○校生でも恋がしたい!
※文化祭用の脚本です。パロやパクリが見受けらるはずですがあくまで学校のなのであまり神経質にならずにお読みください。
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とっくに桜が散りきってさんさんと太陽の光が降り注ぐ5月上旬。すっかり新生活にも慣れて高校生としての自覚を感じつつも5月特有の気だるさを感じる、そんな日に彼女はやってきた。
「皆さん、今日は海外からの転校生を紹介します。」
(珍しいなこんな季節に、しかも海外?)と思っていると
「夏目ミクさんです、オーストラリアから転校して来ました。」
「はじめまして!夏目ミクです。みんな仲良くしてください!」
「じゃあ、夏目さんはそこの○○くんの隣の空いてる席にどうぞ。○○、せっかく隣になったのだからちゃんとこの学校について案内してあげてください。」
正直この時は心底面倒だと思ったが同時にダレてきたこの新生活に新しい風が吹いてくる。そんな予感がした。
「これからよろしくね、○○さん。分からないこといっぱいあると思うから教えてください。」
「ああ、よろしくね。夏目さん」
少しだけ、明日からの学校が楽しみなようなそんな気がした。
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自己紹介が終わってルーティンのように授業を受けて、昼休み、俺は夏目さんに校舎を案内していた。職員室、体育館、グラウンド、プール、様々な所を回っていた時に彼女は言った。
「…ところでさ、○○くんは部活に入ってるの?」
「部活か、いや入ってないな。」
「そっか、私、陸上部に入ろうかと思ってるんだけど、どう思う?」
「陸上部か、ウチの学校は強いからな、ついていくやる気があるんだったら入ってもいいと思うぞ?」
「うう、そう言われると不安だよぉ、、そうだ!部活入ってないなら○○くん一緒に陸上部に入らない!?」
俺は正直、家に帰っても勉強もせずにゲームばかりしている今の生活がよくないのだと感じていたのでこの話は中々面白いものだと感じた。
「うーん、それもなかなかいいかもしれないな、ちょうど何か新しいことを始めたいなとおもっていた事だし。」
「じゃあ、一緒に陸上部に入ってくれるって事?」
「そうだね。」と軽く答える
「やったあ!これからよろしくね!○○くん。」
その後も校舎を回り、午後の授業を受けて帰宅の時間となる。
とまあ、転校生が来て、案内をし、部活への入部を決める、そんな怒涛の日に僕は久しぶりに大きな刺激を感じたのだった。
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それから数日後、俺は夏目さんと一緒に陸上部の体験入部に来ていた。
赤く綺麗なタータン、吹き抜ける疾風、熱気溢れる部員達全てが新鮮だった。
「君達が入部希望の子かい?僕は陸上部の部長をやっている天野銀河だ。よろしくね。」
「「はい!よろしくねお願いします。」」
凄くイケメンの部長だ。これは女子をモテまくるんじゃないのか、思わずそんなしょうもないことを考えずにはいられない程の男が目の前にいたのだ。
「見ての通りウチは全国を目指しているチームだ。まずは君たちの実力が見たい。」
「え!?」
見学だけだったはずがなんて事だ。まさか走ることになるなんて。あれよあれよの流れで先輩達と共に記録を測る流れとなった。
結果は2着だった。一緒に走った数人の中では部長の次であった。
元々走るのは凄く得意だった俺は少しだけ、プライドが傷ついた。要するになんだかとても悔しかったのだ。
「はあはあ」
「お疲れ様!○○くん、凄かったね!まさかあんなに速いなんて思わなかったよ!」
「少しは自信あったんだけどね、やっぱり部長は速えな、軸が全然ブレてない、ありゃ凄まじい練習の賜物だな。」
そんなこんなを話していると部長がやってきた。
「いやー○○くん予想外にすごく速いね、1年生にこんなに迫られたなんて初めてだよ。入部大歓迎だね。これからよろしく頼むよ。」
「ああ、こちらこそ」
そうして、この日俺達は入部を決めたのだ。俺はひとまず、部長とインターハイ出場を目標にして頑張ろうと思った。
