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姉として

***<神田姉視点>***


 小森明人の化けの皮を剥がす。

 そのために私は小森明人に試練を与えた。

 小森明人が優希ちゃんの外見に惹かれていて、性的な目で見つめているなら当然ながら外見的特徴ばかりが出てくるはず。

 そうなればこっちのものだ。後は詰将棋の如く、じっくりと小森明人の弱弱しい表情の裏に隠れた獣を暴くだけ。


 そう思っていた。


「寝顔が可愛い! 洒落を言った後に恥ずかしそうに視線を逸らすところが可愛い! 勉強を教えてくれる時に髪をかき上げる仕草が可愛い! 階段に腰かける時、チョコンと小さく座るところが可愛い! 何より、褒められた時に照れ臭そうに言うありがとうが可愛い!!!」


 怒涛の勢いとは正にこのことを言うのだろう。

 恐るべきことに、小森明人は優希ちゃんの可愛いところを次々と言ってきた。しかも、腹立たしいことに誰でも言えそうな外見的特徴ではなく、優希ちゃんと共に過ごしているからこそ分かるような部分ばかり。

 何よりも悔しいのは、私ですら知らない優希ちゃんの可愛いところを言っていたところだった。


 驚きと悔しさが混じり合い、暫く呆然としてしまったが、小森明人の視線に気づき直ぐに小森明人を睨みつける。


 小森明人……こいつはただものじゃない。


「ふ、ふん! 中々やるじゃん。でも、それだけ優希ちゃんの可愛いところが分かってるなら今日は楽しみで仕方なかったはず。それにも関わらず、君は優希ちゃんを待たせた。それが私には許せない」

「……それは申し訳なく思ってます。でも、僕は早く着きすぎて神田さんに気を遣わせてしまうのも嫌だったんです」

「……どういうこと?」

「神田さんは優しい人です。それに、僕みたいな人間のことをも気遣ってくれる。だからこそ、自分が相手を待たせたことに罪悪感を感じてしまうと思ったんです。だからこそ、三十分前がベストだと思いました。一時間前は流石に速すぎると思ったんです。……いえ、これは言い訳にしかなりませんね。忘れてください」


 悔いの残る表情で小森明人が視線を下げる。


 そこで、私は優希ちゃんが今日の朝に言っていたことを思い出した。


『優希ちゃん。家出るの早すぎない? このままだと約束の一時間前に着くよ?』

『でも、明人を待たせたら申し訳ないし……途中で何があるか分からないから、早い方がいいでしょ』

『まあ、優希ちゃんがいいならいいけど』


 この男は、優希ちゃんの考えを理解して、その上で敢えて三十分前を選んだというの!?

 そんなの、ただの友達を通り越して、長年付き添った親友レベルの仲じゃん……!

 

