問題とは次々に溢れるこの状況を言っている?
「行方不明者、まだ見付かって居ないらしいわよ」
「ふぇあ?」
いきなりの友人の言葉に、私は手に持っていた鯛焼きにかぶりついた所だったので首を傾げて反応を示した。
アツアツの鯛焼きはちょっと好みではなくてやっと冷めてきたこのモチモチが大好きなので、出来たら話しは食べ終わってからが良いなあと視線を向けると「食べてる場合じゃないわよ!」とフィズは憤慨する。
「あの行方不明の事件!
2週間経っても行方不明者は見付からない、しかも軒並み有力者だった事もあって学園の中でも問題視されてるこの旬の事件を見逃すって、どう言う事よっ!」
「そりゃ見付かって居ない人はとても心配だよ?
でもだからって私達が出来る事なんて無いよ、あってもこの鯛焼きを今日も美味しいな〜って思いながら食堂のシェフに感謝するくらいだよ」
「ほんっとぉーに呑気ねジルは!!
こんな波風立たない学園生活よりも、スリルとサスペンスを求めるのがイマドキのレディだわ!」
「そもそもレディはこんなにアクティブじゃないと思ってるんだけどなあ」
「それは古いの、イマドキのレディは積極性が大切なのよっ!」
ドヤ顔で言い放った彼女は、ふふんと胸を張って目を閉じた。
見た目だけなら苛烈な美少女なのに物言いのトゲが周りの人達に刺さりまくっていて若干浮いている事を本人だけが知らない。
そして何故か毎回私を巻き込んで来るのは謎。
でも可愛いし美人だし、私は可愛い人が大好きなので(そんな母の教育を受けたので)一緒に居て私は幸せなのだけど。
……それにしたって、確かに長いんだよなあと最後の尻尾部分をパクリと食べ終わって辺りを見渡す。
人の噂はせいぜい75日くらいで消えるとはよく言ったものだけれど、逆にこの2週間の間に消えた生徒は3人だ。
寮に入っている生徒も居るわけで探せば出てきそうな物だけど、学園内をくまなく見て回っている教職員やOB達が見付けられない。
そう考えるとただの捜索ではなく拉致だと考えを改める必要があるかもしれない。
行方不明者3名この国でもそれなりに地位のある貴族の息子達だった。
公侯伯子男の序列はこちらにも通用する様で、伯爵家の次男と子爵家の長男2人が姿を消しているらしいとは隣で未だにぺたんこの胸を張っているフィズが教えてくれた。
この学園には爵位を持たない子達も居るけれど、今回攫われたのが爵位持ちだった事もあり、学園は対応を改めるらしいとの噂も飛び交っている。
そうなって来ると騎士団の管轄では無く国の管轄でもある公安に近い機関「ラシェド」が出て来るだろうなとあまりよく知らない知識を引っ張り出した。
「ねえ、ジル!聞いてる!?」
「ごめん聞いてなかった」
「もぉー!だから、ギルベルト様はこの件のことどう思ってらっしゃるの?って聞いたのよ!」
頬を染めて視線を外しているフィズは思わず抱き締めたくなる程可愛い。
赤みの強いブラウンの髪を振り回して好奇心旺盛な翡翠色の瞳を輝かせながら暴走している様子はまるでトイプードルが大きなラブラドールレトリバーに果敢に向かって行く姿が目に浮かんで、可愛らしい事この上ないのだ。
無駄吠えにしか聞こえない高笑いも私にとっては可愛らしい。
だからそんなフィズに「お兄ちゃんとはここ2日会ってないからどうかな?」と正直に話している。
「え、ギルベルト様お忙しいの?」
「うん、最近は隊長や副隊長にくっついて任務に出ている事も多いし…今回はそんなに時間は取られないとか言ってたけれど学園の問題もあるから忙しくしているんじゃないかな?」
「そうなの…お身体に触らなければ良いわね」
私はフィズのこう言う素直なところが大好きだ。
他の人達は遠目に兄の様子を伺っているだけで私に話し掛けても来ないし、優秀過ぎる兄の妹として妬まれる事も多い。
しかし彼女は感情にとても素直で「貴女あのギルベルト様の妹!?すごいわね、私彼のファンなの!」と素直に私に接してくれるのはただ有難かった。
しかも私の先に兄を見るのではなくて、私と目を見て会話してくれるのが何より嬉しい。
導入は確かに兄だったけれど、フィズは今では私にとって1番の大親友になった。
「ありがとう、お兄ちゃんにも伝えておくね」
「ううん、私の事なんかよりも行方不明者の子達よ。
きっと不安だろうし…早く見付けてあげて欲しいわね」
「……うん、フィズ大好き」
「は!?いきなり何よっ!私だって大好きよ!!」
ぎゅうっと抱き着くと、顔を真っ赤にして慌てたくせにそっと背中に回されるその暖かい手のひらが嬉しかった。
「おーい、堂々と食堂でいちゃついてんじゃねーよ」
「あらキース、羨ましいからって妬まないで下さるゥ?」
「キースもだっこする?」
「妬んでねーよしねーよ、お前らと関わるとろくな事が無い」
そう言いつつ私の前の席に座るのは、キースグリフだ。
少し長い銀の前髪を鬱陶しそうにしているので、会う度に切ればいいのにと密かに思っている。
「どうしたの?」
「これ、姉から」
「いつもありがとう」
その贈り物は白い封筒だった。
彼の姉とはとあるパーティで出会ってからのお友達で、あまり身体の強くない方のようでこうやってお手紙でのやり取りが続いている。
「今度の茶会にお前を呼びたいそうだ。
来るなら迎えに行く」
「是非行きたいよ、カタリナ様にはお世話になっているし」
「キースのお姉様って小鳥の茶会の主催者なのよね?
最高位のお嬢様が集まるサロン…良いなあ、ジル」
「アースマルク家は公爵家だからな、古いイベントも周りから見りゃそうかもだが…あんまり俺は好きじゃない」
「それでも乙女からすれば十分憧れるのよっ!
二大公爵家の両家の令嬢と、三侯爵家の令嬢が揃うサロンだもの。
きっと花が咲き乱れる庭園で小鳥が囀るが如く緩やかで涼やかな空間の中素敵な時間が流れてるんでしょうね…」
うっとりと表情を蕩けさせているフィズに小声でうーんと小首を傾げる。
その様子をため息と共にキースが「夢見がちな事で」と小さく呟いたのを聞いて、私は苦笑するのだった。