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3-4

アンリエッタは厨房へやって来た。

「エマ! いる?」

料理長のエマを呼ぶ。

「はい、奥様」

最近は、奥様と言われても気にならなくなってきた。

突然厨房にやってきアンリエッタに、料理人たちが驚いている。


「今後、食事のメニューに赤身の牛肉を増やしてほしいの。毎日じゃなくていいし、無理の無い範囲でいいから」

エマにお願いする。

「わかりました。奥様は牛肉がお好きなんですか?」

「え……ええ、そうね……この領地のお肉はとても美味しいわ」

ごまかしつつ領地のことを褒めると、エマは満更でも無さそうだった。


「そうだ、キャベツも!」

確か、胃の調子を良くする成分が入っていたような気がする。

「できるだけ食べやすく細かく切って、サラダにしてお肉に添えてくれると嬉しいわ。こちらのキャベツは甘くて新鮮で美味しかったから。味付けはできれば日替わりで変えてくれる?」

王都で食べるものより美味しかったのは事実だ。


「それから、ちょっとだけ厨房の1部を貸してくれる? 食材も少し」

「かまいませんよ。何が必要ですか?」

「牛乳と卵と砂糖と、あれば蜂蜜と……それから蒸し器の準備を」

「ございますよ。準備します」

エマはすぐに揃えてくれた。


「何をなさるんですか?」

料理人たちが、興味しんしんと言った様子でアンリエッタを見ている。

「ああ、えっと……クリス様とのティータイムに、手作りのお菓子と言うか何と言うか……」

うろ覚えだが、昔弟の好きなお菓子を一緒に作っていたのを思い出したのだ。


冷凍冷蔵技術が発達していないこの世界では、デザートと言えばほぼ焼き菓子だ。

ケーキやクッキーやスコーンのような物は存在する。

すぐに食べる場合は先日のようにフルーツサンドも作れるが、冷やすことはできない。

クリストフェルの好きな冷たくて甘い物は、少なくともこの世界では見たことがない。

おまけにこの北の寒い地では、冷たい食べ物の需要も少なく、発展しなかったのだろう。


プリンは少ない材料で作れる。

卵を溶いて牛乳と砂糖を混ぜて、濾して、蒸す。

分量は適当だ。はっきりとは思い出せない。

確かこんなものだった、くらいでやってみる。

ティータイムは紅茶が定番だが、紅茶はカフェインが入っていて貧血の人にはあまり良くないと習った気がするので、ホットミルクに蜂蜜を入れたものをお供にしてみた。

蜂蜜はミネラルとか殺菌作用とか、色んな体に良い効能があった……はずだ。


「奥様、とってもいい匂いがしますね。見たことがない食べ物ですが、これは何ですか?」

エマに尋ねられたが、「プリン」と言って良いものか悩んだ。

「名前は無いのよ。甘い物が食べたいときに適当に作ったもので……」

何だか嘘ばかりついていて、苦しくなってきた。

「奥様はお料理も上手なんですね」

「そんな、ただの食いしん坊の思いつきよ。みんなが作るご飯のほうがずっと美味しいから」

これはアンリエッタの本音だ。


「できたわ。ホットミルクが冷めないうちに運ぶわね。悪いけど、後片付けをお願いします。お仕事を増やしてごめんなさい。残りは食べていいから」

ワゴンにティーセットを乗せて厨房を出ると、背後から料理人たちの声が聞こえてきた。

「なにこれ、初めて食べた」

「口当たりがいいわね」

「美味しい! 甘い!」

等、好意的だったので安心した。

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