ある聖女の話
こんな感じにするつもりはなかった。気が乗れば大きく書き換えるつもりかもしれない。
天啓が下ったのよ。世界は間違っている。私が正しいって。
ある日突然、わたしは目が覚めた気分になったの。今まではずっと曇り空の下にいるようなそんな気分だった。でもその日を境にして、わたしは変わったの。晴れた青空にいるような気分なの!何もかもが新鮮で気持ち良くて。そして、世界が間違っているという天啓について考えることが多くなったの。
この世界はね、王様がいて貴族がいて、わたし達庶民がいるの。王様や貴族はね、わたし達から税を取り立てて贅沢な暮らしをしているの。わたし達のところの暮らしはそんなことはないのだけれど、川が氾濫して村一帯が水没したところは住むところも食べ物もないと毎日嘆いていると、そこに妹さんが住んでいる隣のおうちの人から聞いたってお父様が。わたし、それは良くないと思うのよ。だって命は皆平等じゃない?だから財産や食糧、土地とか何もかもみんな平等に分け合えばいいのよ!身分とか地位とか関係なくね。わたしこれ閃いたとき、頭いいー!!って思っちゃった。お父様にもお話ししたら、お前はできた娘だですって!ふふっ早速みんなに教えなくちゃ!と思ってご近所の仲の良いお友達にお話ししたのよ。レオっていうの。わたしの大切な幼なじみなのよ。きっとわかってくれるはずよ。
…………でもレオはわかってくれなかった。すごくすごく悲しかった。しかも、その話は誰にもしちゃダメって………。どうしてかしら。レオとはすごく仲がよくて毎日のように遊んでいたのよ。一番の理解者になってくれると思っていたのに………。だから、もう絶交よ!っていってしまったの。後悔は…………ちょっとしてる。絶好っていったとき、ちょっと泣きそうになってた。だからお父様に相談したの。そうしたら、レオはわたしのことを理解できない凡人だって。だから気にすることはないって。わたしの偉大さがわかればまた擦り寄ってくるって………。でもわたしは今仲直りしたかったんだ………。……………仲直りしたいな。
近所の人に話をしたけど、みんな笑ったり馬鹿にしたりしたの。……真面目に聞いてくれたのは幼なじみの彼女だけだった。今はもう仲良しじゃなくなったけど……。わたしが話をするたびに彼女が遠くから何かいいたそうにしているの。どうしていいのかもうわからないけど、お父様は友達は選べですって。なんだか、嫌な気持ち。
お父様が懇意にしているという貴族の方が家に来たの。わたしの話を聞きに。優しそうな雰囲気の人だけれど、なんだか……わからないけど……嫌な気持ちになるの。でも、お父様が話しなさい、というから、とりあえず話してみたの。天啓だという話から何から何まで。この世界は何か間違っているって。話を聞き終わったらその人は拍手をしてくれたの。馬鹿にされると思っていたんだけど……。素晴らしいって。その人も王様なんて要らない、全て平等な世界なんて発想思いつかなかったって。………わたし、その人がその言葉を使うとなんだか不安を感じてしまうの。なんでだろう。
その貴族の人はそれからうちによく来て、わたしに家庭教師をつけてくれたり、ドレスを贈ってくれたり、きれいな宝石がついているアクセサリーなんかもくれたの。お父様はすごく喜んでいたんだけど……。わたしなんか怖くて、お父様に話してみたんだけど、わたしは子どもだからわからないんだ、の一点張りで話を聞いてくれなかったの。お父様が変わってしまったのかしら。昔はたくさんわたしの話を聞いてくれたのに………。
ある時、その貴族の人がわたしを夜会に連れていってくれたの。とても素敵できれいなドレスをきた人がたくさんいてわたし目が回りそうだったの!花のような匂いが溢れていて……。ちょっと臭かった……。でもあれが高貴な香りなのかな?わたしは草原の匂いの方が好きだけど。木の匂いとか。わたしにはわからないわね。
その人はわたしに色々な人を紹介してくれたけど、みんなわたしを値踏みするような目で見て、なんだか気持ち悪かった。変な目で見るおじさんもいたし、貴族の人って変な人が多いのかな?難しい話ばかりしていたけど、わたしのことを話していたの。いざとなれば……とか、隠蓑とか、学園でとか、周りの話し声であまり聞き取れなかったけど、わたしを連れてきた人が他の人を説得している感じだったの。美味しいごはん食べれたのは嬉しかったけど、あまり面白くなかった。きれいなお姉さん達見れて、ドレス着れたのは嬉しかったけどね。
