二〇〇五年九月八日。
明日はわたしの誕生日です。
楽しみにしています。
わたしがわたしとして知覚し始めて全然経っていませんが。
そんな短い期間でも、わたしは友人が出来ました。
彼女の名前は宮城蘭と言います。
とてもまじめで、優しくて、ちょっとおっちょこちょいだけど、いいひとです。
わたしはどうしてこの世界に生まれついたのか。
その辺についてお話ししましょう。
白菊美華というのはこの世界にはたった一人しか居ません。
それがこのわたしです。
基本的にその世界にそのひとはたった一人しか存在できません。
だからわたしは一人きりなのです。
元々オリジナルの白菊美華はどこで生まれたのかはわかりません。
わたしは物心ついた時からこの姿でした。
たぶん、白菊美華にも両親が居て、家族があったのでしょう。
それは憶測にしか過ぎないのです。
わたしには家族は居ません。
オリジナルの白菊美華のことは、ちょっと、羨ましいのです。
大体どの世界の白菊美華も、同じ役目を与えられています。
それはアカシックレコードの所有者であること、です。
だからわたしにもアカシックレコードがいつか与えられるのでしょう。
わたしにはまだ与えられていません。
アカシックレコードを手に入れた暁には、この世界を正しく導かなければなりません。
そういう運命なのです。
わたしはそういう設定のもとに生まれついています。
不平不満を愚痴るつもりはありません。
わたしがこの世界に存在していることで、誰かの役に立てればいいのです。
この世界が平和になればいいのです。
今回のわたしは神佑高校に入学させられました。
わたしはそこそこ頭がよいという設定ですので、勉強にはついていけます。
体力も目立たない程度にはあります。
部活動はやろうとは思いません。
めんどくさいこと、お金のかかりそうなことには手を出さない主義です。
食事も必要最低限で済ませます。
白菊美華は非常に低燃費なのです。
お菓子は食べません。
水やお茶しか飲みません。
それもお茶は自分で摘んできた物を乾かしているので実質無料のようなものです。
いつもごはんは基本的に一食しか食べません。
主に昼食がメインになるでしょう。
何故ならばわたしは学生だからです。
学生というステイタスを与えられたからです。
学生がお昼休みの時間帯にごはんを食べていないのは不自然なのです。
昼食にしっかりと食べるほうが健康にも良いそうなのでいいことです。
他の世界のわたしがどう生きているのか。
まったく聞きません。
けれどもわたしが死んでしまった時には、他の世界から白菊美華が訪れて、設定を引き継ぐそうなので、それなりに身辺は整えてあります。
白菊美華は無個性なのです。
名前が個性的だからいいのです。
みんな幸せなのです。
与えられた役目をしっかりとわかっているからです。
ああ。
わたしは苦しくも何もありません。
痛みもかゆみもありません。
ただ戦わなければならない時には全力を出しきります。
それが白菊美華として与えられた試練だからです。
わたしは勝ち続けなければならないのです。
わたしが負けてしまった時、それはすなわち死を指すのです。
わたしは他の世界の白菊美華と交換されるでしょう。
宮城蘭のことをわたしは好いています。
死は恐ろしくありませんが、宮城蘭と引き離されてしまうことは恐ろしく思います。
次の白菊美華は宮城蘭のことを愛してくれるでしょうか。
わかりません。
白菊美華の基本方針は変わりませんが、それぞれの考え方は微妙に異なります。
それはすべて世界が異なっているからです。
世界は無数に存在しています。
ただしこの世界はたった一つです。
わたしは戦わなければなりません。
それが運命だからです。
どんなに巨大な敵が居ても逃げてはいけないのです。
ただ、わたしは心配なのです。
とってもとっても心配なのです。
宮城蘭のことが。
彼女に危害が加えられないかどうか。
それだけが心配なのです。
わたしの身体はどうだっていいのです。
わたしが死んでしまっても他の世界のわたしが現れます。
世界はこうしてひとりひとり欠けた分を埋め合わせていくのです。
世界は平行に存在しているのではありません。
少しずつ時間軸がずれて存在しています。
だからもしかしたらわたしが死んでしまった後の世界は。
負けてしまった後の世界では、宮城蘭が死んだ後の世界かもしれないのです。
それをわたしは恐れています。
とってもとっても怖いのです。
白菊美華はこのように設定されています。
勇敢であること。
友を思うこと。
冒険心に溢れていること。
誰にでも好かれること。
常に強くあること。
その他にもたくさんあります。
白菊美華には認定試験はありません。
生まれた時から白菊美華として設定されるのです。
白菊美華の容姿は世界により変わります。
