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アンリエッタ・ハードカースル、18才。
王都の学校を卒業した。
「あー、いい学校生活だったわ」
アンリエッタは卒業まで学校生活を存分に楽しんだ。
オレンジに近い明るい茶色の髪と、ほぼ同じ色の瞳がキラキラしている。
「家よりずっと楽しかった」
それがアンリエッタの偽らざる本音だった。
父や母から冷たくあしらわれることも、妹と比較されることもない。
「アンリエッタ、剣術は首席だったわね」
親友で伯爵家の娘であるヴァネッサがアンリエッタに声を掛ける。
「ありがとう。ほかは並みだったけどね。ヴァネッサと違って魔法は使えないし」
魔力が無い者もいるので、礼儀作法と座学以外は選択制で好きな科目を選べる。
アンリエッタは体を動かすことが好きで、剣術を選択した。
大会で優勝するほどの腕前で、騎士団からいつでも歓迎すると言われていた。
「馬術と体術もかなり良かったでしょ」
「ありがとう、まあまあね。しばらく会えなくなるわね。寂しいわ。ヴァネッサは婚約が決まってるのよね?」
魔力がある貴族は、卒業前に婚約することが多い。
学校で良い相手を見つけて双方の親の許可がおりればそのまま婚約することになる。そうでなければ卒業後に親が相手を決める。
親の反対で泣く泣く別れるカップルも珍しくない。
「うん、親に認めてもらえて良かったわ」
幸せそうに頬を染める。
ヴァネッサは幸運なことに、学校で良い相手を見つけ、双方の親に認めてもらえた。侯爵家の三男だ。
「おめでとう」
アンリエッタは心から祝福した。
「ありがとう。アンリエッタは、王立騎士団?」
「そうね、後は親の許可を得るだけかな。魔力無しだから嫁ぎ先は無いだろうし、反対はされないと思うけど」
「結婚式には呼ぶわね。準備が色々あるから、しばらく後になるけど」
「楽しみにしてるわ」
二人は笑い合った。
「あーあ、帰りたくないな」
アンリエッタはぼやいた。
「親御さんは相変わらずなの?」
「うん、妹優先で私はいないようなもの」
アンリエッタの瞳が少しだけ憂いを帯びる。
「アンリエッタは強いよね。剣術だけじゃなくて、心も。私だったら耐えられない」
ヴァネッサはため息をつく。
「ここでの生活のおかげよ。ヴァネッサの力が大きいわ。本当にありがとう」
アンリエッタはヴァネッサを抱きしめた。
「私は何も。手紙書くわね」
「私も。元気でね」
後ろ髪を惹かれる思いで、二人は別れた。