3-3
それから数日は、アンリエッタの1日のスケジュールがルーティン化していた。
朝はまず騎士団の早朝訓練に参加。
昼間は極力クリストフェルの仕事を手伝い、合間に図書室で調べ物をする。
午後のティータイムは必ずクリストフェルと2人で行う。
夕食後も時間があれば図書室で調べ物をする。
そうして日々を過ごしていたのだが、あまり収穫は無かった。
この世界は栄養学があまり発展していないらしい。
考えてみれば栄養素は機械で分析して調べるのだから、魔法が主体で大した機械の無いこの世界では当たり前と言えば当たり前だった。
アンリエッタはがっかりした。
医療もそうだ。細菌やウイルスなどの記述は無い。
この病気の人のそばにいればうつるとか、この薬草が効くとかそう言うことはわかっているようだが。
魔法の治癒術はあるが、怪我の治療が主で、病気にはあまり効果が無いらしい。
病気で失われた体力を回復させることはできるようだが。
栄養に関しても、これを食べたらこれにいい気がするとか、これを食べたらこんな効果があったとか程度の記述はあったが、立証はできないらしい。
それでも人間の本能なのか、騎士団など体を動かす仕事だと肉や魚や卵を食べると体づくりに良いとか、野菜を食べると病気になりにくいようだとか、そういうことは書いてあった。
前世の記憶は未だ全部は戻っていないが、困っているのは、たまに妙なフラッシュバックがあることだ。
例えば、「この領地は北海道のようだ」と突然思ったり。
それから北海道って何だっけ、と思い出すのにしばらく時間をかけないといけなかったりする。
(とにもかくにも、貧血には鉄分よね)
そうは思うが、鉄分が豊富な食べ物をはっきりとは思い出せない。
(前世でもっと勉強しておけば良かった。確か、お肉なんかは良かったと思う。そうだ、レバーだ)
そう思ったが、この世界には内臓を食べる文化が無い。
内臓を食べたいなんて料理長に言ったら、変人扱いされるのが目に見えてる。
(赤身のお肉でも良かったはず……。牛赤身肉の料理を増やしてもらえるように、料理長に頼んでみよう)
それ以外にできることはないだろうか。
うろ覚えだが、弟が極度の貧血と診断されたとき、放っておくと心臓が悪くなると言われた気がする。
体を巡る酸素の量が足りなくなるので、心臓や肺に負担がかかるとか何とか。
(元々丈夫ではない上に少食なせいで貧血になって、心臓に負担がかかって疲れやすくなって、家族を亡くした心労も重なって食欲も落ちて……胃も弱ってるんじゃないかしら)
できるだけ早くなんとかしなけば、どんどん悪化する気がする。
「とりあえず胃に優しくて……食べやすいもの……乳製品は良かったはず……」
アンリエッタはぶつぶつ言いながら、厨房へ向かっていた。