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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

洋風ボーイズラブまとめ

王女が愛する近衛は、俺狙いだったらしい ~婚約破棄で捨てられたのは、王女でした~

作者: さんっち

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


登場人物の王女が結構悪い性格しています。最終的には制裁されますが、苦手な方はご注意ください。



「私、ソフィア・グリムヘッズは、ロイ・ブルーダとの婚約を破棄します!」



歴史ある王立貴族学院、そこでの卒業パーティで響いた第四王女ソフィア・グリムヘッズの声。周囲はざわついているけど、俺は「やれやれ」としか思わない。またいつもの自己中か、呆れるぜ。


国王にとっては6人目の子供ともあり、そこまで厳格に育てなかったらしい。よく言えば無垢で自由奔放、悪く言えば我儘で自己中心的。そんな奴に婚約破棄を言われてるのが、俺、公爵令息ロイ・ブルーダだ。


既にお互い18歳。この卒業パーティで正式に婚約発表する予定だったんだが・・・当然俺は、何も聞いてない。冷静を装い、彼女に問いかける。


「ソフィア王女、突然何事ですか。突発的に宣言されても、混乱を生むだけです。順を追って説明を・・・」


「お黙りなさい!私はずっと、貴方が気にくわなかったんです。公爵家への金欲しさで、王家と繋がったのでしょうに。自らの立場を弁えず、先程のように私に指図ばかり!本当に身の程知らずですこと」


まぁ、前半は事実。ブルーダ公爵家は、父さんが倒れてから急速に衰えた。この婚約で得られた資金や繋がった事業で、何とか実家は回せている状態だ。


でもこの婚約は、元々は王家たっての希望。あまりにも偏ったソフィアの知能と性格を何とかするため、幼少期から秀才と呼ばれた俺に見てほしいと。資金が欲しい公爵家と王女を何とかしたい国のため、俺は話を受けた。


だからこそ、今まで何度も忠告してきたんだ。自分勝手に権力を使うな、むやみに異性と交遊するな、金は有限だから無駄遣いはするな、とか。それさえも俺を悪に仕立て上げる材料かよ。身の程知らずはどっちだっての。


「それに貴方は、私を無下に扱いましたね。茶会も誘いも大半断り、出ても素っ気ない顔で相づちを打ってばかり。美しい王女である私の夫が、暗い色の髪に大して整ってない顔を持つ、暗い性格の男なんて耐えられません!」


自覚はしている、無表情で話し下手だと。変えようと努力はしてきたけど、やっぱり無理で。ここは俺の弱さだ、甘んじて受け入れる。


でも茶会や誘いを断っていた理由は、ソフィアが怠けたか押しつけた執務を代理するため。お前の尻拭いをしていたに過ぎないんだよ。しかも薄暗い色の髪に三白眼なんて、生まれつきのモノ。それを拒絶されちゃ、もうお終いだ。


「ロイ、貴方は残念ながら私の夫になる資格はありません。


ですが、エーリッヒは違います!エーリッヒ、おいでなさい、エーリッヒ!!」


ふとソフィアは、別の男の名を呼ぶ。壁際に佇んでいた赤髪の男は、戸惑った顔でソフィアを見ていた。だがすぐに表情を整え、カツカツと近付いていく。流石、王女の近衛といったところか。


アイツの名はエーリッヒ・レイド、貴族学院の同級生だ。入学してから6年間、ソフィアの近衛を務めている。代々騎士を担う伯爵家の出身で、綺麗な赤髪に整った容姿。高身長で紳士的な性格、類い希なる剣術の持ち主だ。立場上、()()()()()交流している。


ソフィアは満面の笑みで、隣に来たエーリッヒの腕にガバッとしがみつく。流石に場違いすぎて、アイツも驚きが隠せてないぞ。


「エーリッヒは出身こそ伯爵家ですが、勉学も貴方に次いで優秀です。それに、いつも私に優しく微笑んでくださるの。性格も非の打ち所がなく、私の隣に立つのに申し分ありません。彼こそ、王族に・・・私の夫に相応しいのです」


なるほど、つまり好みはそっちだから婚約破棄したと。理由が薄いし身勝手じゃねぇか。せめて(当然やってないけど)悪事を犯したとか規律に反したとか、もっと合理的な理由を出せ!この自惚れ&脳内お花畑王女・・・。


呆れをまた冷静に変えて、気になるところは掘っておかないとな。


「ソフィア王女、国王陛下の承諾は?」


「これから取りますわ、貴方を追い出してから」


やっぱりな、こんな大事を事後報告で済まそうとしてたのか。ここに国王がいないからって、好き勝手しやがって。


「つまり独断ですか。しかし我々の婚約は国の決定。王女単独の意志では、覆すのは困難かと」


「あら、いつものダンマリじゃないのですね?王家から切り捨てられそうになれば、減らず口を叩くのですか。袋の鼠を見ているようですね。


それに・・・既に当主夫妻が死んで、借金まみれの公爵家のためにムキになるなんて!滑稽すぎて可笑しくなります!」



ーーーピ シ ッ ッ



ガラスが割れたように、心にヒビが入った。今までの努力も、時間も、存在すらも否定されたんだ。ここまで実家をコケにされるのかよ、ここまで侮辱しなきゃ気が済まないのかよ。さっきまでの呆れが一転して、強い失望に変わる。


「再度宣言しましょう!ロイ・ブルーダとの婚約は、本日限りで破棄。そして、エーリッヒ・レイドと婚約致します!!


