【番外編】クリストファーの断罪イベント(クリストファー視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
遅くなり申し訳ありません。
私はクリストファー-アンリ-フランベール、この国の第二王子だ。
なのに、今、床に片膝をつき、頭を垂れた状態で、両親である国王夫妻からの叱責を受けている。
事の始まりは、今日の午後の卒業パーティーで起きた。
俺は兼ねてからの婚約者であるアリアナ-ファーガソン公爵令嬢との婚約を解消すべく、彼女の罪を両親の前で暴き、今の恋人であるカーラとの交際を皆に認めて貰うつもりで、卒業パーティーを利用したある計画を立てた。
母がアリアナとの婚約破棄に同意せず、カーラとの交際を認めなかったのだ。だったら皆の前で宣言すれば、母も諦めてくれるだろうと考えたのだった。
自分の友人達も協力してくれる。
証拠も手に入れた。
この計画は絶対に上手く行くはずだった。
が、何が悪かったのか…
色々と準備していたにも拘らず、婚約者のアリアナの方が一枚も二枚も上手だった。
剣の腕も含めて。
結果、俺は皆の前で、恥を晒され、無能王子の烙印を押された。
そして、今、王宮の父上の執務室で叱責を受ける羽目になっている。
「お前は自分がどんな事をしたのか、わかっているのか!」
父上は顔を赤くして怒っている。
「クリストファー、貴方には失望しました。アリアナはとてもできた娘でしたのに、何が不満だと言うのです?」
「アリアナは私の事を馬鹿にしています。いつも見下した目でみてくるのです。」
そうだ。いつも毅然として俺を見据え、文句を言ってくる。俺が王子だからと遠慮などせずに。
クロードには楽しそうな笑顔を向けたり、信頼を寄せている様子なのに、俺には笑顔さえ向けない。いや、明らかに作った笑顔は向けてくるが。
「アリアナから直接見下した発言があった訳ではないのでしょう?貴方が出来ないから、心配していただけではなくって?アリアナはそれはもう、貴方の将来を憂いていましたよ。」
確かに、俺の将来については、チクチクと言われていた。耳にタコが出来るぐらいに。
「確かに直接は言われなかったけれど、あれは私を馬鹿にしていました。」
「では、貴方は見返そうと努力しましたか?アリアナの方が遥かに努力しているように見えましたが?」
だってどうしたって、アリアナには敵わない。
努力は俺の柄じゃない。
俺は王子なんだ。何をしても許されるはず。
やりたくない事はしなくてもいいはずだ。
「私は王子ですから、出来ない事を無理にする必要はありません。できる者にさせればいいのです。」
「何馬鹿な事を言っているのか!能無しの主人にまともな者が仕えると思っているのか!お前はアリアナ嬢から言われた事がわかってなかったのか!」
「私がなんでアリアナの言う事を聞かないといけないのですか?悪いのはアリアナです。私は悪くありません。アリアナを不敬罪で罰してください。」
俺にあんな事をしたアリアナこそが罰せられるべきだ。何で俺が責められないといけないんだ?
アリアナこそが責められるべきだ。
「おだまりなさい!アリアナは全く悪くありません。貴方の罪です。全くファーガソン公爵になんと詫びたらいいのか。」
「元々は母上が婚約破棄を認めてくださらなかったのが、悪いのです。」
「責任を他人になすりつけるなと、何度言い聞かせれば、わかるのですか!アリアナ以上の娘はおりません!貴方がフラフラしているから、せめて妃はしっかりしたご令嬢をと、アリアナとの婚約を決めたのですよ!」
「あいつは、腹黒く、何を考えているのかわからないのです。王太子妃に相応しくありません。」
そう、今回だって極秘裏に進めていたはずなのに、いつの間にか用意周到に反撃された。
「貴方は自分が何をしたのか、わかっているのですか!こんな事をしでかして、王太子などなれる訳がないでしょう!ファーガソン公爵を敵に回すと、この国では生きていけませんのに。貴方はとんでもない事をしでかしたのですよ。」
ファーガソン公爵より、王家の方が上だろう?
何でそんなに怒るんだ?
