表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

寝取られ報告の電話をかけてきた女性に番号間違えてますよと伝えたら逆ギレされて気まずかった話

 夏休み前日の夕暮れどき。


 学校が終わり、早々と風呂を済ませた俺はスマホを握りしめて困惑していた。


 受話スピーカーから、女性の嬌声が絶えず聴こえてくるからだ。


『――え? うん、彼氏彼氏。あっ――ねぇきこえてるケンジくん? さっきナンパされた大学生とねぇ、いまラブホのベッドいるの』


 明日からは待ちに待った夏休み。

 高校にあがって最初の夏休みということもあり、かなり楽しみにしていた。


『――もしかして知らない番号だからわからない? スマホの充電切れそうだったから、カレのスマホ借りてかけたんだけどさぁ――……もう、ちょっと待って……あん、やだぁ』


 それがどうしてこうなった。

 スマホを持つ手が、わなわなと震える。


『――ケモノみたいにすごくて……っ、ケンジくんなんかよりぃ、顔も体も格好よくてね? あたし好きになっちゃったぁ』


 耳もとで繰り返される、女性のなまめかしくも激しい吐息。

 通話をとおして熱気にあてられた俺は、Tシャツの胸もとをあおぐと自室のエアコンを2℃下げる。


『――マジ撮るの? ……はいダブルピースぅ♡ これあとでぇ、ケンジくんにも送ってあげるね?』


 カシャッとシャッター音がたしかに聴こえた。

 ダブルピースする女性って実在するんだな。


 まだ通話を切る様子はなかったので、とりあえずベッドに身を横たえた。


 女性はあえぐように途切れ途切れの言葉で、浮気相手の大学生がいかに熟練しているか事細かに解説する。


 気まずさが半端ない。

 大学生のテクについては正直どうでもよかったんで、1話もみたことのないテレビドラマを眺めて時間を潰した。


『――ケンジくんきいてる? もしかして……みじめに1人でしてる? あははっかわいそう! ケンジくんとじゃ出ない声、たくさんきかせてあげるね……?』


 世の男すべてが特殊性癖持ちだと思うなよ。


 それから10分くらい経過した。

 行為に集中してるのか、女性からの煽りもほとんど無くなってしまう。


 ドラマも終わったし、そろそろ頃合いか。


「……あのさ」


『――あ、ちょっと待って……もしもし? なんか言った?』


「電話番号間違えてますよ」


『――は……?』


「番号、間違えてますよ」


『――ちょ、え――……だれ!?』


「彼氏のケンジだけど」


『――声がぜんぜん違う!』


 そりゃそうだ。

 まったくの他人相手に、ひたすら自分の性癖叩きつけた気分はどんなだろうか。


 俺は最悪だ。


『――マジ……もう、最っ悪!』


「あ、おいまだ切るなよ」


『――は? ざけんな、切るに決まってんじゃん!』


「通話、録音したからな?」


 一瞬、通話相手の女性が沈黙する。


『――え、なん、なんで……そんな……』


「勝手に通話終了したらSNSに拡散する。いいか? せっかくの夏休みで浮かれてた気分を、俺は台無しにされたんだ。相当ムカついてる」


『――だ、だからなんなわけ!?』


「まず謝罪してもらいたい」


『――は!? なんであたしが――つか消せよ録音!』


「立場わかってる? ごめんなさいが先だろ」


『――く……っ』


 さっきよりも長い沈黙。

 返答を待つあいだ、棚から取った漫画をパラパラとめくる。


 すでに何度も読んだ漫画だけど、名作は色褪せない。

 いい感じに没頭してきた。


『――……めんな……ぃ』


「え?」


『――ごめんなさい! あたしが悪かったです! だから録音消してください!』


「ああ、謝ってたのか。ごめんごめん、漫画読んでた」


『――しねッ!』


 逆ギレも甚だしい。

 でも、こんなもんじゃまだ不快な気分はおさまらない。


