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死の村

 幽霊船でもって暗黒魔大陸から人の領域を目指した死者の軍団は、通常の船では考えられないスピードで人里に辿り着いた。


 なにせ幽霊船には風が必要ないし、水の上に浮かんでいないのだ。


 水の上をぼんやりと浮かんで、風に逆らって波の上をすべるようにして進むことができる。実体がないように見えてスケルトンを運べたりと、矛盾で一杯の船ではあるが、あまりそのあたりは気にしてはいけない。


 さて、彷徨える亡国の船団は沖合に停泊すると、ボートでもって不死者の軍勢を砂浜に展開した。その後、ゴーストやバンシーたちを各地に放って偵察を行った。


 魔王と勇者たちは彼らに遅れること数日、魔王軍の所有する魔導船でもって後詰として人の領域に到着した。


「……これは、一体どういう事だ?」魔王は兜の奥から動揺を露わにした。


「これは……間違いなくファインの仕業だ」

「クソッ!!僕が奴を追放したばっかりに……!」


 勇者と魔王が見つめる先には、大量に浮かぶ魚の死体と、それをついばもうとして悶死した水鳥たちの死体が折り重なっていた。死体はすでに腐敗が始まり、周囲に対して猛烈な腐臭を放っていた。


「勇者、『鑑定』してみたが『おせん』と『どく』ですげえことになってるぜ」

 盗賊のゴンザがスキルを使った結果を勇者に伝える。


「そうか、となるとファインが関係しているんだなコレは……」


 「どく」だけならまだしも「おせん」はファインの使う「NBC兵器魔法」でしか発生しないものだ。なら確実にこれはあいつの仕業だ。


 魔王は先に上陸して偵察を行っていたゴーストから報告を受けている。

 心なしかゴーストも顔色が悪く見える。

 もともと蒼白だからほとんど変化が解らないが。


 報告が終わったのか、魔王はゴーストの報告をこちらに持ち寄ってきた。


「この者によると、河口の街が大きな被害を受けているそうだ。村々の作物は枯れ、水辺では大量の人たちが、水を飲もうとしたままの姿で死んでいるらしい」


「!!……まさか、川が「おせん」されているっていうのか?!」


「間違いないだろうな。あまり言いたくはないが、暗黒魔大陸ではお前たちの行く先々がこうなっていたのだぞ」


「それは……すまないという言葉では足らないな」


「ああ、止めよう。なんとしても」


「ゴーストによると僅かな生存者がいるそうで、宿屋に集めているそうだ。彼らに何があったか話を聞くとしよう」


★★★


 訪れた村は見るも恐ろしい惨状だった。


 水からは異常な金属臭さと肉が腐ったような吐き気を催す腐臭がして、虫や魚が浮いていた。ゴンザが『鑑定』するとこの水は「もうどく」状態にあるらしい。


 畑の作物はそのことごとくが枯れ果てて、作物は腐り落ちていた。

 収穫間近であったろう大根は黒く変色し、麦は赤くなって腐っていた。


「これは一体?」


「水神様のお怒りじゃぁ……水神様のタタリなんじゃぁ……!!!」


 何かに怯える老人が意味不明なことを口走りながら震えていた。

 手にはアルコール度数の高いラム酒の瓶を持っている。ただの酔っぱらいか?

 いや、それにしても異常な恐れ様だ。


 僕は老人の前に膝をつき、詳しく話を聞いてみることにした。


「おじいさん、タタリとは一体何があったんですか?」


「*ヒック*」


「タタリじゃよ、旧き神、水神、『くとるー』様のタタリなんじゃぁ!!!」


「水じゃ、水に呪いをかけられたんじゃ。ある日、ワシは汲んだ水を畑に運んでそれを牛や馬に飲ませた。するとすぐに泡を吹いて死んだ」


「水に……?」


「女子供は気が触れ、初子は水神様の神気を浴びて、人ならざるものとして生まれた……もうこの村はおしまいじゃぁ!!!」


「人ならざる者……?」


<ホギャァ!><ホギャァ!>


 老人のかたわらにあった揺りかごから、まるで火の付いたような子供の泣き声が聞こえてきた。なぜだろう、ものすごく嫌な予感がする。


 揺りかごで泣いている子供は、何か忌まわしいものでも隠すようにして、その全身をおくるみで包まれている。僕はその中をのぞくという欲求に抗えなかった。


「――ッこれは……!」


 それを見た僕の全身を、恐怖が針となって突き刺した。


 両目は左右に眼球ごと飛び出すようになっていて、そのまぶたは向こうが透けるほどに非常に薄く、まるで魚を思わせるような顔だった。


 鼻は低く潰れており、二つの鼻の孔はみえるが、骨がない。

 口には、いや、これは口なのか?骨のように白く硬質な(くちびる)(あご)の骨と一体になったような唇がそこにあった。そしてその内側の口内には既に「歯」が揃っていた。


 歯はナイフのように尖り、その間からは黄緑色の(うみ)が流れ出て、産着を汚していた。揺りかごからは、魚のようなカビのような異臭がする。


 これは何だ……?これが神気を受けた子供?


「ご老体、一つ聞かせてくれ。この村を流れる川、その上流には一体なにがある?」


 老人に魔王が尋ねる。


「エブリバーガー領じゃ。水神様を恐れずに屋敷を立てた騎士さまは屋敷の中で死んで、今は誰もかの地を治めてはおらん」


「そうか、ありがとう」


 魔王は老人にコインを握らせると手で合図した。

 村はずれまで移動した僕らは得られた情報をまとめる。


「川の水が汚染され、そこから取り入れた水によって村の家畜は死に、作物は腐り、人があんな風に……にわかには信じられないけど、暗黒魔大陸でも?」


「ああ、似たようなことは報告されている。上流の領地で何かしでかしているんだろう。自暴自棄になって破壊行為を繰り返しているのか?」


「その水神様が本当にいるかどうかはともかく、ファインがそこで何かをした可能性は高いな。今やファインこそ本当の魔王だ」


「あぁ、終わらせよう」


 魔王は配下のアンデッドに指示を飛ばした。


 無数のゴーストが流星群のように空を行く。

 そしてスケルトンたちは一糸乱れぬ動きでもって行軍して大地を進んだ。


 これ以上の災いが起こる前に、ファインを止めなくては――!

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