婚約者と喧嘩が絶えない王子、「話さない婚約者が欲しいものだな」と言ったら話さない聖女が落雷と共に現れたので婚約破棄をした王国の話
「何故貴様はあの女の近くで仕えていて殺さなかったのだ!希代の大悪女だぞ!」
貴族直々に尋問された。
俺はこう答えるしかない。
「だって、私は元掃除夫の従者です。主人は殺せません」
「貴様!英雄になりたくないのか?!」
婦女子を殺して英雄なら狂人と紙一重だ。
英雄と狂人・・・か。
なら、凡人で良いか。
☆回想
彼女の名は誰も知らないとなっている。
何故なら話さないからだ。
唖か?と思われたが、時々、「ウフフフフ」と笑うから違うようだ。
彼女はある日、王宮の庭園に落雷と共に現れた。
腰まで伸びた艶のある黒髪に目は黒い瞳でキリィとして意思の強さを感じさせるが遠くを見ているようだ。ボオ~としているように見える。
そのアンバラスさが不思議な魅力になっていた。
現れた時は裸だ。すぐにメイド達が服を着せて謁見になった。
「こ、これは・・・黒髪、黒目、濃い肌、異界から来られた聖女様だ。伝承と一致している」
賢者にそう判定をされた。
ホルスト王太子殿下は。
「・・・異界から来られた聖女様は王族と結婚するのが慣わし。我は彼女を娶るぞ!」
艶に狂った。
婚約者がいるのに、すぐに破棄し。彼女を婚約者に指定した。
王妃殿下は既に病死。陛下は病で伏せっておられた。
ホルスト殿下が摂政で誰も止める事は出来なかった。
・・・・・・・・・・・・・
取り調べの最中、4年前を思い出した。俺はあのとき、庭園で掃除をしていた。
「貴様!それでも女神教徒か。あの女は魔女と認定されたぞ!」
ドアが開き令嬢がメイド達を伴い入って来た。偉い人のようだ。
「クラウゼ公爵令嬢様・・・!」
「グルカ卿、取り調べご苦労様です。少し彼と話したいのですが・・・席を外して頂けるかしら?」
「しかし、何を考えているか分からない平民ですぞ」
「あら、私の戦闘メイドが信用できないと?」
うむを言わせずに退室させた。
彼女は・・・確かホルスト殿下の元婚約者。
彼女は反乱軍、いや、正義回復軍の旗頭。
メイドが椅子を設置して俺の前に座った。
「ねえ。貴方、あの女の治政はどうだったかしら・・・理不尽で暴虐だったと年代記に記されるわ。平民視点で正直に言って欲しいわ。記録を取らないわ」
これはワナか?
しかし、公爵令嬢も違和感を抱いているのか?
だから俺は正直に話した。
「最高でした・・・」
「あら、役人の多くが職を失い。国費が浪費されたのよ」
「はい、この王国は異常でした。更に異常が重なり。住みやすくなったと思います」
☆回想
彼女は何も話さなかった。
ホルスト殿下が何を話しかけても答えない。
それで道化を呼ぶことにした。笑わせようとしたのだ。
プゥ~!プ~プププ~!
「このヨハンのオナラ芸にございます」
「アハハハハハ、面白いな!」
王都で一番の道化に芸をさせても彼女は笑わない。
しかし、俺が廊下を掃除していたら、
彼女が殿下と共に大勢のメイドたちを引き連れて通った。
俺たち使用人は貴族にとって家具のようなものだ。
距離があったので気にせずに掃除をしていたら、ホルスト殿下が烈火のごとく怒った。
「貴様!聖女様の前で何をしている?隠れないか?」
「申訳ございません!」
俺は膝をついて謝罪をした。
すると、彼女は殿下の袖を掴み。
俺を指さし。「クスッ」と笑った。
「わ、笑った!笑ったぞ!」
いろいろ試したが、俺が掃除をすると彼女の口角が上がった。
常軌を逸していると思うが、俺は彼女の側に侍ることになった。
従者だ・・・
「平民が汗にまみれて働く姿を見ると、聖女様の口角はあがります」
「行幸だ。王都を回るぞ!」
しかし、長い不況と増税で民は職がない。道ばたに座っている大人が多かった。
「ええい。職がなければ、仕事を作るぞ!」
「御意!」
それから狂乱財政が始まった。となっている。
しかし、王宮の増築、庭園の建設が始り。
民は職に困らなくなった。
ええ、平民にとっては良い治政です。
王宮のゴタゴタなぞ。興味ございません。
・・・・・・・・・・・・・
ここで公爵令嬢が口を挟んだ。
「あら、でも、諫言をした財務卿は処刑、財務関係はガタガタよ」
「それでもです」
「では、彼女が化け物でも?」
「ええ、それでもです」
「何故?貴方はそこまで彼女を信頼するのですか?」
「それは、俺の仕事を認めてくれたからです。あの笑いは微笑みでした」
「分かったわ。もういいわ。貴方たちを釈放するように手配します」
「有難うございます」
・・・・・・・・
☆公爵令嬢視点
私は諸候連合軍の本部に戻った。
彼女の治政は王都の貴族たちに取っては苛政だったが民には好評だったと確信した。
