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あれからクリストフェルは元気がなかった。
「何かまずいことを言ってしまったかしら」
「アンリエッタ様、どうかされました?」
入浴後のアンリエッタの髪の手入れをしていたライナが、アンリエッタのつぶやきを聞いて尋ねる。
入浴も終わり、あとは寝るだけの時間。
アンリエッタはライナに今日のティータイムの会話を話して聞かせた。
「それは……まあ、旦那様もがっかりなさいますよ」
ライナもヴァネッサに負けず劣らず、はっきり言うタイプだ。
「どうして?」
「旦那様はアンリエッタ様のウエディングドレス姿を見たいのかもしれませんし。私は見たいですよ」
「そうなの?」
ライナの言葉に、アンリエッタは考え込む。
「そうですよ。旦那様は器用な方ではありませんし……今までは忙しくて仕事しかできなかったから、もしかしたら、結婚式で仕切り直しをして、夫婦としての関係を進めるきっかけにしたかったのではありませんか? なかなか初夜のお誘いも来ませんし」
あけすけな物言いに、アンリエッタは反応に困ってしまった。
しかし、言われてみれば確かにそうだ。
まだここに来て3か月程度だが、すっかり今の生活に馴染んでしまい、まるで本当の家族か熟年夫婦のようだ。
もうずっと前からこんな生活をしているような気がしている。
今更新婚夫婦のようにと言われても、どうすればいいのかわからない。
待つのは趣味ではないが、こればかりは進め方がさっぱりわからない。恋愛経験ゼロの身ではハードルが高すぎる。
(剣で倒せる相手なら簡単なのに)
アンリエッタはため息を付いた。
そして、アンリエッタは思い出した。
なぜ自分が結婚相手に選ばれたのか、まだ聞き出せていない。
「おいおい」と言われたが、いつなのだろう。
問い詰めてもよいものだろうか。
最初の頃に何度かそれとなく聞いてみて、なんとなく誤魔化されると言うか、躱される感じだったから、向こうから話してくれるのを待とうと思い、そのまま忘れてしまっていた。
クリストフェルの体調管理、仕事の手伝い、騎士団の訓練と、やることはたくさんあったから。
(よくよく考えると、まだ手を握ったことすらない気がする。向こうが望んでくれた婚約のはずなのに)
一体何が原因なのか。
アンリエッタは考え込んでしまった。