第三話
「当然の権利だと聞いたことがありますけど」
少女は不思議そうな顔をして言葉を続ける。
「襲ってきた賊を返り討ちにしたのですから」
「なかなか……なんというか、弱肉強食なルールでやってるんだねぇ」
「とはいえ、私も話に聞いていただけですし、本当に襲われるとも、父のつけてくれた護衛が皆殺されてしまうとも思ってはいなかったのですが……」
「こう、監視の目とか、通報する手段とかは無いのか?」
傘が話に加わる。
「おや、そちらの方は……めずらしい、雨具に精霊憑依を?」
「そういうややこしいモノじゃねぇよ。それより……」
「ああ、ええと、質問の意味がよくわからないのですが、今のお話の流れだと、監視というのは、遠見や千里眼で街道で起こる出来事をずっと見ている、とかそういう感じでしょうか……?それはちょっと、大賢者様でも難しいかと。通報……どこかの詰め所にここから連絡ということであれば、遠話の魔法や器具は、あるとは聞いたことがありますが私は見たことがありません」
なんとなく傘の言いたいことを察してそう答えると、少女は少し考えする仕草をした。
「あなた達お二人……でいいんですよね?は、一体どこから……?」
少なくともこのあたりの住人ではない、大きくかけ離れた文化や考え方といった物を、彼らの口振りから感じたようだ。
「うーん、あっちの方、かねぇ?」
猫が歩いてきた方を指す。実際それしか知らないのだから仕方がない。
「いやいやいや、あっちは私が来た方じゃないですか」
「それがよくわからねえんだよな。気づいたらそこら辺にいて、こっちで嬢ちゃんが襲われてたから首つっこみに来ただけだからよ」
しかし、さすがに一般常識を備えた人間は、突然その辺に現れたとは思わないものである。
「……まあ、言いたくない事情があるということは何となくわかりました」
「それでいいかなぁ……」
猫が空を仰ぐ。青い空には雲がうっすらと漂っていて、懐かしさに涙が出そうになる。
「空が青いねぇ」
それを韜晦と受け取ったのか、少女はそれ以上追及しなかった。
「じゃあ、私は……」
そこで振り返る。護衛と、あと賊と馬、御者。死者ばかりだ。
「護衛の皆さんを……せめて埋葬だけでも……」
「しかし、どうやって掘るつもりなんだね?」
困った顔をしてヒゲを引っ張る猫。
「馬車の中にスコップはありますから」
「ふむ……ちなみにどのくらいの穴を掘ればよいのかな?」
少女がだいたいの大きさを説明する。
「そのくらいなら、任せてもらおうかね」
「でも……」
「まあまあ。後で油がいただけるのだろう?どこに掘るんだね」
そう言いながら少女を穴を掘るべき場所に促す。道のはずれの茂みの中に掘るらしい。移動中の死者を弔う一般的な方法なのだろう。
「そんなこと言って、実際穴を掘るのは……」
「そこはほら、持ちつ持たれつってやつだよ」
傘が不満そうに言うのを猫が遮る。
「傘が何を持つって言うんだよ……」
「ケツとか責任とか、支払いとか?」
「持てねぇよ!」
軽口を叩きながらあっという間に傘で穴を掘っていく……というより土を弾き飛ばしていく様に、少女は目を丸くしている。
「ついでだ、護衛のおじさんたちも運んどいてやるよ。嬢ちゃんの服が汚れちゃいけねぇ」
「いいかっこしようとして……誰が運ぶんですか、誰が」
今度は猫が不満そうだ。
「それこそお互い様って奴だろう?」
「まあ、そうですけどね」
「あの……その、すみません、ありがとうございます」