俺は柴咲さんを諦めない⑦
尊いが、このまま争わせておくのも忍びない。
二人が言い争っている原因は、俺にもあるのだから。
「二人ともやめて! 私のために争わないで!」
俺がそう叫ぶと、二人はピタリと停止した。
白鳥さんはポカーンとしているが、柴咲さんは酷く疲れたような顔をしている。
「……なんですか、それ」
「一度は言ってみたいセリフだろう」
「それは女性限定です!」
「別に男が言っても問題無いだろう。男にとっても羨ましいシチュエーションの一つだ」
「だったら、なんで女言葉なんですか……」
柴咲さんは、本気で疲れたように肩を落とした。
確かにその通りなので、何も言い返せない。
「あの、一旦お茶でも飲みませんか?」
俺達は白鳥さんの提案に従い、一息つくことにする。
◇
「一つ誤解があるが、柴咲さんは別に俺を使ったワケじゃない。協力は要請されたが、白鳥さんの気持ちを知りたかったのは俺も一緒だった。そして、それには俺も本気でぶつかる必要があった。だから柴咲さんとは一旦別れたんだ」
「……それじゃあ、別れ話を切り出したのは、主様だったんですか?」
「そうだ」
「……酷いです、主様」
「……やっぱり、そう思うか?」
「それはそうですよ。だって、主様は詩緒ちゃんの気持ちを知ってたんですよね? そのうえで別れるなんて言われたら、普通にショックですよ」
確かに言われてみれば、好いている相手から別れようなどと言われたら普通ショックだ。
たとえそれがカタチだけの交際だったとしても、そこに一定以上の愛情が存在したのは間違いない。
俺が柴咲さんと同じ立場であれば、少なからず傷ついていたハズだ。
「すまなかった、柴咲さん」
「そ、そんな、いいんですよ! 最初からちゃんとしたお付き合いじゃなかったんですし!」
「だとしても、柴咲さんは俺のことを好いてくれていたんだろう。俺もそれに応えるような態度を取っていたんだから、罪は深い」
それでも、あのときの俺には柴咲さんとの関係を続けることはできなかったので、ただ謝ることしかできない。
「……謝罪は受け入れます。確かに、少しショックだったのも事実ですから。でも、それでこの話は終わりにしましょう。あのときも、今も、アナタが本気なのは伝わっていますから」
「ありがとう」
気にしないと言われるよりも、謝罪を受け入れると言われる方が遥かに気が楽になる。
改めて、柴咲さんには頭が上がらない。
「でも、詩緒ちゃんも悪いんですからね?」
「は、反省してます……」