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那須大八郎宗久  作者: 黒井 羊
23/63

困った時の…

 乳母の実娘(じつご)の女児は充分に乳を飲みすやすやと眠っている。大八郎は相変わらず乳を飲み続けている。乳母は

「この子は日に日に大きくなるね。」

と嬉しそうに言った。

 美砂は静が鎌倉に連れて来られた時のことを思い出していた。


 大八郞を身籠った静は母親の磯禅師ともに鎌倉に連れて来られた。二人は安達清経邸で暮らすことになった。静は御台所(まさこ)に〈美砂に会いたい。〉伝えたのが、政子は静に〈今、旅に出ていて会えない。〉と言ったらしい。今の美砂にはその理由(わけ)がよく分かる。清経に面が割れるのを避けるためだった。美砂は政子の鋭さと周到さに感服するのみだ。

 清経は頼朝から〈義経と静の子が産まれ男児(おのこ)だったら殺せ。〉と言われたので、悩んだ末に梶原景時に相談した。

「梶原殿、私は鎌倉殿から〈男の子が生まれたら由比ヶ浜にでも埋めてしまえ。〉と言われているがとてもとてもそんなことはできぬ。」

と告げた。

 景時は清経に

「お主、(いくさ)で何人斬った。」

と言う。

 清経は景時に言い返す。

「そとこれとは別です。私は生まれたばかりの赤子にとてもとてもそんなことはできませぬ。」

「だから何だ。私にどうしろと言うのだ。」

「梶原殿は顔が広い。子供がいなくて困っている夫婦とか存じておらぬか。」

「困った時には私に頼み事をするのもある程度は分からぬでもない。だが今回だけは無理がある。鎌倉殿に知れたら二人とも流罪は間違いない。場合によっては打ち首だ。」

 景時は清経に冷たく言い放った。


 大八郎が生まれた日、静は殺気立っていた。抱かせて欲しいと言う清経の態度がおかしいと感じ取っていた。そこで磯禅師が〈じゃあ、私に抱かせて。〉と静が母親に渡そうとした瞬間に清経は赤子を奪い取ると、即座に部屋を跳び出した。

 政子は〈男の子だったら源氏の嫡子だとお祝いをしなくてはならない。〉との名目でかなり前から他の草の者も安達邸の周りに集めていた。

 その者の一人が〈私の子が、義経様と私の子が。〉と泣き叫ぶ静の声を聞き政子に伝えた。政子は即座隣室に控えていた飛鳶と美砂に清経が赤子を抱え由比ヶ浜に向かったと言った。


 清経は家から由比ヶ浜へ抜ける小径まで小走りで赤子抱いて走ったが、少し息切れがしたので歩く事にした。途中、やはり梶原景時がいた。

「やはり来てくださいましたか。」

 景時は頼朝から清経が本当に赤子を処分したか確認する役目を仰せつかっていた。苦悩の表情を浮かべている清経に景時が言う。

「一人では鎌倉殿から〈本当に役目を果たしたのか。〉と尋ねられた時、答えようがないではないか。」

 清経は責任が半分になってほっとした。

「梶原殿は頼りになります。」

 そう言って赤子を景時に渡すと、

「どうしても私にはできませぬ。 口裏を合わせます故、後はお願いして宜しいか。」

と自邸へ引き返した。景時は〈そう来たか。〉と一人小径を由比ヶ浜へと向かった。

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