幼馴染は俺の父親狙いだったと思いきや
自慢じゃないが、という言い訳を添えることはやめて、これは自慢なんだだが、俺の父親は超有名作家様だ。新本格、あずみのミステリーといえば、作家あずみの蘆芯の一連の探偵小説の総称となっている。
そして、当然、俺はそんなご大層な作家様のあとをついでーーーー、書くわけない。絶対比べられるわけだし、サッカーしている方が楽しい。小説に興味もないし、親の書いている小説を読むなんて恥ずかしいこともしたくない。たまに映画化やドラマ化されて嫌でも耳に入る時があるが。
「もっとお父さんと仲良くしなよ」
「知るか。あいつ、家にいるとうるさいからって、サッカークラブに入れたんだぞ」
幼馴染の軽いお説教を無視して、グラウンドでリフティングを繰り返す。朝練というより、ただの朝の軽い運動。
「でも、お母さんいなくて大変だったんじゃあ……」
「金に余裕はあったよ。その頃にはもう売れっ子作家、印税生活万歳なんだから」
子供に興味なんてない、書物に生きる人だからな。俺の写真なんて一枚も撮ったことないし、母さんの写真もほんの少し。趣味を仕事にしたような人なのに、完全仕事人間なんだ。
「ほんと、父親嫌いなんだから。そういうの、オイディプス・コンプレックスって言うんだから」
オイディプス・コンプレックスが重度のマザコンによるってこと知ってなさそうだなぁ。
「母親は、とっくの昔に成仏してるから、独占欲なんかないよ。ほら」
俺はリフティングしていたボールを蹴り渡す。幼馴染は危なげなく、それを膝でふわっと受け止めて、胸の上にのせる。
「ぐっ、卑怯な技を」
「手は使ってませーん。まっ、この体勢も疲れるから、はいっ」
幼馴染はすぐにボールを返してきた。
「結局、なぁなぁですませとけば、家庭は平和だよ。喧嘩なんて、中学ぐらいからしてないし」
「それ、ただ、関わってないだけじゃん」
「それも一つの生き方だ。住み分けしないと、争いになるだろう。最近の移民問題と一緒だよ」
「話を大きくしないの。家族なんだから」
家族、家族ねぇ。
ただ一緒の家で生活をしているだけで。成人したらすぐにでも出っていってやるのに。今はただ、それができないから、こうしてるだけ。
ある日のこと。
父親にリビングに呼び出された。遠慮のない大きな声で、何度も。数瞬、無視してやろうかとも思ったけど、それもまた面倒だ。先延ばしは、無駄を増やす。
「なんだよ、父さん」
いつものように父は不機嫌そうにみえるしかめっつらだ。こういう表情しか知らない。父が笑顔を見せるのは、メディアの前だけだ。けど、あんな気持ち悪い顔は見たくもないからテレビや雑誌なんて見ない。
「父さん、再婚することにした」
ビクッと驚くが、すぐに平静を装った。
「よかったよ。俺は何も言わないよ」
事後報告なわけだし。誰と親父が結婚しようが愛人を作ろうが好きにすればいい。どちらかと言うと、顔はいいくせに女癖のない性欲を書物に吸収でもされたような人だけど。
「そうか。じゃあ、今度レストランで一緒に食事をすることになっているから。日曜日の午後七時だ。場所は、品川のいつものホテルの地下の店だ」
「はいはい。それで一緒に暮らすのか」
そこは一応重要なところだろう。まだ高校生なわけだ。もしかしたら俺の方をこの家からどこかマンションに移すのかもしれないが。願ったり叶ったりだ。
「いや、別居だ、予定ではな」
「じゃあ、今とあんまり変わんないだな」
「まだな。いずれ住むかもしれない。その時はその時だ」
「へーい」
話は終わった。
長引かせると、不快な会話が始まりかねない。人間は同じ人間とあまり長くいるべきではない。言うことがなくなれば、欠点探しを始めるのだから、たいがい。長くいるほどケンカになる。夫婦だってそうだろう。
「で、なんで、お前がいるんだ」
「わたしが、ママになるからだよ」
ありえねー。親父、なに、女子高生に、しかも息子の幼馴染に手を出しているんだ。