エーリッヒ、貴方はもう近衛ではありません。私の夫として、王族に歓迎します。お父様も貴方でしたら、必ずお喜びになりますわ」


本当に、長くて無駄な8年だった。必死に勉学に努めて、何日も寝ない夜を過ごしたってのに。国の頼みを何とかするべく、ソフィアには憎まれ役を買ってでも忠告し続けたのに。あの女には全て無意味、むしろ邪魔者だと捨てられる。


ハハハ・・・、ショックって強過ぎれば笑いになるんだな。勿論表向きに見せちゃ可笑しいから、「分かりました、承ります」と淡々と返事しておく。


「分かったら、早くこの場から立ち去りなさい!貴方さえいなければ、私はもっと早くエーリッヒと結ばれていたのですから!」


俺もお前さえいなきゃ、もっと自分で選んで納得する人生を送ってたんだよ!いつもいつも、自分の気持ちばかり優先しやがって!


でも今の俺には、そんなことを言い返す気力すら無い。感情も冷え切り、涙すら出なかった。既に荒んだ心が、盛大に砕け散ったんだろうな。ボンヤリと、幸せそうな2人を見つめる。


幸せそうな・・・2人を・・・。


「ソフィア王女。喜ばしいお言葉を頂き、誠にありがとうございます。私は本日をもって、王女様の近衛を退きましょう」


「えぇ。ようやく愛する貴方と、共に・・・」



「ですが、此度の婚約はお断りします」



エーリッヒは一瞬にして怒りを浮かべ、ソフィア王女の腕を振り払う。彼女の笑顔も同様に、一瞬で引きつった。


沈黙する会場の中、エーリッヒはコツコツと高らかに靴音を鳴らして、彼女から離れていく。


やがて俺の前に辿り着けば・・・そっと跪いて、俺の冷たい右手に口付けをした。


「ロイ、やっと会えた。『ソフィア王女の婚約者』ではなく、『ロイ・ブルーダ』として。この時をどれ程待ち望んだことか」


「・・・え、え?」


頭はパンク寸前だ。エーリッヒが不安そうで、愛おしそうに俺を見てくるんだ。まるで恋に落ちているような、そんな・・・。こんな瞳、今までのエーリッヒでは見たことが無い。さっきまで絶望な気分だったのに、急にふんわりとした温かさを覚える。


「辺境地から王都に来て、右も左も分からず、赤髪だから無駄に目立っていた。そんな私を心から気にしてくれたのは・・・ロイだけだった」


そういえば、最初に出会った6年前を思い出す。赤髪に高い背、整った容姿と目立ち、常に人が近くにいたエーリッヒ。女子から人気があるし、俺とは違う世界の住人だと思って、極力避けていた。


けれど、図書館の隅で寂しげに外を見つめているアイツを見たら・・・何だか、心配になった。俺に似て、誰にも心を開けてないような気がしたんだ。だから用事を付けて話しかけている内に、仲良くなっていた。


図書館で勉強したり、鍛錬に付き合ったり・・・そういや学院内じゃ、何かとエーリッヒと一緒だった。実家の不幸とか、押しつけられた執務が辛くて、アイツの前だけで何度泣いたんだろうな・・・。


って、それなら「()()()()()交流」ってレベルじゃねぇ!1番の理解者じゃんか!と自分に突っ込んでいる内に、エーリッヒは言葉を紡いでいた。


「今の私は、ロイがいたからこそいるんだ。勉学も剣術も、君がいなければここまで上達しなかっただろう。


気付けば私は身の程知らずにも、君に恋をしていた。1人で多くを抱え込むロイが心配で、誰よりも支えたいと思っていたんだ」


指1本1本に口付けをされて・・・いや、あの、これ、公開プロポーズ?戸惑って混乱してるけど、何故か俺には、それ以外の感情もあった。


俺ですら忘れていた優しさを、彼はこんなにも覚えてくれていたんだ。自分がやっていたことは、無駄じゃなかった。見てくれる人がいたんだ。


ボロボロになっていた心が、ゆっくりと修復されていく。


「だがロイは、王女の婚約者である公爵令息。そして私は、王女の近衛に留まる伯爵令息。結ばれるどころか、思いを告げられないのは明確。


この恋は今宵の婚約発表で捨て去り、墓まで持って行く覚悟だった。王女の近衛として、影から君を支えるつもりだった。


ところが、なんて幸運なんだ。王女は自ら婚約破棄して、ロイを解放した!そして私にも、王女の近衛を退いて良いと!


