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最弱賢者の転生者 ~誰も知らない知識で気楽に無双します~  作者: 木嶋隆太


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第三十六話



 セルギウスとともに町へと戻ってくると、冒険者たちが一斉に集まってきた。


「せ、セルギウスさん!? お久しぶりです! 無事で何よりです!」

「ああ、町も無事で何よりだ。遣いのブラックバードが来た時は驚いていたが、元気そうで何よりだ」

「え、ええ……まあ」

「色々と話したい事がある。町にいる冒険者をギルドに集めてくれ」

「わかりました!」


 セルギウスの言葉に、冒険者たちが一斉に動き出す。


「凄い、慕われているんだな」

「そうですね。セルギウスさんは『剣閃雷撃』を一人で立て直した優秀なギルドリーダーみたいですからね」

「なるほどな」


 先頭を歩く彼は、町の人々にも声をかけられていた。

 容姿は整っていて、実力十分。そりゃあさぞかしモテるだろう。


 セルギウスは愛想笑い程度を返しながら、歩いていく。

 冒険者ギルドにはすぐについた。

 ギルドにもすでに話はいっていたようで、冒険者たちがセルギウスを出迎えた。


「キャッツはいるか?」

「はい、奥にいます」

「わかった」


 セルギウスはすぐに受付へと向かい、奥から出てきたキャッツと話をはじめた。

 まだ冒険者は集まっていないので、その間に素材でも売却しようか。


 受付に並び、今日の稼ぎを回収していると、


「ロワール、ちょっとこっち来てにゃー」

「……なんだ?」


 場所は受付横のスペースだ。

 そこに、セルギウスを含め、何名かの冒険者たちが集まっていた。


「どうした?」


 セルギウスがちらとこちらを見てから、頭を下げてきた。


「キャッツから話を聞いた。キミが主導になって、ダークパンサーを討伐してくれた、と」

「……あー、それは」

「感謝する。……まさか、ダークパンサーがこの町まで来るとは想定外だった。このギルドに残っている戦力で、よく倒してくれた」

「いや、別に問題ない。俺も冒険者として当たり前のことしたまでだ」

「……そうか。感謝する」


 改めてセルギウスが頭を下げて、再びキャッツたちと話をはじめた。

 素材の売却を終えたヒュアと合流し、ギルド内でしばらく待っていた。

 と、セルギウスを含めたギルドメンバーが受付に集まり、持っていた鐘を鳴らす。


 一斉に冒険者たちの視線が集まり、瞬く間に静寂に包まれた。

 ギルドメンバーが視線をセルギウスへと向けると、彼は一つ頷いたあと、受付前へと移動した。


「今この場にいるギルド職員、冒険者。全員に聞いてほしいことがある」


 彼の言葉に、冒険者たちの視線が注目した。

 セルギウスは全体を一瞥したあと、続けるように口を開いた。


「オレたちは森の奥地で主魔石級の魔物を生み出す、核魔石を持つと思われるドラゴンを発見した。放置すれば、やつが、迷宮を作り出す可能性が高い! そのためにも、速やかに討伐しなければならない!」


 ギルドはざわざわと騒がしくなる。

 セルギウスの言葉が、信じられないといった様子だ。

 ……顔面蒼白になっている者もいて、その数は決して少なくなかった。

 

 それほど、危険な魔物、なんだろう。 

 核魔石、か。

 俺も歴史書を読み漁り、その存在は知っていた。

 ……ただ、どれも俺の前世よりもずっと昔の話だ。


「我々はそのための部隊を編成する! 戦力は一人でも多く必要だ! 我こそはと思う者は協力してほしい!」


 ドラゴンを放置し続ければ、魔物が増えていく。

 そして、いずれは周囲を飲み込み、迷宮を作りあげてしまうかもしれない、か。

 確かに、一刻も早く倒すべき魔物だろう。

 

