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それから数日、クリストフェルとアンリエッタは何となくギクシャクしていた。
ティータイムはいつものようにするのだが、あまり会話が弾まない。
(この前までは普通に会話してたはずなんだけど……どんな会話をしていたか思い出せない)
アンリエッタはため息をついた。
「書類の整理をしてきます」
アンリエッタは、執務室の隣の書庫に逃げ込むように入った。
特にやることがあるわけでもないが、2人で執務室にいると、何かそわそわしてしまう。
以前も仕事中にずっとしゃべっていたわけではないはずなのだが、今は何となく気まずい空気を感じていた。
古い書類の整理をしようとしていると、書類の中から手紙が出てきた。
(何でこんなところに……)
読もうと思ったわけではないが、目に飛び込んできた文字に驚愕した。
「サンドラへ クリストフェルより」
アンリエッタの手が震えた。
すぐに目を逸らしたが、目に入ったいくつかの単語が脳裏にこびりつく。
どう考えても恋文のような内容だった。
(クリス様が書いた手紙……出せなかった手紙と言うこと?)
指先から体が冷えて行く。
見てはいけない。見たくない。
吐き気が込み上げてきた。
アンリエッタは手紙を元に戻し、書庫を出た。
「アンリエッタ? 顔色が悪いようだが……」
クリストフェルはすぐに異変に気付いた。
「申し訳ありません、クリス様……気分が悪くなって。休ませていただきますね」
そう言って、返事も待たずに部屋を飛び出した。
アンリエッタが部屋で休んでいると、すぐに医者がやってきた。
医者はストレスと過労によるものだと診断した。
(医者がヤブと言うわけじゃない……。病気の症状が無いのだから、そう診断するしかないでしょう)
アンリエッタは着替えてベッドに横になった。
驚いたことに、色んな人がやってきた。
執事のトマスや料理長のエマは
「奥様が元気だと思って頼りすぎた」
と泣いて謝るし、イーサンまでやって来て
「そんなに無理をさせていたとは思いませんでした」
と土下座されてしまった。
「アンリエッタ様を休ませてください!」
と、怒ったライナにすぐに追い出されてしまったが。
「アンリエッタ様、何でも必要な物はお申し付けくださいね。何かあったら、そのベルを鳴らしてください。隣の部屋に待機しておりますので」
水差しとグラスを側に置いて、ライナは寝室を出ていった。
ゆっくり休めと言うことなのだろう。
クリストフェルは、来ない。
仕事が終わらないのだろう。
アンリエッタはため息をついた。