俺は柴咲さんを諦めない⑬
柴咲さんは、一部の社員の間で氷結姫とあだ名されている。
由来は彼女の態度が冷たいからなのだそうだが、俺は別段冷たいとは感じたことはなかった。
むしろ、いつも笑顔で、困ったときに助けてくれる面倒見の良いお姉さん系だと思っている。
だから某狼と同じで、チューハイの名前でも付けられているのだろうと勝手に決めつけていたのだが――
「柴咲さんに対する同僚の評価と俺の評価には乖離があった。偶然だろうと思っていたが、そもそも俺と他の社員とでは態度が違っていたということか」
「そ、そんなことは、なかった……ハズ」
「あったよ。確かに接し方自体はあまり大差なかったけど、表情とか声色とか、細かい部分でにじみ出ていた」
そう言われると、やはり思い当たる節がある。
柴咲さんは、俺とのやり取りの際はいつも機嫌が良いというか、楽しそうにしていたような気がするのだ。
「いつも機嫌がいいと思っていたが、そういうことなのか?」
「違う! 偶々、偶々いつも気分が良かっただけ!」
その気分が良かった原因が俺なのでは、と思ったが口にはしなかった。
違った場合、自意識過剰っぽくて恥ずかしいからだ。
「詩緒ちゃんは、ずっと前から主様に惹かれてたんだよ。それがオンラインセミナーの件で、抑えられないくらい膨れ上がったからこそ、自分から主様に近づいた」
「だから違うって! 確かに少しイイなくらいには思ってたけど、そんな女子学生みたいな理由じゃないから!」
女子学生みたいな理由?
よくわからんが、今どきの女子学生はそんな感じで男に近づくのだろうか。
「別に認めなくてもいいけど、私にはそんな詩緒ちゃんが簡単に主様のことを諦められるとは思えない。ここで主様を手放せば、詩緒ちゃんはきっと後悔するよ」
「そんなことは……、ない」
柴咲さんは明らかに覇気を失っている。
しかし、それでも認めるつもりはないようだ。
これは、もう一押し必要だろう。
「白鳥さん、柴咲さんを取り押さえてくれ」
「「っ!?」」
二人が再び、コイツ何を言い出すんだといった表情で俺を見る。
俺は構わず続ける。
「柴咲さんを抱く」
「ちょ、ちょっと、本当に何を言い出すんですか!?」
柴咲さんはアタフタしているが、白鳥さんは俺の意図に気づいたようである。
素早く柴咲さんの背後に回ると、手を後ろで拘束した。
「し、静香ちゃん!?」
「詩緒ちゃん、大人しく主様に抱かれてください」
「ナイスだ白鳥さん。では、行くぞ!」
「ひぃっ!?」