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数日後、俺は部長と400メートルの併走をしていた。
前を滑らかなステップで翔ける部長を必死の形相で追う。
捉えらるか捉えられないか、ギリギリで最終直線に入る。
「っ…あ……くっ!」
最後のスパートを掛けようとした瞬間、部長はそれを読んでいたかのようにタイミングをずらして飛び出す。
乱された僕はなにも出来ずに部長がゴールするのを眺めるしか出来なかった。仕方がないかもしれないがまた負けたのだ。
「お疲れ様惜しかったね!」
ミクがドリンクを持って近寄ってきた。
「ミク、ドリンクありがとう。外から見てどうだった?部長と俺にはなんの差がある?」
仲良くなった俺達は下の名前で呼ぶようになった。
「そうだね、単純な速力でいったら2人は同じくらいだと思う。実際100メートルのタイムだったら2人ともそんなに変わらないしね。でも部長の強みはそこじゃなくて終盤まで疲れを感じさせない滑らかなステップと体の柔らかさに差があると思う。」
「すごい、よく見てるね。」
素直に感心した。相手は国内において上位の選手でありまだまだ差がある。いきなり勝てるなら苦労しない。
実際にどうやって勝つのか、負けを全力で悔しがり、必ず潰す、そんな気持ちで挑んでやっと勝負になるかどうかの相手なのだ。そんな選手の特徴を瞬時に見抜いたのは良い眼を持ってると思った。
「確かに、撮ってもらった動画を見て分かるけど、足首の柔らかさが全然違うね、特にスタートで結構ロスしてる。そして最終直線前も良くないね。」
「そうだね!そこが改善すれば次は勝てるんじゃない?」
学べる部分は多い。しかし、勝つための道は見えている。この道をしっかり辿れるかが勝利への鍵だと確信した。
目標はインターハイ俺と部長が出場するつもりなのは200メートルと400メートル、ここで勝つ。そう誓った。
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敗北を知って強くなれ――そんな言葉が創作物ではよく出てくる
しかし、実際のところそんなものを知ろうが強くなるはずがない。敗北は敗北、意味は無い。問題はどう負けたか、なぜ勝てなかったのか、そこに意味を見出すことこそが勝利への道へ繋がるのだ。
何よりも負けを嫌い、予想外を想定内にし、敵をある時は完膚なきまでに叩きのめし、ある時は上手いこと味方に付ける。そういう貪欲な姿勢が大事なのだ。そんなこんなを考える中、ある決定的な事件が僕の身に起こる。
月日は流れて、インターハイを間近に控えた7月。
僕とミクは夏祭りに来ていた。
射的から金魚すくい。なんでもやった。
そして2人で花火を見るために神社の境内に登った。
「大丈夫か?足痛くないか?」
「へーきよへーき。陸上部を舐めないでよね!」
「舐めてなんか無いさ、心配なだけだよ。」
元気溌剌な彼女にドキッとする。いつもと違う浴衣姿に待ち合わせで会った時から心臓が高鳴ってしょうがない。
(クソ、こんな可愛かったけ?こいつ)
なんてことを思っていると花火が上がる時間になった。
ヒュルルルードン!!
一斉に花火が打ち上がる。
「わあ!綺麗!○○くんもそう思うでしょ?」
「そうだね。」
と、軽く返す。しかし、実際は俺は花火なんて見ていなかったのだ。花火に照らされる彼女の横顔が花火なんかよりよっぽど綺麗だと思ったから。
ああ、ようやく分かった。俺、ミクの事好きなんだな。
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その後、俺たちは夜道を歩いて帰る中、意外な人物に会った。部長だ。
「こんばんは。銀河先輩。夏祭りの帰りですか?」
普段とは違う、ヤンキーのような雰囲気だった。
「ん?ああ○○くんにミクさんじゃないか。こんばんは。そうだよ夏祭りの帰りさ。」
そう言って彼は俺とミクを舐め回すように眺める。
そうして口を開く。
「ふーん、なるほどね。ミクさん俺ちょっと○○くんと話したい事あるからさ、先帰ってくんない?」
「...分かりました。バイバイ○○くん!また明日ね!」
「また明日!」
そう返すのもつかの間、天野銀河が詰め寄って来た。
「なに?○○くん。君、ミクさんと付き合ってるの?」
「いいえ?付き合ってないですけど。」