学園への推薦状をその貴族の人がもってきたのは、その夜会に参加して数ヶ月経ってからのことだったわ。学園に入学して、友達をたくさん作って貴族の人に紹介しなさいって。特に五大侯爵家の人と仲良くすると嬉しいと言われてたの。わたし、身分違うのにそんなことできるのかしら……。そんなことその貴族の方にいったら、とても素敵なペンダントを貰ったのよ。その貴族の方がいうには、みんながわたしと仲良くしてくれるものなんですって!まあ、気持ちの問題だと思うけど、お父様のために頑張ろうと思ったの。
でも、そのペンダントをつけてからなんだかおかしいのよね。頭がぼーっとすることがあって。わたしに下った天啓をみんなに話したり語り合ったりしたりもしたんだけど、あまり覚えていないの。とても高位の方とも知り合いになったり良くして貰ったりもしたんだけど……。残念だったな。その高位の方を覚えていれば、その天啓について話をたくさんしたかったのだけれど。時々、わたしに推薦状をくれた貴族の方がきて、何かいったりしてたり、うーん、転んで怪我をしたのを誰かのせいにしてとかいわれたような気もするけど、あまり覚えていないのよね。わたしこんなにばかだったのかしら?
学園生活なんてほとんど覚えていないのが残念なところ。気付いたらたくさんの人が周りを取り囲んでいたの。偉そうな人がペンダントをもっていて、誰からもらったのか聞いたからあの貴族の名前をいったの。それから学園生活のこと色々聞かれたけど……。ほとんど答えられなかった。わたしボケてしまったのかしら?バーバラ様?の婚約者のこととかいわれたり、王子様とか、伯爵家の令息とか、よくわからない名前が出てきたんだけど心当たりがなくて……。周りの雰囲気のこともあったから、何かしてしまったのかと聞いたんだけど……。何も悪くないといわれたわ。……それって何かしてしまったけど、わたしには責任はないってことなのかな?
その場にいた偉そうな人が学園に戻りたいか聞かれたけど、戻らなくていいなら戻りたくないって。お父様のところへ帰りたいっていったの。そしたら、その人は学園には戻らなくてもいいけど、お父様のところには戻れないっていわれたわ。理由は教えてくれなかった。悲しくて悲しくて泣いてしまった。だって大好きなお父様と二度と会えないっていわれたのよ。泣くしかないじゃない。ずっと泣き続けたの。涙なんて枯れなかった。永遠に泣き続けられると思ったんだけど、魔法使いみたいな人が来てわたしを引き取ってくれたの。身も知らない人よ。だからわたし嫌だった……。でも正直行くところはないし、お父様と会えないし、どうしていいのかわからなかったからついて行ったの。もう食べられても思い残すことはない!って思ったから。こうなってしまったのも、わたしに天啓が下ったからなのよ。もう、天からの声なんてきかない!!聞こえなーい!!見えないんだから!
***
「レオ、彼女は元気でやっているかい?」
「父親と離れて少し落ち込んでいるようだけれど、少しずつ元気になってるよ」
「そうか。君に彼女のことを託していたつもりだったけど、うまくいかなかったね」
「そんなこといわれたって、彼女と同じ十代のがきなんだよ!……せめて力が使えれば良かったのに……。それも封じてしまったんだ。守り切れないさ!」
「それは仕方がない。掟だからね」
「じゃあ権力をくれたら良かったじゃないか!?」
「それじゃあ、彼女の近くで守れないだろう?」
「じゃあどうしろっていうんだよ!?あれも駄目!これも駄目って何もできないだろ!!」
「そこは、ここ。頭を使うんだよ」
「んん!?頭かち割ればいいのか!?」
「物理的な使い方じゃないよ?大丈夫かい?」
「わかっていっているから、不要な慰めだ!!」
「それじゃあ、今回みたいに悪魔につけいられないように気をつけて、次代の聖女を守ってね」
「……わかってる。次はヘマなんざしないさ。命をかけて守るんだ」