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日々記す  作者: 宮城創
19/20

再設定後の世界で

 

「賢君、迎えに来たよー」


 玄関先で、自転車のベルが乱暴に鳴らされる。

 正直、うるさい。

 弁当持った、ハンカチティッシュ入れた、水筒は……いらないか。

 おやつは三百円までとかいう遠足じゃないんだ。

 あと、母さん、にやにやすんな。


 そう。

 今日は早起きをした。

 早起きをして、弁当を作った。

 あんまり早すぎたから、母さんも驚いていた。

 いつもいつも蘭のまっずいお手製弁当から逃げる日々を送っていたが、それも今日でおしまいだ。

 料理ってなんだ?

 俺が考えるに、料理とは、『人体に害を及ぼさず、若干手が込んでいて、且つ行き過ぎてあちゃーな部分がなく、人間の味覚で美味しいもの』だ。

 はっきり言って、蘭の手料理は芸術だ。

 まだ俺がうら若き頃、弁当を作ってくれるというから浮き足立って、「いいだろー」と自慢しまくった後の昼休み、明らかに不穏な紫色のオーラを醸し出す弁当を、まずいと言っては可哀想だから無理して、「うまいうまい」と平らげた次の瞬間!


 俺の視界はブラックアウト。

 目覚めたのは保健室の中だったのだ。

 これを芸術と言わずして何と言う?


 俺には到底作れそうにない。

 否、たどり着けない領域に彼女は立っているのだ。

 別の言い方をするなら、素材が勿体無くて無駄にしたくないだけだ。

 ともかく、彼女に野菜を持たせてはダメだ。

 肉もダメだ。

 魚もダメだ。

 食べ物を渡してはならない。

 全部食べられなくなる。

 俺は閃いた。


「そうだ、蘭に作ってもらうんじゃなくて俺が作ればいいんだ」


 ナイス俺。

 なんでこれまで思い浮かばなかったんだ俺。

 男子厨房に入らず、か?

 その割には調理師って男性が多い。

 なんでだ?

 どうでもいいことだが。

 きっと普段、寝坊ばかりしてるからだ。

 周りの人に頼り切ってばかりだからだ。

 自立しなきゃいけない。


 ファイト俺。

 もう高校生なんだぞ、タマネギで泣いてちゃいけないんだ。

 経済力を付けなきゃダメだ。

 何よりも、蘭の手に食材が渡る前に俺が作ることによりエコが実践される。

 地球温暖化防止だ。


「賢ちゃん? 蘭ちゃんから電話よー?」


 蘭から?

 なんだ? 今日休みだから先生に伝えておいてくれ、か? それだったら直接学校にかければいい。あ、でも、学校の電話番号ってどこに書いてあったか……。

 まぁ、いい。


「……俺だ、賢だ」


 子機を母さんから手渡され、俺は電話に出た。

 母さんがにやにやしている。あっち行け。


「賢君、今日、映画でも見に行かない?」


 映画?

 ……えっと、今日、学校じゃないか?

 学校さぼって二人で映画見に行ってましたー、なんて、欠席理由にならないだろうが。


「? 何言ってんの? 今日、運動会の振替え休日だよ?」

 振り替え休日?

 というか、運動会って。六月の?

 なんで十一月に持って来るんだ?


「明日に文化祭の振り替え休日持ってきて、明後日は文化の日じゃん? で、四日は開校記念日で休みだから四連休です! って、先生言ってたよ?」


 寝てた。

 それか、遅刻して行ったんだと。

 って、それじゃあ、俺、弁当作ってるんだが……。


「えっ? 賢君、料理できんの?」


 当たり前だ。

 小中学校と家庭科の実習は休まずにやってきたし、家でも夏休みとかは自分で料理作って食べるし、なんでも出来る。

 少なくとも、蘭よりは上手い自信はあるんだが。


「ふぇー、知らなかったぁ。じゃあ、遊園地行こ、遊園地。賢君のお弁当楽しみにしてる」


 なんで遊園地?

 ……まぁ、変に怖い映画とか、アニメっぽい映画観てもなぁ。

 だからって恋愛とかアクションとか苦手だから、遊園地の方がマシか。

 弁当は任せなさい。

 大船に乗ったつもりで。

 これが本物のからあげに、卵焼きだ。


「んじゃ、九時にお迎えにあがりまっす」


 ありがとうございまっす。

 ……だからさ、母さん。

 聞き耳立ててるのここから見えるんで、バレバレなことしないでくださいよ。

 迷惑です。

 デートじゃないって、デートじゃ。

 俺と蘭はそんな仲じゃないってば!

 いや、「まだ」じゃなくて!


「おはよー。もうちょっと遅かったら先行くとこだったぞぉ?」

「俺ってばちゃんと弁当詰めてただけなんだが……それと、久しぶり」

「ん? 久しぶり? 遊園地のこと? ……あ、お母さん、行ってきまっす」

「……なんか、久しぶりな気がしたんだ。気のせいならいいが」

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