優しい鬼たち
小十郎は佐藤道元と名を変え日向の高千穂に行く事に決めた。
「お鶴が気になるのか。緒方惟義殿が目を光らせておるから大丈夫だろう。」
常陸坊海尊がそう言って話を続ける。
「それにしても惟義殿は上手い事やってくれた。白蛇王ではなく鬼の妻として育てるとはな。儂としては鬼ではなく〔八俣の大蛇の末裔白蛇王〕と名乗って欲しかったが。」
海尊が喋り終えると小十郎は
「京は鬼だらけだ。日が沈んで闇が広がればその中は鬼の隠れ家。多過ぎて捜しようがない。」
と笑った。
「確かにそうだな。白蛇の名を出すと感の良い奴等は九州の平家落人集落辺りだと気づくからな。それにしても椎葉に決めるとは流石惟義殿。」
海尊は感服して唸っている。その様子を見た小十郎は
「藤原秀衡も同じ事を言っていた。〈天晴、鬼を隠すは鬼の中。されど、お鶴を盗って喰らうでもなく妻とは鬼の目にも涙か。〉とな。」
と言った。
「お鶴の将来は鬼の妻か。腰抜けの平家残党には手も出せまい。それで椎葉でもお鶴と呼ばれておるのか。」
海尊の問い掛けに小十郎は
「椎葉では〔鶴富〕とか〔姫〕らしい。」
と答えた。
「戦は惟義殿が上だが名付けの趣は平家の奴等が上のようだ。名前と言うなら昔、美砂も〈義経様の御子を授かって男子なら〔大八郎〕にしようかしら。〉と言っていた。」
「海尊、余計な事を言うでない。猿の耳・烏の目だぞ。」
海尊が喋ると小十郎が言った。
「処で小十郎、何故道元なのだ。」
「継信と忠信の血縁だと名乗る。道元なら他の者と被るまい。」
小十郎は海尊に言った。
「兎に角、惟義殿には感謝している。喰ったのではなく妻として育てるのだ。能子も最初は会いたくて泣いただろうが、生きており鬼や天狗に護られているのだと安心もするだろう。」
小十郎も珍しく笑みを浮かべている。
「妹と姪っ子が気になるか。」
「また、つまらぬことを言いよって。さて高千穂に行くとするか。」
小十郎は海尊に言った。




