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4-1

気がつけば3ヶ月程が経過していた。

この地に来たのは初春。今は初夏に近づいていた。

北のこの地はまだまだ朝晩冷えるけれども。

居住地を知らせられたことで、ヴァネッサとの手紙のやり取りも復活していた。

遠いので手紙が届くのはせいぜい月に1、2度ではあったが、アンリエッタの楽しみの1つだった。


「親愛なるアンリエッタへ

クリストフェル・スタンウィン伯爵と婚約ですって!?

いつの間にそんなことに!?

1学年上の氷の貴公子って超有名人だったのよ!

氷魔法の使い手は珍しいし、何よりあの美貌!

憧れる女子生徒は多かったんだから。

いつから付き合いがあったの? 私にまで隠してたなんてひどいわ。

今度あったときにたっぷり話を聞かせてもらいますからね!」


時候の挨拶や近況報告のほかに、そんなことが書いてあった。

(有名人? いや、全然知らない)

アンリエッタは首を傾げた。

目の前にいたら

「この剣術バカ!」

と罵られそうだ。

ヴァネッサは伯爵令嬢とは思えないほどはっきりと物を言う。アンリエッタは彼女のそんなところが好きだった。


「そろそろおやつを作らないと。返事は夜か、明日以降にでも書こう」

アンリエッタは厨房へ向かった。

今日はクリストフェルのリクエストでミルクセーキを作る約束だった。


最近ではプリン、ミルクセーキ、アイスクリームを作ることが多くなっていた。

飲み物は、ホットミルク、ロイヤルミルクティー、それから少し値は張るがココアを取り寄せてもらっていて、ホットココアを出すこともあった。

ココアはポリフェノールや鉄分が入っていたはずだ。


ミルクセーキは長崎発祥と言われており、その他の地域では液体だが、長崎ではシャーベット状なのだ。

牛乳と卵黄と砂糖で液体を作り、クリストフェルに雪状の氷を出してもらって、魔法で冷やしてもらいながら混ぜてシャーベット状にする。

(お母さんが長崎の人だったのよね)

母や弟の名前は思い出せないのに、なぜかそんなことは思い出していた。


いつものようにミルクセーキを作り、温かいココアをお供に、2人で休憩する。

何てことの無いこの時間が、アンリエッタは楽しみだった。


「クリス様、私が初めてここに来た頃より、少し顔色が良くなりましたね」

青白かった頬に少し赤味が差して見えて、アンリエッタは言った。こけていた頬も少しだけふっくらしたような気がする。

「うん。体調もいいんだ。少し食欲も出てきたし、前より疲れにくくなった気がする」


質の良い乳製品と卵、蜂蜜、牛肉、キャベツ、その他。

鉄分補給とタンパク質、それに胃の調子を整える作戦の効果が出ているらしく、アンリエッタは気分が良くなった。

「それは良かったです」

「君のおかげだよ」

「大したことはしてません」

そう答えたが、アンリエッタは嬉しかった。


「君が手伝ってくれるおかげで仕事も余裕が出てきたし、疲れにくくなったおかげで仕事もこなせるようになってきた。そろそろ、その……結婚式の話とかを進めようか」

クリストフェルが提案する。

アンリエッタは少し考えてから、

「式は……してもしなくてもいいです。遠いから来る人も大変でしょうし、家族に来てもらいたいとも思わないので」

そう答えると、クリストフェルは拍子抜けした顔をしていた。


「女性はウエディングドレスに憧れるのかと思っていたが……」

「まあ、普通はそうかもしれませんね。私はそうではないと言うだけです。ドレスが似合うとは思いませんし」

「そんなことは無い!」

クリストフェルが力強く否定するので、アンリエッタは面食らった。

「そんなお金を使うならもっと美味しい物を取り寄せたいです」

アンリエッタは別の提案をした。

(もっと栄養をとってほしいから、海の幸とかいいなぁ)

と考えていた。

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