俺は柴咲さんを諦めない⑫
「俺の愛を伝え、抱きしめただけだ」
「よ、よくも恥ずかしげもなくそんなこと言えますね……」
「表情に出さないようにしているだけだ。俺だって流石に恥ずかしい」
「全然そう見えませんが……」
無表情を作るのは得意技だ。
大体のボッチや陰キャにとっては必須のスキルであるため、習得している者も多いと思われる。
「まあそんなワケで、白鳥さんは同意済みということだ。あとは柴咲さんを籠絡すれば全て解決する」
「堂々と本人の前で言うことじゃありませんからね!?」
これ以上興奮させると再び正拳突きが飛んできかねないため、白鳥さんにバトンタッチする。
「白鳥さん、柴咲さんを説得してみてくれ」
「ええ!? そんなの無理ですよ!」
「そこをなんとか」
「うぅ~」
白鳥さんは押しに弱い。
「えっと、詩緒ちゃん、私と一緒に、主様のモノになろう?」
上目遣いでの懇願……中々の威力である。
これが男相手だったら、間違いなく堕とされていただろう。
「っ! 静香ちゃんを使うなんて卑怯ですよ!?」
柴咲さんは男じゃないが、どうやら効果は抜群だったらしい。
その証拠に、白鳥さんから視線を外し、俺を標的にすることで動揺を誤魔化している。
「アーアーきこえなーい」
有名なAAのポーズを取って俺も顔を反らす。
そして正拳突きをケアして白鳥さんの背後に逃げ込む。
我ながら情けないが、手段を選ぶつもりはない。
「詩緒ちゃん、今は私と話して?」
「ぐぬぬ……」
柴咲さんも有名AAのような顔をしている。
美女がやると、くっころ女騎士のように見えなくもない。
「詩緒ちゃんは主様のことを好きだって、さっき言ったよね?」
「あ~、え~っと、言ったような気がする……かも?」
先ほどはっきりと好きと口にしたくせに、急に歯切れが悪くなる柴咲さん。
恐らく状況の不利さを悟ったのだろうが、誤魔化し方が下手くそ過ぎる。
「誤魔化さないで!」
「うぅ……、はい……」
「私は詩緒ちゃんみたいに相手の心情を嗅ぎ取るような特殊能力はないけど、数年間一緒に過ごした詩緒ちゃんのことなら、ある程度理解しているつもりだよ。……詩緒ちゃんはきっと、私以上に主様のことが好き」
「そ、そんなことない!」
「ううん、今思えば、詩緒ちゃんは入社した頃から主様のことを気にしていた。私は鈍感だから気づかなかったけど、思い出してみると、他の男性に対する接し方とは全然違ったもん」
そうだったのか?
……いや、言われてみれば、思い当たることがある。