これ以上、婚約にも王女にも縛り付けられなくて良いんだ。これを幸せと呼ばずして何と呼ぶ!」


勢いよく立ち上がれば、ガバッと俺を高く持ち上げた。ありのままの心情を、まだまだ楽しそうに告げるエーリッヒ。周囲を完全に置いていっても、喋るのを止めない。


こんなに感情を露わにする彼は、ただただ嬉しそうで、幸せそうで・・・。思わず笑顔になっていると、「何なの!?」と、ソフィアが横やりを入れる。


「エーリッヒ、どういうことなの?貴方は私の夫になる者でしょう!?」


瞬間、エーリッヒの顔は曇る。完全に紳士の顔を捨てて、自分の欲求と思いに素直になってるみたいだな。


でも流石に、俺を胸に抱き寄せるのは違くねっ!?いや、困ってはない。苦しくは無い・・・というか、嬉しいし。


「僭越ながら、婚約するか否かは私に選択権があるでしょう。先程申し上げましたが、そちらからの求婚は『断固拒否』です」


「な、何でよ!?貴方、私のことが好きなんでしょ?あんなに私に優しくしてくれたのに、あんなに私に微笑んでくれたのに!!」


「勝手なご想像はやめてください。微笑み優しくしただけで、気があると勘違いするとは・・・本当に()()()()()頭ですね。


私は近衛として仕えていただけで、()()()貴女に好意など一切ございません。よくも私の大切な人を、公で侮辱してくれましたね」


ハッキリ言った悪口に、周囲はざわめきだした。今までの騎士道に則るエーリッヒを知る奴は、その変わり様に驚いてるだろうな。


「ロイは王女様の不備を埋めようと、身を削っていたのです。しかし貴女はそれを当たり前だと勘違いした上、彼の気にくわない点ばかりを上げ、不届き者に仕立て上げようとした。挙げ句には婚約者がいる中で、他の異性を追うとは」


「うぅ・・・だ、黙りなさい!私に刃向かうってことは、王族を敵に回すってことよ!?分かってるんでしょうね!?」


ソフィアが喚き散らす全ての言葉が、奴に怒りを沸き立たせる。エーリッヒは拳を強く握り、血管が浮き出るんじゃ無いか・・・と俺は息をのみ、彼の服をギュッと掴むくらいしか出来ない。


遂に我慢の限界と、色々なモノの終わりが来たらしい。


「ふざけないでいただきたい」


今まで見たことがない、エーリッヒは冷たい顔に低い声。いつも笑顔かすまし顔をしていた奴の怒りは、矛先じゃないはずの俺でも、ぞっと鳥肌が立ってしまう。



「ロイから忠告を受けたはずでしょう?権力を横暴に振りかざしては、その信用を失うと。自分の欲望だけで動いては、いつか行き詰まります。それを改善しない限り、貴女は王女としても人としても、道を踏み外すことになるでしょう」



この怒り顔で正論を叩き込まれれば、もう反論できないよな。さっきからソフィアは、言葉にならない声を繰り返している。


「話は済んだか?」


低い声が会場を包んだ。入り口にいるのは・・・国王陛下!?


「えっ!?お、お父様・・・!?今日はいらっしゃらないのでは!?」


「お前が最近良からぬ動きをしていると、様々な者から進言を受けてな。お前を泳がせた上で、最初から待機していたのだ。


先程までの騒動は、一部始終を見せてもらった。今回ばかりは愛想が尽きたぞ、ソフィア。


お前には後々、相当の沙汰を下す。全ての事実が判明するまで、謹慎していろ!」


全てを暴かれ、願いが打ち砕かれたソフィア。青ざめて、へなへなと座り込んだ。まぁそいつに手を差し伸べるのは、拘束する衛兵しかいないけど。


卒業パーティでの婚約破棄騒動は、発起人の王女が捨てられるという結末で幕を閉じた。




その後、王族の権威を失墜させた第四王女ソフィア・グリムヘッズは、廃嫡された後に修道院暮らしになったとか。


膨大な慰謝料を受け取ったブルーダ公爵家は、皮肉にもその金で借金を全額返済できたとか。


「責任を取る」と言ったエーリッヒが、公爵家の事業を手伝ってくれてるとか、色々あるけど。


ハッキリ言えるのは、あの時の公開プロポーズは決して、時間稼ぎのための茶番じゃ無いってこと。現に俺達は今、共に生活をしている。


「どうやら私は、自分に群がるモノに興味が無いらしい。逆に自分から好きになったモノは、是が非でも手に入れたい性格なんだ。


あの馬鹿王女から婚約破棄させるため、密かに籠絡した甲斐があったよ」


「お前、意外と腹黒いな?世間にバレたら・・・って言っても、ただ微笑んで愛想良くいるだけじゃ、たぶらかしたとは言えないよな」


「あぁ、向こうが勘違いしやすい女で良かった。それに・・・そういう性格じゃないと、格好良く振る舞えないからな」


そっと薄暗い色の髪に口付けされた。こうした言葉と行動で許すなんて、俺も完全に彼が好きになったらしい。


ったく、今書類書いてるから、邪魔しないでくれよ?せっかくならここに書く互いの名前は、1番上手にした方が良いし。


なんて言えば、すぐ隣にいる()()()()()は微笑んだ。「流石、私が選んだ()()だ」と。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


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