ただ顔立ち等は同じです。
白菊美華というのは他人と他人とを区別する為の記号です。
通称名です。
なのであるひとからは白菊、あるひとからは美華ちゃんなどと呼ばれます。
それが正しいのです。
とってもとっても正しいのです。
だからわたしは戦わなければなりません。
そういう運命なのです。
わたしはいつか宮城蘭と共に生きられるようになりたい。
だからすべての敵を討ち滅ぼさなければなりません。
その上負けてはいけないのです。
ひとびとを悲しみに陥れてはいけないのです。
わたしは重大な任務を課せられています。
アカシックレコードはいつ届くのでしょうか。
わかりません。
もしかしたら届いた後すぐにわたしは死んでしまうかもしれません。
わたしは死んでしまうことは怖くはないのです。
怖くはないのですが宮城蘭が心配なのです。
彼女も一緒に別の世界に連れていってしまいたい。
そう思うこともあります。
でもわたしのわがままに彼女を付き合わせるわけにはいかないのです。
彼女の夢を打ち壊してはいけないのです。
白菊美華はそういう風には設定されていません。
白菊美華は強くなければなりません。
たった一人の人間に構っていてはいけないのです。
だからわたしはある意味白菊美華としては失敗作です。
ですが。
わたしは勝ち続けなければなりません。
その為の潜在能力は高めてあるのです。
わたしは誰よりも強いのです。
この世界に於いて敵などいないのです。
もし宮城蘭が敵に回るようなことがあれば。
もし万が一そういうことがあれば。
その時はわたしは死んでしまうでしょう。
そして次の白菊美華に判断を任せるでしょう。
わたしは学校に通わなくてはなりません。
わたしは勉強をしなくてはなりません。
それが学生だからです。
わたしの本業だからです。
わたしという白菊美華の設定なのです。
次の白菊美華がどんな人間かはわかりません。
この世界の白菊美華はこんな人間だったと知っているひともいなくなるでしょう。
でもわたしはくじけません。
別の世界で必死に生きて行くでしょう。
わたしが幸せかどうかはわかりません。
誰も決めることはないのでしょう。
わたしは矛盾の多い生き物ですから、明日には死んでしまっているかもしれません。
でも世界から見れば白菊美華は一瞬減っただけです。
すぐに新しく別の白菊美華がやってくるでしょう。
わたしはそういう存在なのです。
わたしはよわっちい存在なのです。
だからわたしは宮城蘭のことが大好きなのです。
大好きなひとの為にわたしは戦うのです。
大好きなひとと明日も会えると信じて勝ち進むのです。
白菊美華の起源がどこにあるのだかはわかりません。
白菊美華の活動資金はクリスというかたが振り込んでくださいます。
とてもありがたい話です。
ですがわたしはクリスさんに会ったことがありません。
だから男なのか女なのかさえ知りません。
わたしは白菊美華といいます。
白菊美華というのは通称名です。
本当の名前はありません。
生まれた時から白菊美華として存在していたからです。
これは一つの可能性なのです。
あなたはどの可能性を選んでもいいのです。
どの結末を選んでもいいのです。
わたしは戦い続けた末に敗北するでしょう。
敗北した後は別の世界に行くでしょう。
白菊美華の設定はざっとこんなものなのです。
わたしは宮城蘭を愛しています。
愛しているからといって同じ世界に居られるとは限りません。
宮城蘭がそもそも存在しない世界に飛ばされる危険もあるでしょう。
だとすればわたしは悲しいのです。
悲しみに襲われないようにしっかりと生き残るのです。
わたしは生き続けなければなりません。
宮城蘭と生きる為には当然なのです。
だからきっと変わらないのです。
この世界に居ることには変わりないのです。
だから他の白菊美華が訪れることもないでしょう。
白菊美華の世界は閉鎖的なのです。
白菊美華同士でコンタクトを取ることはまったくありません。
ですがわたしはずっとずっと祈っています。
このままずっと生きていればいいなと思うのです。
だからわたしは負けてはいけないのです。
負けられない戦いしかないのです。
扉を開けば新しいステージが待っているでしょう。
だからわたしは戦うのです。
たった一人を守るために戦うのです。
たった一人を失った世界が無意味だから戦うのです。
わたしは知らないままのほうがよかったのかもしれません。
ずっと眠っていたほうがよかったのかもしれません。
でもわたしは目覚めてしまいました。
白菊美華として生まれてしまいました。
そして宮城蘭と出会ったのです。
宮城蘭と出会ってすべての考え方が変わったのです。
白菊美華としては失敗かもしれません。
出来損ないかもしれません。
ですがわたしは幸せなのです。
幸せだからいいのです。