「じゃあ、つぎはケンジくんに謝罪して」


『――はあ!? な、なんでケンジくんが』


「いや、人としてやっちゃだめでしょ。百歩ゆずって隠れて浮気すんならまだしも、寝取られ報告はだめでしょ」


 ケンジくんの性癖歪んじゃう。

 それではあまりにケンジくんが可哀想だ。


 通話口の向こうで、ぎりっと歯を噛みしめる音がした。

 ような気がした。


『――……悪いのは、あたしじゃない』


「そうかなぁ」


『――ケンジくんが悪いんだよ! 医大の受験だかなんだか知んないけど、ぜんぜんかまってくれないし!』


「いや許してやれよ! ケンジくんの人生めちゃくちゃになったらどうすんだ!? てか2個上かよ!」


『――は? 歳下!? 敬語つかえガキ!』


「ビッチに払う敬意は無い」


 ガッシャンドッカン暴れる音が耳に痛い。

 これ浮気相手の大学生、ドン引きしてんじゃないのか。


『――もういい……っ。とにかく謝ったんだから、録音消せよ童貞!』


「経験が多けりゃいいってもんじゃないだろ。浅っさいなぁ。そんなんだからケンジくんに呆れられんだよ」


『――あんたに、なにが……ッ!』


「ケンジくんに同情するね。でもまあ、ろくでもないビッチ彼女と縁切れてよかったのかもな」


 鼻息をフーフー荒くしていた高3ビッチが、ふと消え入りそうな声でつぶやく。


『――……ビッチ、じゃ……なぃ……』


「え? 聞こえないぞ」


『――びっちなんか、じゃ……なぃもん……ぅぅ……た、ただの、演技……だもん』


「…………え?」


 耳を疑った。

 演技? 演技って――


「ほんとは浮気相手とか、いないってこと?」


 長い長い沈黙。


『――…………ぅん』


「スマホは……?」


『――……弟の……借りて……番号うって……』


「え!? まじで自作自演してたの!? エッチしてるみたいに声出して!?」


 答えは返ってこない。

 だけどずびずびと鼻をすする様子が、そこはかとない真実味を帯びさせる。


「な……泣いてる?」


『――泣いてないっ』


「ひとつ、聞きたいんだけど……」


『――……なに……?』


「どんな気持ちでダブルピース撮ったの?」


『――しねッ! ころす! ころしてやるッ!』


 またもドッタンガッシャン激しい音。


 怖い。

 きっと顔真っ赤に違いない。


『――“ヨリコちゃん帰ってるの? 夕飯手伝ってくれなぁい?”』


「ヨリコちゃん?」


『――名前呼ぶな! あぁもうおかあさん帰ってきちゃったじゃん……マジで最悪なんだけど……っ』


「まあ、なんだ……ケンジくんと仲良くな?」


『――おまえどっかで会ったら絶対ひっぱたくから! バァカバァカバァァァカッッ!!』


 そうして通話は切られた。


 よかった。

 寝取られ報告される、可哀想な彼氏なんていなかったんだ。


 頭を枕に倒して、大の字に体を伸ばす。

 夏の夕暮れをヒグラシの鳴き声が心地よく彩っている。


 明日から夏休み。

 海に夏祭りにと、定番イベントが山積みだ。


「……彼女……ほしいなぁ……」


 ヨリコちゃんはちょっとアレだけど、ほんの少しだけケンジくんをうらやましく思った。


続きを書いてみました


だから寝取られ報告の電話とかするなら彼氏にしてくれませんか!?

https://ncode.syosetu.com/n1616ht/


よかったら読んでみてください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最高でした。こんな視点があるなんて。発想が斬新で面白かったです。
[気になる点] これもし番号間違えずにちゃんと繋がってたらケンジくんとまず破局してたと思うんですが、ヨリコちゃんはケンジくんと別れるつもりでこの電話をかけたのでしょうか?
[良い点] 面白かったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