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最弱賢者の転生者 ~誰も知らない知識で気楽に無双します~  作者: 木嶋隆太


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第三十二話

「キャッツさん、ロワールさんに並々ならぬ好意を抱いているように感じました」


 ヒュアがそういった瞬間、風が強く吹いた。


「そうか?」

「……そうですよ!」


 俺が考え込んでいると、彼女がじとりとこちらを見てきた。


「ロワールさんも、キャッツさんのこと気にいっているんですか?」

「一生懸命な人間を嫌うことはないな」


 俺が言うとヒュアは足を止めた。


「っていっても、人として気にいっているだけだな。ヒュアが聞きたかったみたいに、異性に対してのものじゃないな」

「わ、私別にそういう意味で聞きたかったわけじゃないです!」


 顔を真っ赤に否定する。

 

「そうだったのか。じゃあ、いいか。宿に戻ろうか」

「……そ、そのロワールさん。仮定の話でいいですか?」

「どんな話だ?」

「……もしも、ロワールさんのことがすきです! っていう人が現れたら、どうするんですか? つ、付き合うとかするんですか?」

「考えたことはないな……気になるのか?」


 そういったことは昔から苦手だったからな。

 ……すべての人生がそれなりの立場であり、恋愛というのは政略結婚の一部のようなものという考え方が定着していた。


 家を豊かにするためのものとして使うくらいしか、思考としては出てこなかった。

 ヒュアがどうしてそのようなことを聞いてくるのか。


「ち、違いますよ! 別に変な意味があるとかじゃないですからねっ。色々と参考にしたいと思ったので!」


 慌てた様子で否定したヒュア。

 もしかしたらヒュアも誰かが好きで、俺の意見を参考にしたいのかもしれない。

 ……といっても、俺の場合は自由な立場でいたいからな。さっきもいったように、もしかしたら結婚や恋愛が一つの武器になることもあるからな。


「悪いが断るだろうな」

「……ど、どんな相手でも?」

「ま、そんな年齢でもないし」

「年齢じゃないって、どう考えてもそういう年齢だと思うんですけど……」

「それはつまり、ヒュアもよく考えているのか?」

「か、考えてないです!!」


 若くなって体は反応しやすくなったが、とはいえ俺はもうそれなりに年齢を経験している。

 たまに発散したくなる気持ちはあるが、特別恋人を作りたいとは昔から思ったことがなかった。


 それに一応、義理とはいえ娘がいたしな。ちょうど、ヒュアくらいの年齢だ。

 ヒュアとともに宿へと戻り、食堂へ向かう。


 食事を食べていたときだった。食堂を歩いていたロニャンが俺たちに気づいた。

 そして何やら難しい顔をしたあと、俺のほうにやってきた。


「ちょっと、ロワールさん」


 つんつん、ロニャンが俺の肘をつつく。


「なんだ?」

「何かヒュアとあったんですか?」


 ロニャンが耳元でそれなりに大きな声で話した。

 いや意味ないじゃん。

 ヒュアにはもちろん聞こえたようで、びくんと肩をあげた。


「な、なにを言っているのですかロニャン……」

「だってー、なんだか元気がないんだもん、二人で喧嘩でもしちゃったのかなーって思って」

「……そ、そういうのじゃないです! ただ、ここ最近騒がれている少子化問題について色々と考えていただけです!」

「おお、社会的……っ」


 めっちゃ俺の言葉引きずってるじゃん。

 ロニャンがそれからしばらくヒュアを見てから、片手を振った。


「まあ、何か悩みがあったら相談してね」

「……はい、大丈夫です」


 ヒュアがそういってから食事を再開した。

 ヒュアは風呂に行くそうだ。俺は部屋へと戻り、一人スキルについて考えていた。

 

 新しいスキルで作製できるポーションのことだ。

 ポーションには様々な種類がある。

 薬草と水を基本としながら、他の草を合わせることで様々に変化していく。


 スタミナ回復ポーションや魔力回復ポーションなどがわかりやすいところだろう。

 ただ、問題は作製した道具についてだな。

 瓶に入ったポーションはそれなりに邪魔になるため、多くの冒険者は素材のまま持ち歩くことが多かった。

 その場でポーションを作製して、体に振りかけたり、飲んだりするのだ。


 薬草などを乾燥させておく。もちろん、効果は落ちるが、かさばらないで済むからな。

 明日から森で様々な草を探していこうか。

 もしかしたら、この森の中でも色々なものが製作できるかもしれないからな。


 俺も風呂へと向かい、体を洗う。

 食堂の席で休んでいると、冒険者の女性が二人やってきた。


「あっ、ロワールさん」

「ロワールさん、やっぱりこの宿にいたんですね!」


 二人は見覚えのない冒険者だ。

 二人ともどこか肌を見せるような派手な衣服だ。まあ、寝巻きならそういうほうがいいだろう。


「どうしたんだ?」


 訊ねると彼女たちはもじもじと体を揺らす。

 胸を強調するように腕を組んでいるのはきっと意図的なものだろう。


「えっと、そのロワールさんって今ヒュアとパーティー組んでるんですよね?」

「ああ」

「私たち、ヒュアよりもずっと強いんですよ? ですから、一緒にパーティー組みませんか?」


 お誘いってことらしい。

 体を近づけてきた女性二人に、体は反応する。

 とはいえ、だ。別に俺も見境ない猿じゃないからな。


「やるとしても一緒に、だな」

「えー? いいじゃないですか、ヒュアなんかとは」

「そうですよ。ほら、私たちの部屋も貸してあげますよ?」


 二人がぎゅっと俺の手を握ってきた。

 ……まあ、そういう意味なんだろうな。

 ただ、俺はこれでも約束は守るんでな。


「悪いな。今はヒュアと一緒にパーティー組むって決めている。一緒じゃないなら、パスだ」


 下手にここでやり取りしていても口論になりかねない。

 彼女らのヒュアに対しての嫉妬を感じ取った俺は、適当に切り上げて逃げてきた。

 そのほうがお互いいいだろう。


 部屋に戻り、布団で横になる。部屋の明かりはもうつけなくてもいいか。

 考えるのはさっきの件だ。


 ヒュアは男の冒険者にかなり好かれていたからな。

 あの美貌だし、それも仕方ないだろう。

 たぶん、それに対しての嫉妬なんだろうな。だから、ヒュアから俺を奪おうとしたってわけだ。


 部屋で休んでいると、扉が開いた。ひょこりとヒュアが顔を出してきた。

 お風呂上りで、髪が湿っている。


「ろ、ロワールさん。少しいいですか?」

「どうした?」


 ヒュアが部屋へと入り、それから息を吐いた。


「ロワールさんって戦うの上手ですよね。今日も一緒に狩りをして、改めて思いました」

「それなりに得意ではあるほうだな」

「それなり、じゃないです。ロワールさんのおかげで、私も強くなれました。本当に感謝しかありません」

「そう? そういってもらえるのなら嬉しい限りだ」

「……私もいつか、そのくらい強くなれますかね?」


 ヒュアがぎゅっと片手を胸に当てた。


「何かあったのか?」

「……いえ、その。さっき少し話を聞いてしまって――」

「さっきのって女性冒険者の?」

「は、はい」


 なるほどな。

 部屋の暗さで、ヒュアの顔は見えない。

 ただ、唇だけは悔しそうに結ばれていた。



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