俺は柴咲さんを諦めない⑤
「ふむ。試しにアレに投げてみてくれないか?」
俺は以前ゲーセンでゲットした巨人人形を指さす。
「そんな、可哀そうです……」
……奇行種相手に可哀そうか。白鳥さんは優しいな。
「じゃあ、あのスケボーでいい」
「え、本当にいいんですか?」
「二度と使うことはないだろうから問題ない」
あのスケボーは以前ノリで買ったものだが、実際にはやる場所も限られているし、ほぼ使うことがなかった。
社会人になりたての頃は、こういった無駄遣いが結構多い。
「それでは――」
そう言ったと同時に、白鳥さんの腕がブレる。
恐ろしく速い投擲、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「貫通はしていないが、かなりの威力だな」
苦無はスケボーの腹にしっかりと突き立っていた。
この頑丈な板にこれだけ深く突き刺さるのだから、間違いなく人体に当たれば大ダメージだ。
白鳥さんは怒らせないようにしよう。
スケボーから苦無を引き抜いて白鳥さんに手渡す。
再び秘密の花園を覗けると期待したが、流石に柴咲さんが許さなかった。
「まあ、とりあえず座ってくれ」
座布団のような気の利いたものはないが、これまたゲーセンでゲットしたクッションがあるのでそれに座ってもらう。
本当は捨てる予定だったが、これで価値が数倍に膨れ上がる。暫くは枕にでも使わせてもらおう。
「邪なニオイがします」
「ああ、少しエロイことを考えていた」
「なっ!? 何を考えてるんですか!?」
「仕方ないだろう。自分の部屋に美女二人がいるんだぞ。妄想くらいして当然だ」
「こ、この人、なんでいつもこんな堂々としてるの……」
俺だって好きに堂々としているワケではない。
柴咲さんの前では嘘は無駄なので開き直っているだけだ。
「私達、これからナニをされちゃうんですか……?」
「ナニもしない。話し合いをするだけだ」
そして、白鳥さんは白鳥さんで変な想像をしているようだ。
裸エプロンの件といい、どうも彼女の頭は少しピンク色な気がする。
男で嫌な思いをしたという話だが、むしろそれで変なスイッチでも入ってしまったのだろうか。
「今朝の続きになるが、白鳥さんは自分の気持ちを認めた。言質も取ってある。……そういえば白鳥さん、あの動画は柴咲さんに見せても?」
「絶対! ダメです!」
白鳥さんは、会社で見ない方がいいと忠告しておいたのに、トイレで動画を視聴してしまった。
結果、情けない叫びが女子トイレから響き、ちょっとした騒ぎになっていた。
「もう、お嫁にいけませんよ……」