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許されているわたしの海

作者: 成田ミュウ

 生きるのが辛く、苦しみが泉となってわきだす日々を、いまのわたしは歩いています。


 でも、そんなわたしにも悩みのたねが晴れわたる真っ青なときがあったのです。


 それはまだ、わたしがわたしではなく、海だった頃のおはなし。


 そうです、わたしが海だった頃、なごやかでやさしい風が吹いていました。


 ■


 海だった頃、わたしはわたしではありませんでしたが、たしかにわたしはいました。


 悩みのない海に魚が泳ぎ、椰子の実が海流にのって、気ままに流されてゆくのです。


 クジラのお腹に大聖堂があるのでしょうか? オルガンが鳴りひびき、クジラの吹き上げる潮に虹がかかります。


 そしてその虹のグラデーションは、聖なるうたの音階をしるした楽譜となりました。


 許しながら海は、海でありつづけることを許されていたのです。


 ■


 だけれども人魚がさよならの挨拶をいいにきたとき、海は海であることをやめました。


 光がひらけ、海はやぶれ、洪水とともにお母さんの体から流れだすわたし。


 あれほどまでに大きな海はなんと小さな水たまりだったことでしょう。


 海が終わったことを知ったから、ついにわたしはわたしとなったのです。


 ■


 いまは悩みの多いわたしの生活ですが、ほのかに思い出すことがあります。


 こんなわたしのなかにも、すべてが許された、ブルーに輝く海があることを。


 いつ、わたしは海であったことを思い出すのか、その日のおとずれを楽しみに待つのです。


 コウノトリとともにあなたがやってくるまで、虹の聖なるうたをくちずさみながら。



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― 新着の感想 ―
[良い点] Noveleeのルークです! 海とわたし、というテーマで書かれた美しい文章でした。 海だった頃、わたしはわたしではありませんでしたが、たしかにわたしはいました。という抽象的かつ本質をつくよ…
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