なんでそんなことを聞いてくるのか分からないがそう答える。
「そう、なるほどねー。じゃあ俺にもチャンスがあるわけだ。」
「チャンス?」
「そう、チャンス。俺が先にミクさんに告白して貰っちまうって事だよ。」
ニタニタ笑って言う。天野銀河の本来の性格が剥き出しになった。優しいあの姿は偽物だったのだ。
「っっ!ふざけないで下さいよ。何なんですか?一体。ケンカ売ってるんですか?」
一応、念の為そう言っておく。穏便に済ませたいが見過ごせない。
「ケンカを売るねぇ。そうだ。じゃあ1つ勝負をしようじゃないか。」
「勝負?」
「そう、勝負。今年の間に1回でも俺に勝ってみろよ。そしたら告白しないどいてあるかもな?」
とんでもないセリフだった。思わず飛び掛かりそうになったが寸でで堪える。
「何言ってんすか?何処からそんな自信が?」
「あるよ。自信。走るのにだって恋愛にだってね。だってほら俺って全国トップクラスの選手でありながらほら、超イケメンじゃん?」
クソ野郎であった。この男、仮面を被っていたのだ。
「チッ...ああ、いいぜ乗ってやるよ。今年中に必ずテメーを打ち負かす。」
「ハハッ、期待しないでおくよ。」
そう言って、奴は天野銀河は去っていった。
フツフツとマグマが煮えたぎる様であった。
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インターハイ前日
「明日は待ちに待ったインターハイだ、緊張してるかい○○くん。」
そう、おどけた口調で部長が話しかけてくる。
「いやいや、全然大丈夫ですよ、全力を出すだけです。緊張するような事はありません。それに俺、部長に勝つのが目標なんで。」
「そう、なら全力で掛かってこいよ。じゃなきゃ俺、ミクのこと貰っちまうぜ?」
「ちっ、あんた今その話関係ないだろ?インハイ前日にふざけたこと言ってんじゃねぇよ。」
一瞬にして腸が煮えくり返りそうだった。
「いやいや、そんなつもりじゃないよ、ちょっと発破掛けただけさ、キレんなよ、おい。」
「まあ、いいです。お互いにベストを尽くしましょうね?先輩」
「頑張れよ?後輩」
特に他意の無い、月並みのやりとり。
しかし、秘められた思いは尋常ではなかった。
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インターハイ
それは全国の運動部に所属する高校生が1度は夢見る晴れ舞台だ。
普段と同じはずのタータンからは夏の暑さと観客の熱気によって異様な熱を誇っている。
まさに今、俺は400メートルを走っていた。
『位置取りが最も大事だよ!』
(よし、好位置、いける!)ミクの、言葉を思い出し前を走る部長を追う。
最終コーナー前で先頭に躍り出る。一瞬速度を緩めた部長がピッタリと自分に張り付く。
最終直線直前で自分は追い込みの姿勢に入った。
ふと、空気が変わった。
国内トップクラスの選手である部長、それが今背後に居る。
食いに来ている。このままでは食われる。
獰猛な獣に背後から襲いかかれられる。そう錯覚しそうだった。
「ちく..しょう!ふざけんな!酷い酷すぎる!!こんなのってないだろ!ここまで必死やって来たのにこの男、まだ本気で走ってないなんて!!!」
差されるこのままでは差されてしまう、そう思った矢先、一陣の風が猛然と通り過ぎていった。
目の前が真っ暗になった
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9月上旬。俺たちの学校は体育祭の準備をしていた。
部長に大敗を喫して1ヶ月。未だ勝てるビジョンの見えぬままただ時間だけが浪費されていく。
「ところでさ、○○くん体育祭では銀河さんにリベンジするの?」
ふと逡巡すぐさま答える。
「いいや、勝負はしないさ。冬に選抜があるだろ?
そこで勝負しようかなぁとおもってね。」
「...それって、ちょっと逃げじゃない?」
...痛いとこをついてくる。
「逃げってなんだよー。体育祭は楽しむもんだろ?
そんなガチにやったら引くって(笑)」
笑って誤魔化す。
「ええ?引くってなんで?頑張ってる姿がかっこ悪いってこと?それって、今どきの小説の主人公によくある無気力ダウナー系だけど本気を出すと超強いみたいな、そういうやつ?