 小森明人の恐ろしさに慄いていると、小森明人が突然頭を下げた。


「改めて言います。神田さん、待たせてごめんなさい」


 綺麗な直角九十度の謝罪だった。

 指先もピンと伸びている。これほどまでに真摯な対応を見て、小森明人を疑うほど私の目は腐っていない。


「……小森明人、ごめんなさい」

「え!? 神田さんのお姉さんがなんで謝るんですか!? 遅れたのは僕ですよ……?」

「ええ。でも、優希ちゃんは君を許してるのに私情で君を問い詰めたのは私。だから、ごめんなさい。優希ちゃんもごめんね。それじゃ、私は行くから。二人は楽しんでね」


 二人にそう告げて、私は身を翻す。

 この場に私は必要ない。


「待ってください!」


 だが、大人しく身を引こうとした私を止めたのは他でもない小森明人だった。


「小森、明人……?」

「あの、神田さんのお姉さんが神田さんを誰より大切に思ってることは良く伝わってきました。だから、よかったら一緒に遊びに行きませんか?」

「い、いいの?」

「はい。その、神田さんにも確認しなきゃですけどね」


 確かにそれはそうだ。

 そういえばさっきから優希ちゃんの声を聞いていない。


「優希ちゃん、私も付いて行っていい……かな……って、顔を手で覆ってどうしたの?」

「か、神田さん? 耳赤いよ? もしかして熱でも出たの!?」

「え!? 優希ちゃんそうだったの!? 私の可愛い優希ちゃんが熱を出してたのに気づかないなんて私のバカ!!」

「……がう」


 自らの愚かさを投げていると優希ちゃんが小さな声で何かを呟いた。


「え? 優希ちゃん、なんて?」

「違う!」

「ふぇ!?」


 優希ちゃんの大きな声に思わず変な声が出た。

 優希ちゃんは怒っているのか、私と小森明人を真っ赤な顔で睨みつけていた。


「お姉ちゃんも明人も、こ、こんな人がたくさんいるところで変なことしないでよ!!」

「え……優希ちゃん、お姉ちゃんなにか怒らせることしちゃった?」

「したでしょ! 明人に、その、変なこと言わせたじゃん」

「変なことじゃないよ。優希ちゃんの可愛いところだよ。ね、小森明人?」

「はい。そうですね」

「それだから! 人前で止めてよ! だ、大体知らない内にお姉ちゃんのほうが明人と仲良さげにしてるし……。そんなに楽しそうなら二人で遊べばいいじゃん」


 頬を膨らませてプイッとそっぽを向く優希ちゃん。


 嫉妬してる優希ちゃん可愛いぃいい!!

 この顔写真にとって残しときたい! ……じゃなくて、どうやら私と小森明人の戦いを優希ちゃんは勘違いしているようだ。


「優希ちゃん、安心して。私はこれっぽちも小森明人に興味ないから」

「え……」


 私の一言に小森明人が少しだけショックを受けたような顔を浮かべ、対照的に優希ちゃんは安心したような顔を浮かべていた。


「そうなの?」

「うん。私が愛してるのは優希ちゃんだけだよ!」

「そういうのいいから」


 私の愛情を示すハグを優希ちゃんはひょいっと躱した。

 受け止めてくれたっていいのに……。


「まあ、いっか。それじゃ、お姉ちゃんも明人も行こ」

「え? 私もいいの?」

「ここまで来といて今更でしょ。それに、お姉ちゃんにもちゃんと明人がいいやつだってこと知って欲しいし」

「「神田さん(優希ちゃん)……!!」」

「ほら、行くよ」


 自分で言って恥ずかしくなったのか優希ちゃんはそう言うとスタスタと歩き始めた。

 その後ろを小森明人が追いかけ、私もそれに続く。


 小森明人はいいやつ、か。

 そうだね。優希ちゃんが選んだ理由が何となく分かっ――。


「あ、神田さんその服可愛いね! よく似合ってるよ」

「そ、そう? 明人もシンプルだけど爽やかでいい感じだね」

「本当? 実はあんまり服持ってないから、これくらいしかないんだよね」

「そうなの? な、ならさ、私が選んであげよっか?」

「い、いいの!?」

「うん。代わりにさ、私の服も選んでよ」

「ぼ、僕でよければ……!」


 今にも肩が触れそうなほど近い距離でイチャイチャしだす優希ちゃんと小森明人。


「距離が近い!! なんなの? 付き合ってるの!? 私が知らないだけで二人は既にフォーリンラブなの!?」

「は、はあ? お姉ちゃん、何言ってるの?」

「そ、そそそうですよ! 僕と神田さんが付き合ってるだなんて……」


 口では二人ともそういうが、表情を見る限り互いに照れてはいるものの嫌悪感は感じていなさそうだった。


 私を油断させて優希ちゃんに自然に近づく動作が完成されすぎてる。

 このままじゃ、いつの間にか優希ちゃんが小森明人と結婚していてもおかしくない。


「小森明人、やはり危険人物みたいだね……!」

「え、ええ……?」

「明人、気にしないでいいよ。お姉ちゃん、たまにああなるから」

「そうなの? なんていうか、個性的なお姉さんだね」


 優希ちゃんを守れるのは私しかいない。

 小森明人、必ず君の素顔を暴いて見せる!!


 お姉ちゃんの戦いはこれからだ!!

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