「出発は明朝だ。参加の意思がある奴は受付に伝えておいてくれ。詳しい話を聞きたい人間も、受付から聞いてくれ! 以上だ!」


 セルギウスが語り終えると、ギルド内は騒がしくなっていく。

 耳を澄ますと、逃走を考えている冒険者も少なからずいるのだとわかった。

 ギルドに所属していない冒険者はあくまで一つの拠点として、ここに住んでいるに過ぎない。

 他の冒険者同様、別の町に流れても構わないのだ。……逃走者という汚名を受けることにはなるかもしれないが。

 と、セルギウスがこちらへとやってくる。


「ロワール、キミはどうするんだ?」

「……俺か? まあ、ちょっと考える時間が欲しいな」

「そうか……参加してくれたら心強い」

「そう言ってもらえるのは嬉しいが、俺もまだ状況の整理ができていないからな」


 俺は何でもかんでも困っている人を助けるような勇者とは違う。

 自分の命あってこそだと思っている。


 キャッツは不安そうに俺を見てから一礼をして去っていく。

 他のクランメンバーもぞろぞろとその後に続いた。

 セルギウスがいなくなったことで、無所属の冒険者たちの声が大きくなっていく。


「……やべぇよな? さすがに迷宮を生み出せるような魔物がいるなんて……」

「さっさと、この町から避難したほうがいいかもなぁ……」

「け、けどそんなことがばれたら、チキンだって言われないか?」

「ばっか! さすがに災害級の魔物相手なら、誰もそんなこと言わねぇよ!」


 逃走、か。話を聞く限り、賢い人間なら、それを選択するのが一番だろうなとも思えた。

 具体的な話はそんなところか。


「ヒュア、宿に戻って今日は休もうか」

「……は、はい」


 険しい顔をしていたヒュアとともに、ギルドを出た。

 帰り道、ヒュアは一言も話さなかった。

 宿につき、部屋で休んでいると、ヒュアが俺のほうを見てきた。


「ロワールさん……今回の戦い、どうしますか??」

「俺か? 無理に参加する必要もないと思っているが」

「……そう、ですよね。危険ですもんね」


 ヒュアの考えるような表情に首を傾げる。

 それだけで、彼女が参加に前向きなのが分かった。

 俺の返答を聞いて、少し悲しんでいるようだ。


「ヒュアはどうしたいんだ。参加したいのか?」

「……はい」

「理由を聞いてもいいか?」


 活躍できれば目立てるから、かっこいいから、冒険者として参加しないのは情けないから。

 そんな理由であれば、俺は彼女に参加しないように促すつもりだ。

 ヒュアの視線はまっすぐに俺を見ていた。


「……私のことじゃないんだけど。私の近所にいた子がね。迷宮化の被害にあっちゃった子だったんだ」


 迷宮化。

 町や地域を飲み込み、迷宮の中に封じてしまうんだったか。

 迷宮から脱出するには、一階層を目指して進むか、その迷宮を作りあげたボスを殺すしかない。


 だが――町一つを飲み込むような迷宮化であれば、一般人も多く巻き込まれる。

 脱出する場合は、彼らを見捨てて進むしかないだろう。

 俺は前世で学んだ知識を思い出しながら、真剣な顔のヒュアの話に耳を傾ける。


「そうか。その子は無事だったんだな」

「はい……その子は迷宮の中で運よく生き延びて……でも、家族も友達も、みんな迷宮で魔物に殺されちゃったんです」

「それで、キミは……そんな子をもうつくりたくないと」

「……はい。もちろん、私なんてちっぽけで、ロワールさんの助けがないと何もできないっていうのは理解しています。だけど……誰かが悲しむのは、見たくないんです。私の力が、少しでも誰かのために、戦いの助けになるのなら、私も……参加したいです。……この町、ここで暮らしている人たち、みんな嫌いじゃないですからね」

「そうか。それなら――」


 俺は軽く息を吐き、ヒュアをじっと見る。


「ヒュア。戦争をしたことはあるか?」

「……い、いやないです」

「戦争は決して一人で行うものじゃない。戦争では、俺のように強大な力を持っていても、負けることはある。……戦争で大事なのは、どれだけ戦力を集められるか、そこが重要になってくる」

「……は、はい」


 俺の話に、ヒュアは首を傾げる。

 

「ヒュアはまだ弱いかもしれない。将来的にはどうなるかわからなくとも、今はこの戦いではそこまで活躍できないかもしれない。覚えておくといい。弱いからといって交渉できないわけじゃない」

「……つ、つまり――わかりました」


 ヒュアはぐっと唇を噛んでから、俺の手を掴んできた。


「お願いします、ロワールさん。……私と一緒にドラゴン討伐に参加してくれませんか?」


 ヒュアの真剣なまなざしに、俺は小さく息を吐く。


「わかったよ」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ。ヒュアが参加するのを見捨てるのもな。……キミくらいの年齢の子に死なれるのは、もう嫌なんでな」

「……ど、どういうことですか?」

「いや、なんでもない」


 俺は軽く息を吐きながら、前世の勇者を思い出す。

 ヒュアは似ている。

 純粋で、真っすぐで、そして……危険だ。


 誰かが補助してやらなければ、彼女はあっさりと死んでしまうかもしれない。

 



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