」
「そんな大層なもんじゃない。それにもう出場する種目は決まってるから今更同行できないよ。部長は確か200メートルに出場するんだろ?俺はリレーと障害物競走にでるんだよ?それに戦ってもどうせ勝てないって(笑)」
ふと、本音が出てしまった。
「それは違うよ!」
突然、大きな声でミクは叫んだ。
「戦う前から諦めるなよ、1回負けたからってなんだよ、全部終わったみたいな顔しちゃってさ。インターハイ終わってから部活でも全然やる気を感じないし、そんなんで口だけはいつかは勝つ〜なんて、何様のつもりなんだよ!私がフォローしようとしても気にも止めないじゃない!そんなのかっこ悪いよ!本気でやれよ!本音は勝ちたいんだろ!!!」
雷鳴のように俺に響いた。しかし、俺は強がって
「う、うるさいな!仕方がないじゃないか!い、今更どうこう言ってもしょうがないだろ!」
「それはそうだけどさあ!」
歯切れが悪い。そう、しょうがいことではあるのだがそれを招いたのは自分だ。1度負けたからって知らず知らずのウチに逃げていたのだ。ハッと気付かされても、恥ずかしくて感謝なんて伝えられない。
でも、消えかけていた魂に再び火が付いた。
そう、感じた。
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体育祭当日。カラッとした天気に気持ちのいい風が心を晴れやかな気分にさせていた。こんな天気のいい日はピクニック〜なんて思ってもないことを言い出しそうなそんな気持ちのいい朝。
「おはよう、ミク」
「おはよう○○くん!いよいよ体育祭だね!やる気はどう?ばっちぐー?」
「ばっちぐーなんて今日日聞かないな(笑)うん、絶好調だよ、今なら記録更新だって狙えそうだよ。」
「それは良かった〜うん、いい日にしようね!」
「ああ、そうだね」
そんな軽快はやりとりをしている中、突如事件は起こった。
クラスの委員長が叫ぶ。
「大変!ウチの団の200メートルに出場予定だった子が休んじゃってこのクラスから代わりを立てなきゃいけないみたい!」
フラグ立ってたかも知れない。ばっ!とミクの方を見るとなにやら期待に満ちたニヤニヤした顔でこっちを見ていた。
....やるしかないか。
「だったら俺が出場するよ。」
委員長は言う
「ホント?ありがとー!」
神様はいないかも知れないけどフラグってのはちゃんと存在するのかな?そう思った。
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200メートルに向けてウォームアップをする中、ミクと部長が話しているのを見掛けた。無視してウォームアップの続きをしようと思ったが...気になる。歩が止まる。
盗み聞きは良くないなとは思うが聞こえてくる。遅かった。
「銀河さん、お疲れ様です。」
「ああ、ミクさん。どうも。」
妙に距離感が近い。焦燥。
「ミクさん。最近○○の調子はどう?良くやってる?」
「そうですね、ちょっと前は抜けてたかも知れませんが今はいい調子ですよ。」
「そうなの、どうやら僕の指導が足りなかったみたいだなぁ」
濁したような、変な言い回しだ
「そんな!とんでもないですよ、銀河さんには良くしてもらってます。尊敬する先輩ですよ!」
天然なミクは部長の言葉の隠された意味に気づいていない様だ。その事実に俺は苦虫を潰したような表情を浮かべる。
「ありがとう。そう言って貰えて光栄だよ。そうそう、素直な君は部活内でも結構人気なんだぜ?彼氏とか居ないの?」
(イラつくなぁ...分かって言ってやがる。)
「そんな!居ませんよ彼氏なんて〜」
「そう、じゃあ俺立候h...」
気付いた時には飛び出していた。そしてミクの肩を抱き寄せる。
「約束と違ぇだろ、クソ野郎。」
銀河は嗤う
「一言も守るなんて言った覚えはないんだけどなぁ(笑)」
殴りかかりそうな気持ちをぐっと堪える。
「お前、首洗って待ってろよ?影すら踏ませずに勝ってやる!」
「そう、楽しみに待ってるよ。それじゃ、アップがあるからお先に。」
そうして、奴は去っていった。ふと、気づく。
「あ!ごめんミク。急に...」
顔が赤くなる。言葉が上手く繋がらない。
「ううん、全然大丈夫。....それよりも、頑張ってね?」
「う、うん頑張る。」
恥ずかしさで一杯だった。
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200メートル本番。スタートを迎える。
全員揃った綺麗なスタート。一瞬で勝負が付く。
必死で走った。まさに疾風迅雷の如く。
そのままトップでゴールテープを切った。ふと、気づく。
(あれ?部長は?)
