3-1
(暖かさと支え、か……)
アンリエッタは考えるが、どうすればいいのか皆目わからない。
とりあえず、もっとクリストフェルと会話する必要があると思った。
「トマスさん」
アンリエッタは老齢の執事に声をかけた。
「何でございましょう」
アンリエッタから声をかけたのが初めてなので、少し驚いているようだった。
「何か、クリス様のお手伝いできることはありませんか?」
アンリエッタの申し出に、執事は少し考えた後、
「そうですね……簡単な書類の整理とか……あとは、旦那様の気持ちをほぐしてくださると助かります」
「お部屋にお伺いしても、お仕事の邪魔にならないでしょうか」
「来客がないときであれば大丈夫かと思います」
「ありがとうございます。早速行ってきます」
アンリエッタはお辞儀して立ち去った。
アンリエッタはライナにお茶とお茶菓子の準備をお願いした。
それをワゴンに乗せて執務室へ行く。
ノックをすると、
「どうぞ」
と声がした。
「お疲れ様です、クリス様」
アンリエッタが顔を覗かせると、クリストフェルは驚いて立ち上がった。
「何かありましたか?」
執務室を訪ねて来るのは初日以来なので、クリストフェルも驚いたようだ。
「少し休憩しませんか? お茶とお菓子をお持ちしました」
突然の申し出に迷った様子だったが、
「ありがとう、いただくよ」
クリストフェルが微笑むのを、アンリエッタは初めて見た気がした。
「甘い物はお好きですか?」
ここ数日、食事だけは一緒にしていたのでわかるのだが、クリストフェルはあまり食べない。
しかし、デザートだけは完食していることにアンリエッタは気づいていた。
簡単につまめるクッキーとフルーツサンドを用意してもらっていた。
「好きです」
思った通りの返答で、アンリエッタは安堵した。
「急いで我が領地に来てもらったと言うのに、ずっと放ったらかして申し訳ない。聞いていると思うが、両親と兄が急逝して、仕事が立て込んでいるんだ。もう1年経つと言うのになかなか慣れなくて、思うように片付かない。体力も無くて、仕事だけで疲れて式のことも考える余裕が無くて……」
クリストフェルがため息をついた。
「ご家族のことは、本当に……お悔やみ申し上げます」
アンリエッタは目を閉じて頭を下げた。
「いや、いいんだ。本音を言うと、寂しいけど……そこまででもない。本来は兄が家を継ぐ予定で、私は学校に行かされていたから……恥ずかしながら、この家には必要の無い存在だったんだ」
口調も徐々に敬語ではなくなってきて、少しクリストフェルの素顔に近づいた気がした。
そして、自分と同じような扱いだったことに親しみを覚えた。
「私も同じです。魔力が無くて、家に居場所がありませんでしたので、少しはお気持ちがわかると思います」
「ありがとう」
クリストフェルが優しく微笑む。
「いただいていいかな?」
「もちろんです」
クリストフェルがフルーツサンドに手を伸ばした。アンリエッタもそれに倣った。
「ここの乳製品はとても美味しいですね」
重い空気を変えようと、アンリエッタは話題を変えた。
「我が領地の自慢だよ。豊かな自然が美味しい物を育むんだ」
クリームたっぷりのフルーツサンドをひとくち齧って、幸せそうな顔をする。
「でもあの、失礼ですが……クリス様は少食ですね?」
「そうだね、あまり食べるほうじゃない」
「もう少し、ちゃんと食べられたほうが……倒れられるんじゃないかと、心配です」
「よく医者にも言われるけど、食欲がわかなくて。好きな物なら食べられるかもしれないけど……」
「クリス様の好物って何ですか?」
興味が湧いて、アンリエッタは尋ねた。