表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

5

「……うーん、トーコさんは本当に色んなものを拾ってくるね」


いや好きで拾ったわけじゃ。

何となく気になって。


「で、これ何だかクルト所長分かります?」

「何だろう……?石だと思ったけどちょっと違うよね……。」

困ったように首を傾げたクルト所長に、シャオがデスクに飛び乗ってくる。

「俺もこんなの見たの初めてだなぁ」


 デスクの上には楕円形の平べったい石?なのかな?が一つ。

バスケットからはみ出すくらいの大きさだったけど重くはなかったので持って帰れた。

淡い青色で綺麗だ。


「ガラスかな、と思ったんですけど違うんですよね。柔らかいし。でも弾力はあるし」

 指先でつっつくと沈むので固い素材ではない。

あれだ、ウレタンみたい。

でも軽くはなくてそれなりの重さもある。

 うーん、サンドイッチ作る時のいい重しになりそうではあるんだけど。


「あ、でも寝心地はいいぞ」


シャオが寝そべって、ご満悦になる。

うん、シャオのベッドでもいいかもしれない。

シャオのベッド代わりに持って帰ると言うと、クルト所長が最初は渋ってたけど最終的には許してくれた。


「何か気になるようなことでも?」

クルト所長の難しい顔が気になって聞くと、うんうん、と眉を寄せてうなる。

「いや見たことないものだから、気になるだけなんだけど」

「私の前世では、川から流れてきたものを割ったら、赤ん坊が生まれてきた、なんておとぎ話もあったりすますよ」

「え、卵?」

「いや、桃です」

と、何か脱線してしまったけど、私がよいしょ、とバスケットに石を入れると念押しするように言われた。

「もし何か不自然なことが起こったらすぐに知らせてね」

「不自然って?」

「んー、光ったりとか熱くなったりとか……」

「分かりました。必ず報告しますね」


 それから一度家に帰って、石の上でさっそく寝そべったシャオに留守番を頼んで夕食の材料をもらいにいく。

いつもフローラさんのいる入り口近くの小屋を覗いてみたけれど誰もいなくて、遅かったかな?うちにあるものでどうにかするしかないかな?と考えていたら声をかけられた。


「すみません、今日はフローラはお休みでして。御用でしょうか?」


振り返ると、にこにこ笑う優しそうな年配の女性が立っていた。


「あ、すみません……夕飯の食材をいただけないかと思って来たんですが……」

「まあそうだったんですね。ではこちらへどうぞ」

 言われるまま、入ったことのなかった透明なドームの真ん中にある、大きな建物に入る。

ここには入ったことはなかったので、興味深く中を見回す。

本物は見たことないけど、映画で見た昔の教会によく似てるっぽい。尤も十字架はなくて、祭壇があって……って、え?



ここで待っているように言われた私は、祭壇を凝視した。



祭壇の一段上に飾られていたのは、石だった。

ただの石なら何も思わなかったかもしれない。

でも、それは。

今日、拾ったばかりの石によく似ていた。

色も、形も。

大きさまで。

 触ったら、柔らかいのも一緒かな?と思って祭壇に近づいて突っつこうとした時


「いけません!」


と鋭い声が飛んできた。

慌てて手を引っ込めた瞬間、手首を凄い力で掴まれた。

「ご神体に触ってはなりません」

さっきまで柔和な笑顔だった女性が、厳しい形相で私を睨む。



うああああん、前世の理不尽上司に睨まれた時を思い出すのでやめてえええええ。



「あ、あの……すみません、もうちょっとよく見たいなぁ、って思って」

 あまりの剣幕に「同じものらしき石を拾ったので、比べてみようかなと思って」などとは言い出せず謝るしかなかった。

私のしゅんとした態度に怒りを和らげた女性は、手首を離してから諭すように言う。

「いきなり私のほうこそ失礼しました。あれがご神体だと知らないということは、あなたは外から来た転生待ちの人ですね」

「は、はい。泉董子、董子といいます」

「トーコさんですね。私はジャスミン。この街の責任者のような者です。ご神体の管理も任されてます」

ほう、と息をついて、今度は冷静な声で私の行動を叱る。

「あれはこの世界を守るご神体と言われています。ですから一切動かすことはできません。この先ここへ来ることがあっても決して触れないで下さい」

「分かりました。知らなかったとはいえ、ごめんなさい」

素直に頭を下げると、食材の入った紙袋を差し出される。

「これを取りにいらしたのでしょう。持って帰ってください」

「ありがとうございます。わ、果物がある」

オレンジが入っているのを見て、フルーツサンド、シャオもクルト所長も喜ぶかなぁ、と考える。

「明日からはいつも通りフローラが表の小屋にいますので、そちらで受け取ってくださいな」

「分かりました」

頭を一つ下げて、夕暮れが始まろうとしている我が家へ向かう。

なんだか、背中を見送られている気がしたけど振り返るのはやめにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