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日々記す  作者: 宮城創
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二〇〇七年八月十七日。

 

 夏休み突入、最初の日。

 終業式が終わって、帰宅した。

 ぼんやり。

 わたしは夢を見ている。

 そう信じたいだけで、実は夢ではない。

 これが現実だと納得出来ていなくてもやもやと悩んでいる。

 もっとしゃっきり生きたいものだ。

 女の子は悩み多いのです。

 はぁ。


「宮城君、最近どうしちゃったんだろう」


 呟くと余計に苦しい。

 中身が入れ替わってしまったような。

 最近よりひどくなってきた。

 授業中に何のきっかけもなく突然発狂したように暴れたかと思えば急に落ち着く。

 問題行動でしかない。

 わたしが見ていてそう思うのだから、きっと周りからはもっとひどく低ランクに見られているのだろう。

 本当はそんなひとじゃないって。

 わたしはわかってあげられるから。


 宮城君がこの学校にやってきたのは今年の春。

 それなりに成績優秀で。

 態度もよくて。

 元々居た学校のレベルからはほとんど想像付かなかった。

 裏で努力しているんだ。

 そんなこともわかっている。

 必死でついていこうとしているんだ。


 わたしといっしょ。

 わたしも頑張っている。

 毎日毎日。

 家と学校とを往復しながら。

 帰ったら明日の予習と宿題とで頭がいっぱいいっぱい。

 よくみんなバイトとか部活動とか出来るよね。

 全然考えられないよ。


「はーあ……」


 わたしはあくびをかみ殺しながら夏休みの宿題をやろうとしている。

 今年こそは、夏休みの宿題を七月の内に終えると決めた。

 そうすれば八月中は楽しく遊べるのである。

 嫌なことを忘れて。

 宮城君のことを、一旦忘れたい。


 あれ。

 あられ?

 カバンを漁る。

 束になったプリント類の中から夏休みの宿題の一覧表を救出した。

 だけども。

 おっかしいことに。

 プリントがない。


「ひゃああああああああああああああ!」


 この家には今わたししかいない。

 わたししかいないからどんなにハイテンションで叫んでも注意されない。

 大丈夫。

 安心して奇声を上げられる。

 心おきなく独り言を呟ける。

 小さい幸せ。

 だというのに。

 もう一度。

 学校に向かわなくてはならないだなんて。

 過去の自分に言って聞かしてやりたい。

 ちゃんとハンカチ持った? ティッシュは? プリントは?


 んもー。


 わたしは家の鍵と、サブバッグを持つ。

 定期入れはポケットの中。

 制服を着替える前に気付いて本当によかった。

 ちょっと汗っぽくはあるけれどまた着替え直す手間が省ける。

 よし、行こう。


「いってきまーす」


 家には誰もいないけれど。

 習慣付いてしまっているからついつい言ってしまう。

 返事が聞こえたら怖い。

 わたしの家は宮城君の家とは違って、学校からすぐ近くではない。

 付属の小学校のほうの近所である。

 小学校の六年間ではわりと楽だった。

 運動会の音楽が聞こえてくる度に嫌な思い出がよみがえってくる。

 引っ越したいとは思わない。

 住み慣れた我が家。

 持ち家ということもあって両親もここにずっと住むつもりだろう。

 わたしはどうするか。

 大学は遠い。

 一人暮らしに憧れるところもある。


 相談してみよう。

 そうしよう。


 その前にわたしは宿題を取ってこなければならない。

 宿題を終わらせなければ。

 進学することが出来ない。

 進級することすら出来ないのは嫌だ。

 空がちょっと曇りがかっている。

 これもまた嫌な感じだ。

 最寄りの駅から乗り換え無しで五駅。

 またまた微妙な距離感。

 そんなところにわたしの通っている神佑高校はある。


 校名の由来は、天佑神助、という四字熟語らしい。

 天や神からの助け。

 我々神佑高校に通う仲間達が勉学に励み、ゆくゆくは世界に羽ばたけるように。

 ずいぶんと他力本願ではある。

 別に宗教が関わっていたり、何とかとかいう曰く付きの銅像があったり、そういうことではない。

 単に創設者が字面で付けたのだろう。

 と、勝手にわたしは思っている。

 間違っているだろうか。


(よっし、まだあいてる!)


 時刻は四時を過ぎたところ。

 熱心な諸君がまだ居残っている。

 五時ぐらいになったら追い出しが始まるだろう。

 そうなると校門が閉まってしまうので侵入が不可能になる。

 裏庭から入り込むことは可能かもしれないが。


「さってっと」


 階段を駆け上がり。

 クラスの扉を開けて。

 自席の机の中身をひっくり返す。

 入っていない。

 大掃除で全部持って帰らされたから当然と言えば当然か。

 となると次はロッカーが怪しい。

 わりとずぼらなので置きっぱなしになっている可能性が。


「あったー」


 思わず声に出してから、周りを気にする。

 誰もいない。

 折り畳んでサブバッグにしまう。

 階段を駆け下りる。

 わりとスムーズに終わった。

 よかったよかった。

 このまま家に帰るまでに何もなければいいが。


 何もなければ。

 そう。

 何も起こらなければよかったのに。


 わたしはどうしてこんなに運が悪いんだろう。

 きっと不幸を呼び寄せる体質なのかもしれないな。

 お払いをしてもらったほうがいいのかもしれない。

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