見損なった。今までも父親としては10点ぐらいの人だったけど、もうマイナス100点だ。どこの世界に、子供の女友達に手を出す父親がいる。ロリコンは死ぬべき。
ああ、やばいな。これ殺意だわ。ミステリだったら動機バリバリだ。親父、完全犯罪のサスペンスものでもないか。実行してやってもいい。実験対象は、作家本人。
「お前も知っていると思うが、お前の幼馴染のーー」
「言わんでいい。父さん、何を考えているんだよっ。そいつ、まだ、色気のカケラもないやつだぞ」
「なにも言わないんじゃなかったのか。わたしが誰と結婚しようが、気にしないんじゃないのか」
「未成年と結婚だったら、誰でも止める。だいたい結婚年齢も過ぎてないし」
「大丈夫。18歳になれば籍を入れる。問題ない」
スキャンダルだろう。週刊誌にスッパ抜かれるぞ。というか、俺の方が週刊誌に情報を売ってやりたい。
「冗談はやめておこうか。再婚というのは嘘だ。来ない可能性をなくすための」
このゴミカス親父。
しれっとしやがって。ニコニコしている幼馴染、お前はどっちの味方なんだよ。
ドッキリ大成功なのか、そういう嫌がらせなのか。
「本題は、サッカー留学しないかという話だ。父さんも忙しいからな。お前がいたら執筆に専念できない」
ああ、そういうこと。体よく、またどっか行ってろと。
金はあるわけだし。
「いいよ。好きにしろ」
「ちょっと、お父さん、そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。素直じゃないんだから」
「事実だ」
「ね、サッカーしたいんでしょ。いい経験になるよ。お父さんはそう思ってーー」
「てか、それで、どうしてお前がこの場にいるんだ。再婚相手じゃないんだろう」
「そ、それはーー」
「お前は、わたしと似て、恋愛を失敗しそうだからな。先に手を回しておこうと思ったんだ」
親父が婚姻届を出す。
「先に書いておけ。留学先で、バカな女に引っかからないようにな」
「よ、余計なお世話だっ!!」
「タラレバはないんだ。わたしももっと早く結婚しておけばと後悔している」
「親父、母さん24歳で俺を産んだはずだよな」
「それでも遅すぎたんだ」
すぐに亡くしたからって、俺に投影されても困るんだが。幼馴染だって、こんな急なのはーー。
「好き勝手しやがって、お前も困るよな」
「ううん、困らない」
って、何を名前を書いているんだ。
「俺は書かないからな」
「書いたからといって、絶対に出さないといけないものじゃない。不安なら書いた後、持っておけばいい」
「仕方ない。一度、ママになってから、出直そーー」
幼馴染が親父に紙を渡そうとしている。
そんなキモい関係ごめんこうむる。たとえ書面上だけでも。
「書けばいいんだろう書けば。これは俺が持っておくからな」
「ああ。好きにしろ」
「って、なんでいまだに3人で暮らしているんだよ」
「だって一人だと寂しいじゃない」
「親父は一人でいたい派だろう」
「いやいや、結構、寂しがり屋でしょ。似た者同士だし」
「親父、再婚しねーのかなー」
「そういうタイプじゃないでしょ」
【後書き】
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思ったより伸びていたようで、まぁ、アイデア的にはあんまりランキングになさそうだからぶち込んでみた作品ですね。
娘じゃなくてお母さんが好きという某ラノベを逆にしながら、一応の着地を幼馴染エンドに。父エンドでは主人公は少女の方にしないと、さすがにね。N◯Rタグでも付けれるような同人になってしまう。
最近ランキングの仕様も変わるようで、どう変わるか把握してないけど。やっぱり、ランキングは停滞しているのかな。あんまり新鮮味がないアイデアを見ること多きこの方。
お読みくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます。