表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日々記す  作者: 宮城創
2/20

二〇〇六年六月六日。晴れ。

 今日もとりあえず登校した。

 根は真面目なやつなのだ。

 行かないと行かないで家に引きこもっている。

 家に居てもなんにもならない。

 ぼくの家には母親がいない。

 父親に訊いたら、ぼくを産んですぐに亡くなってしまったらしい。

 写真などの思い出は、全部破り捨ててしまったというのでぼくは顔も名前も知らない。

 ただぼくにも母親が居て、とても健康に生まれ育ってきたという事実が、今現在まで残っている。

 ぼくはついさっき、この日記帳を白菊美華と名乗る女の子からもらった。

 なんだかわからないけれどぼくにどうしても書いてもらいたいらしい。

 日記を付ける習慣はないから、ちゃんと続くか不安だ。


 一応、高校には通っているがほとんどの単位を落としているし、ニート街道まっしぐらなぼく。

 毎日書くことがないかもしれない。

 これを未来に読み返したら恥ずかしくなりそうだ。

 でもそれも思い出になる、だろう。

 白菊美華さんが言うには、ぼくが〝選ばれた人間〟らしい。

 なかなかどきっとする言葉だ。


「今日の為に、わたしは全世界から条件の合う人間を探してきました。ようやくあなたを見つけだしたのです。あなたには自分の変化に気付いていただかなければなりません。この日記を付けること、それがあなたの役目です」


 平凡な人生が突然切り替わった。

 なんかアニメの主人公みたいで、わくわくしてくる。

 でも、やっていることが地味じゃないか?

 ただ日記を書いているだけでいいだなんて。

 もうちょっとなんとかの剣みたいな、伝説上の由緒正しい武器を探すならともかく。

 ぼくに与えられたのは日記帳。

 まぁ、〝ペンは剣よりも強い〟という古い言葉があるけれど。

 なかなかこうやって机に向かう機会もなかった。

 ちゃんと勉強らしい勉強をしたのは高校受験の時だけで、入学して以降はそれほど熱心に勉強することがなかったから。

 いつもリビングのソファーに腰掛けてマンガを読む。

 それだけで楽しい。

 父親には、たまに、「小説でも読んだらどうだ」と言われる。

 長い文章を読むのは苦手なのだ。

 だが、こうやって書いていると、日記を付けるのも悪くないんじゃないかって思えてくるから不思議だ。

 もし今日学校に行かなければ白菊美華さんと出会わなかったかもしれない。


「初めまして、宮城創君。わたしの名前は白菊美華と言います。白い菊に美しい、難しいほうの華と書くのです。今日はあなたにお願いがあって、ここで待っていました」


 出会い頭に自己紹介された。

 物語ならばよくあるパターンかもしれないが、実際に遭遇してみると唐突すぎる。

 反応に困った。

 ぼくも名乗るべきなのか? 名乗るべきだったのか?

 相手は名前を知っていたから別にいいのか?

 しかし、「初めまして」の通り、ぼくは白菊美華さんに出会ったことはなかった。

 冷静になって改めて考えてみると違和感がある。

 どこでぼくの名前を知ったのだろう。

 たぶん、『全世界』から探し回っている間に、か。

 何を根拠に調べたのか、その辺よくわからない。

 もっと警戒すべきだったのかもしれない。

 白菊美華さんは、ぼくに渡したこの日記帳のほかに、もう一冊、おんなじような柄をした日記帳のような本を持っていた。

 そこには『アカシックレコード』だとか、書いてあった気がする。

 なんだかんだと説明されている途中で、ぼくはどこを見ていればいいのかわからなくなって、ふと気になったのだ。


 アカシックレコード、聞き慣れない言葉。


 意味を調べても理解できなかったが、どうやら、『全世界』の部分と関連がありそうだ。

 もしかしたらあの本に、辞書みたいに、ぼくの項目があって、ぼくについて書いてあったのかもしれない。

 ぼくのことはぼくにもまだわからないことが多すぎる。

 ぼくは宮城創という名前の一人の人間。

 ぼくが宮城創であると証明できるものは何か。


 学生証?

 住民票?

 戸籍謄本?


 ただの紙切れに印刷された文字だけでぼくがぼくであるということが証明できてしまう。

 それでいいのだろうか。

 もっともぼくには難しい過去だとか、大変な事件だとか、そういう類の事柄があったわけではない。

 そんなぼくにはただの紙切れ一枚こっきりで十分なのかもしれない。

 もっと大変な人生を歩んでいるひとも居るだろう。

 それは日本の話だけに限らず、広い世界のどこかでは生まれるまでもなく死んでしまったひとも居るだろうから。

 たかだか紙切れ一枚で生きていることが証明できる、というよりは、むしろ、証明できるほうがありがたいぐらいなのかもしれない。

 ぼくが想像できるのはここまでで、身勝手な妄想でしかない。

 ほかのひとたちの為に何が出来るのかと言えば、何も出来そうにない。

 それほどたいそうな人間ではないから、日々の暮らしで満足している。

 そんな日々を書いていくだけでもいいのだろうか?

 でも、ぼくにしてほしいことはこれだけらしいので、こうして日記を付けていくことにしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