赤い蝶
今日は、海と山に囲まれた村に向かうことになっている。
僕は、写真を撮ることを生業にしている。
名前は佐藤。
受ける依頼内容はいろいろで、ホテルなどの撮影や、風景の撮影依頼をもらうこともあるが、珍しい鳥や昆虫の撮影依頼を図鑑などを作る出版業界からもらうことが多い。
今回の依頼は特殊で、町中に現れる赤い蝶の撮影依頼を、ある農業大学からもらった。
今まで、虫の撮影なんかはよく依頼されていたが、今回の依頼内容は初めて聞くような内容だった。
赤い蝶はこの国では見たことがない。
群れで飛んでいるのであれば、多少有名になるはずだが、あまり蝶の情報は上がっていない。
色々未知な点が不安だが、今回の依頼は破格の依頼だった。
金額もよく、何より楽である。
依頼の中には海外まで出て、自らの足で山道を進むこともある。
場合によっては、夜の森の中をガイドとともに歩き回るので、今回の移動はかなり楽ちんだ。
降り立った駅には昔ながらの古い食堂があったので、そのまま腹ごしらえをした。
帽子をかぶり、大事なカメラを首から下げ、リュックを抱えて表へ出た。
駅前にも関わらず、ほとんど人はいなかった。
額には少し汗がにじんだ。
カメラを手放せないので、片手で帽子をとって、そのまま額の汗を軽くぬぐう。
蝶の目撃情報が盛んな場所へ向かうため、電車からバスに乗り換える。
バス停では何人か並んでいた。
バス停の屋根の下に入ると、「あちい~。」と言って、手で顔を扇いだ。
見渡した街の景色はとにかく「のどか」な雰囲気。
直訳すると「ド田舎」だ。
「あんた、このバス乗るんかい?」
突然、前に並んでいた初老の女性から声をかけられた。
「ええ、めずらしい蝶が見られるらしくて、撮影に向かうんです。」
「赤神様のことかね。憑りつかれるといいね。」
「へ?」
「この時期、山側では赤神様がたまに空を舞うのよ。きれいだよ。」
「そうなんですか。どのあたりですかね?」
僕が地図を出すと、女性は地図を覗き見ながら、しわしわの指を地図に置いた。
「このバス停で降りて、こっち向かって歩くといらっしゃるね。」
「あの・・・・・」
「なんだい?」
「蝶のこと『赤神様』っていうんですか?」
「そうだよ。すごくきれいだから。みたらすぐわかるよ。見つけたら拝むんだ。きっと極楽浄土に行けるさ。」