「僕」視点
僕が逃げようだなんて言うから君は困って無理だと答えた。
一緒に逃げることがどれだけ危険か僕は知っている。
だけど本当の“自由”って君がいて、殺しなんかしてなくて、普通の、ごく普通の毎日を送ることなんじゃないのか。
分かってる。
それが無理だって。
殺し屋の僕らが平和に暮らしたいなんて願いは裏切りで。
組織を裏切って自由になるなんて君が出来るはずないって分かってる。
間接的に断るように、君は私を忘れず生きてくれるのがいいわと言う。
よくない。よくないよ。
でもそれを伝えることはできない。
君の中でもう決まっているもんね。
君は下を向きながら二度と会わないといいわねと溢す。
僕はそれが君なりの気道いだって知っている。
裏切った僕を、相方だった君は必ず探さなければならない。
そして始末しなければならない。
それはそれでいい最後だと思う。
君に殺されるなら本望だ。
...なんて、君に言ったらどうなるんだろうな。
まっすぐ君を見つめる。
君と目が合う。
これも最後なんだなと思うと泣けてきた。
「明日の月は綺麗でしょうね。」
目を潤した君が言う。
それはいつも君が任務で口にする口癖。
殺す、と言うかわりに少しの情けをかけて君が使う言葉だ。
ああ、もう二度と会えないんだろうな。
次に会うときは殺し屋の追手としての君。
殺し屋から逃げた反逆者としての僕。
僕らは背を向ける。
ーこれまでありがとう。
僕らは互いに言葉を交わさずそれぞれの道に歩き出した。