ホルスト殿下は民を愛したが・・・
『殿下!民が窮乏しております』
『税金を集めて対策する役所を作るぞ!』
『お止め下さいませ。民の窮乏はそれが原因でございます。似たような役所がいくつもありますわ』
『女が政治に口を出すな。ああ、話さない婚約者が欲しいものだな』
殿下とは喧嘩が絶えなかった。
役人たちも。
『期限内に予算を使い切るぞ!』
『財務卿、新しい税金を考えました』
『ふむ。民はまだまだ余裕だ。ゴミ捨て場に芋の切れ端があった。食べ物を捨てる余裕があるのだ』
手段と目的をはき違えるようになった。
国政のための税金が、いつしか、税金を集めるのが仕事になっていた。
竈税、窓税、玄関税、帽子税とあらゆるものに税金がかけられるようになった。
ホルスト殿下は民を愛して民を省みなかった。
あの女は民を省みずに民に愛された。
そして、私は・・・
どうしたら良いのかしら。
「クラウゼ公爵令嬢!この後の指針は・・・」
「税金を復活するわ・・・。但し。漠然とではダメよ。賢者、商会、平民の意見だけではなく諸外国の制度を参考にするわ。特使を派遣して」
「畏まりました」
「完全な公平は無理だけど、それに近いものを作るわ。文官は徹夜を覚悟して」
「「「了解です」」」
彼女が原因で税金を廃止した。
彼女は王宮から王都を見下ろし。民が夕飯を作る煙を見て、『ウフフフフ』と笑ったそうだ。
まだ、煙は少なかった。竈にも税金がかけられたからだ。
1日一食、後は軽食、そんな感じだ。
『民が頻繁に炊事の煙を出すために!全ての税金を3年間無しにする!』
さすがに財務卿は異議を申し出たが。
『殿下!それでは私の仕事がなくなります!』
『ええい。新しい税金ばっかり考えやがって!牢に入れろ!処刑だ』
・・・・・・・・
私はホルスト殿下が作らせた庭園を護衛騎士と、あの掃除夫とメイド、彼女に仕えた使用人たちと回る。
名前は楽園庭園だ。
名前とは裏腹に彼女の悪逆の代名詞でもある。
彼女は木にソーセージや肉、食べ物を吊させ。池になぞらえたタンクにワインやエールで満たした。
民がむさぼる姿を見て『フフフフフフフ』と笑ったそうだ。
「それは事実なの?」
「はい、事実です」
「そう・・・」
それに何の意味があるのか?炊き出しかしら・・・しかし、違和感が拭えない。
「あの公爵令嬢様!ご意見を宜しいですか?」
「許すわ」
背の低いメイドが私に話しかけた。本来なら許されないことであるが、彼女の意図を知りたかった。
「公爵令嬢様は知らないと思いますが・・・」
貴族様、裕福な商人の遊びに、わざとお肉を危険な場所において、民に取らせる遊びが流行しております。
高い場所、落ちたら崖に落ちるような場所です。
それを見て・・・ゲラゲラ笑うのです。命を落とす人もいました。
私の村がそうでした。
「肉のために?命を落とす」
「はい、狩りの出来ない場所では肉は1年に一度食べられるかどうかな地域もあります。タマノマエ様は低い木に沢山お肉を吊して誰でも食べられるようにしました。男女は笑いながら協力してお肉を・・・・・キャア!」
彼女は口を押さえた。
タマノマエ、それが彼女の名前だわ。
これで魔物封じが出来る。術式魔物封じ。真名が分かれば魔物を封じることが出来る。
彼女は魔物だった。
最後、連合軍が王宮になだれこんだとき。
彼女は9の尾を持つ白い狐に変化して
東方に飛び立った。
女神教本部と東方諸国に通達しなければ・・・
ホルスト王子は今も彼女がいなくなったことを牢の中で悲しんでいる。
「アワ、アワ、違うのです。私、何かと勘違いして」
「公爵令嬢様、本当の名はダッキと申します。彼女は適当に言っただけです!私を処分して下さい!」
魔物は時に名前を変えると言うが・・・古い名では封じられないわ。
私は・・・
「あら、ごめんなさい。貴方の話、長くて退屈だわ。聞きそびれたわ。貴方の村を治めている貴族を教えなさい」
とぼけて見せた。
「はい・・・グルカ伯爵様です」
そう、あの掃除夫を尋問していた貴族ね。
排除しなければ、連合軍の中にも敵はいる。
魔物は人の心が映し出す鏡みたいなものだ。
この王国が既に末期だったように。
彼女のせいで滅びるのではない。きっかけだわ。少し早くなっただけだわ。
「そうね。貴方たち。私に仕えなさい」
「「「はい」」」
私は私なりの方法で政治を行うわ。
民を知り民に動かせられない。
民を愛するそぶりを見せずに民意に添い。
民に嫌われることを恐れないで全体を生かす。
そんな君主になるわ。
この後、公爵令嬢は即位した。イーリア女王は、民に畏れられるが敬愛もされる不思議な女王と年代記に記される。
軍学を知るものは正に理想の指揮官だと言う者もいた。
最後までお読み頂き有難うございました。




