は足りないし、装備も足りない。それで大丈夫か? 問題ない。って訳にはいかないのです」
「そうですね。受験勉強って、範囲が広いし、何をやったらいいのかもわからないし、時間も足りないし、どうしたらいいのかわからない」
「そうなんです。ゲームのように計画を立ててとか、ステップを切り分けてという方法もあるのですが、それって計画そのものを立てるのが大変なのです。計画を立てるのにやる気が必要だし、受験勉強だけでやる気がそがれるのに、さらに計画を立てるなんて無理ですよね。なので、無計画でもいいから、ちょっとだけ進むステップを考えるんです」
「え? 無計画でもいいですか?」
「まあ、そうですね。実際は無計画ではいけないのですが、何かを進めるという形で一歩進むというのは別に悪い事ではないのです。確かに、達成しないといけないプレッシャーはありますが、ちょっとだけ進めておくというのが重要ですね。実は、そこには完全な負けもないし、完全な勝利というものもありません。たとえば、1日だけとか、半日だけとか、午前中だけとか、ちょっとした目標を決めるのです。そして達成するのですね。そうすると、脳内としては、長期的なプレッシャーから解放された状態で、何かを達成できた感覚、つまりはドーパミンが分泌される状態になります。一種の快楽物質みたいなものです。その循環として、やる気のためのアドレナリンが分泌されやすい循環を作ることができます。プロのスポーツ選手のような一気にパワーを出さないといけない場合は、Just do it! で、アドレナリンを出すことが可能なわけですが、一般の人には難しいものです。ですから、何かをクリアするという達成感を自分に与えるわけです」
「あ、そうか、なるほど。ちょっと簡単めな問題を解くとか、知っている過去問をわざわざ解くとか、そういうことを最初にちょっとだけやってみるわけですね」
「そうです。そのスタート自体は受験勉強としてはあまり意味がないのですが、その時に出てくるドーパミンの分泌をうまく活用して、次のステップへつなげるという形ですね。ちょうど、エンジンのスターターのようなものです。最近のエンジンは、キーを差し込めばスタートしてしまいますが、最初の着火とピストンの回転にはそれなりのエネルギーがいるものです。完全に何もエネルギーがない状態でスタートはできません。最近のエンジンでも電気的なエネルギーを必要としています。その原理は、物理法則ですから脳内でも一緒ですよ。いや、着火現象というわけではなくて、システムダイナミクスという循環の状況がですね...えーと」
「あ、先生、ありがとうございます! なんとなく分かりました! さようなら」
「ええ、そうですか、それは良かったですね」
高校生が帰ったあと、俺はたくさんの NPC の講演者の前で呟いた。
「ああ、えっと、何を話そうとしていたんでしたっけ。ちょっと、やる気...は出たのですが、HP がね...減ってしまったので、しばし宿屋で休憩...」
魔王を倒すにはまだまだ時間がかかりそうである。
【完】
Shia LaBeouf "Just Do It" Motivational Speech https://www.youtube.com/watch?v=ZXsQAXx_ao0