いつもいつも前にいる相手が今日は居ない。そう思っていると、アナウンスが鳴り響いた。
「えー、ただ今のレース。写真判定の結果、天野銀河選手、○○選手を同着1位とします。」
「はぁはぁ...同着?この俺が?部長と?」
部長に目をやるとこちらを睨みつけていた。
部長はサッと近づいて吐き捨てるように言った。
「次は完膚なきまでに潰してやるから、覚悟しとけや。」
傍から見れば完全な負け惜しみ。俺は初めて化け物への挑戦権、スタートラインに立ったのだ。どうして今回はこんな結果になったのかは恥ずかしながらよく分からない。それでも、確かな自信へと変わった。
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」
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12月 冬の選抜。
3年生最後の大会。つまり俺と部長との最後の勝負の機会。
400メートル決勝。
集うは全国からの化け物達。
「大丈夫だよ。○○くん君なら絶対勝てる。今日まで血のにじむような努力をしてきたじゃないか。自分の足を信じて、ね?」
相変わらず優しい。ここぞというタイミングでいい事を言ってくれる。本当に良い女子だ。感謝しかない。
「ああ、コンディションはバッチリ。行ってくる。」
今日ここで部長を打ち負かす。奴にだけは負けられない。
ちゃんと勝って、ちゃんと告白する。必ず。
「スー...フゥー...」
頭は恐ろしいほどにクリアだ。俺はスタートの構えをとる。
このレースに負けたら終わってしまう。倒すべき相手は7名
全国から集まった化け物共。全ては薙ぎ払ってテッペンに立つ。そうして証明する。最強は俺だと。
過去最高の集中状態でスタートの合図を待った。ヒリヒリした緊張が心地良かった。
「ーー!!」
号砲が鳴る。一斉に飛び出す。
(ここで振り切られたら負ける!ついてく!絶対!)
俺は部長に張りつく。周り全てを置き去りにする。最速のスプリント。
(これで最低条件!これでやっと対等!)
恐らく単純はスピードだけなら俺は天野銀河を完全に凌駕しているはずだ。だが悔しいことに奴は本当に上手い。
無駄が一切ない完璧な走り。要は勝負はまだまだこれからなのだ。肝心なのはここから。400メートルはまだまだ長い。
どうせ勝てないなどあきらめてはならない。挑戦しなければ越える事など絶対に出来ない。
持てる力全てをぶつける。
絶妙な位置取り。グッと詰めてプレッシャーを与える。
(そう、そうだ!気にかけろ!一瞬の綻びが勝負の鍵!)
しかし、流石は部長。プレッシャーなど一切気にしていないかのように猛然と駆け上がる。
(っっ!ちくしょう!まだまだ!!!)
最終コーナー直前。前回のインターハイではここを潰されて負けた。でも今回は違う。思い通りにはさせない。
先頭に躍り出る。
(奴の妙なペースに惑わされるな。あんなのは1回コッキリのトリックだ!)
心を燃やして一心不乱、電光石火のように駆け上がる。
肺が苦しい、息がもたない。でも目の前に広がるのは誰も居ない晴れやかな光景。
譲るわけには...いかない!
「「「ああああああああ!!!」」」
飽くなき1番への飢えが全てを覆す。
影すら踏ませない。捩じ伏せる。
星すらも撃ち落とす。
全てを討ち滅ぼして、ゴールを切る。
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息を荒らげている天野銀河。
「ゼェー...ハァーッ...ゼェーッ..ゴホッ..」
そこに声を掛ける。
「おい、銀河、勝ったぞ。約束、守れよな?それじゃ。」
長い言葉は要らない。これで充分。結果が全てだ。
そう、遂に俺は天野銀河に勝利を収めたのだ。
―――――――――――――――――――――――――
大会後、俺は遂にミクを呼び出した。
「なぁに?話って?」
「えっと...」
言葉が詰まる。突然話せなくなったみたいに声が出ない。それでもと、意を決してなんとか口を開く。
「ミク!夏祭りの時から君の事が好きだ!付き合ってくれ!」
....なかなか返事が無い。これは終わったかと思い目を向けると、ミクは...泣いていた。
「ずっと、ずっと待ってたんだよ?ありがとう...好きって言ってくれて。私も好きです。付き合ってください。」
まさかの逆告白に目を剥く。心よりも体が咄嗟に反応した。
「あ、ああ勿論!」
そのまま抱き寄せる。
12月。寒波によって風さえ凍りついてしまうような寒さの今日。
不思議なことに俺は暑くて暑くてしょうがなかった。
きっとこの先、沢山の困難がある。挫折がある。
それでもきっと2人でなら乗り越えられるーー
そう信じて、夏目ミクと俺は笑いあった。