「アリアナが悪いんだ。」
俺は思ったまま、口に出した。
アリアナが俺を見てくれなかったのが、そもそもの間違いなんだ。
「この場に及んで、まだそんな事を言うのですか!いい加減になさい!」
ボキッと母の扇の骨が折れる音がした。
「ファーガソン公爵家はこの国の食料、燃料、武器などほとんどの物流を掌握していると学ばなかったのか?軍備も小国並みに揃えているんだぞ。公爵家が独立すると、我が国は立ち行かなくなるんだ。王家と言っても守ってもらえなくなるんだぞ!」
そんな事は知らなかった。
勉強は適当にしかしていない。
「お前には失望した。王太子はクロードにする。お前には子爵位をやるから、臣下に下れ。もう王家では庇いきれない。お前も命が大事なら、大人しく言う事を聞け。」
俺は子爵と聞いて、信じられなかった。
母上の実家は侯爵家なのに。
「何で私が臣下に下らないといけないのですか!」
あのクロードに俺が臣下の礼を執るのか?
「お前のそのような態度が問題なのだ。自分がその身にならなければ、理解できないようだからな。最低限の領地収入はあるはずじゃ。後はお前の経営手腕によるだろう。王家はお前に子爵位を与える以外は、一切の援助をしないからな。」
「母上!」
「クリストファー、お前が悪いのです。大人しくお受けしなさい。」
「母上はどうされるのですか?」
「わたくしは、このままですわ。貴方さえいなければ、公爵は王家の存続を認め、援助を続けてくださると。可愛いアリアナが公爵にわたくしの身分の保証を約束してくれたのですわ。ああ、アリアナが娘だったらよかったのに。」
俺はアリアナの手回しの良さに肩を落とす。
「そうそう、貴方の恋人、カーラとか言う子の子爵家はアリアナ誘拐の片棒を担いだ罪で当主は流刑、家は取り潰しになったそうよ。彼女は詐欺罪と偽証罪の罪で投獄されているわ。あの子、何人もの男子生徒と関係があったらしいわ。何で貴方は見抜く事が出来なかったのかしら。いずれにしろ、カーラは諦めなさい。」
「母上!私はカーラと本当の愛を育んでいたのに!」
カーラだったら、俺を認めてくれる、俺の自尊心が満たされる、そう思っていた。彼女が他の男にも声をかけている事は知っていたが、彼女は数いる男達から俺を選んだはずだ。
「カーラがその本当の愛とやらを貴方の友人達全てに囁いていても、そんな事が言えるのかしら?」
カーラは私だけだと言った。何かの間違いのはず。
「なんなら、お前もアリアナ嬢に対する名誉毀損や詐欺罪、偽証罪て投獄してやってもいいぞ。そうすれば、王家はファーガソン公爵から睨まれずに済む。」
「何で私が!」
「おだまりなさい!今回の一件で一番傷を受けたのは、アリアナです。貴方はカーラに騙されていたのです。アリアナは貴方を諫めてくれたのに、貴方の態度はなんですか!」
あの時のアリアナは嬉々としていたが。
「アリアナはどうしているのですか?」
「アリアナはあれから行方不明です。魔法師団、公爵家の方々が必死で探していらっしゃるようですが、覚悟の上の失踪でしょう。」
そのまま見つからなければいい。
「アリアナの魔法力はクロードと変わらない程だ。我が国の財産と言ってもいい。失踪した今、各国が必死になって探しているらしい。もちろん我が国も総力をもって探しておる。クロードも捜索に加わっているはずじゃ。」
「あいつがあんなに力があっただなんて。」
魔法だけは俺の方が上だと思っていたのに。
「彼女は自分の能力に溺れず、鍛錬や努力を惜しまなかった。だからこそ、力を上手にコントロールできるのじゃ。彼女は王家に迎えるに相応しいと判断した。見つかり次第、クロードと結婚させる。」
「アリアナはわたくしの事も大切にしてくれるわ。クロード殿下もわたくしの事を母として遇してくださると約束いただいたのよ。」
「俺は悪くない!アリアナが、あいつが悪いんだ!」
そこへ、1人の侍従が父上に何かを告げる。
「陛下、お取り込み中、失礼いたします。」
と、アリアナの父、ファーガソン公爵が入って来たのだった。
「まぁ、ファーガソン公爵、どうぞこちらにお掛けになって。」
「失礼致します。ところで、これは?」
公爵は射るような目で俺を睨む。
「申し訳ない。出来の悪い息子に勘当を言い渡していたところだ。全くアリアナ嬢には申し訳ない事をした。まだ見つからないのか?」
「クロード殿下と息子が転移魔法で追ったようですが、途中で見失ったようです。今、アリアナが寄りそうな関係先を調べています。」
「早く見つかれば良いな。」
「アリアナも何か考えがあっての事でしょう。我々が把握している関係先にいるといいのですが…そうでない場合は、少々厄介な事になるかと。」
「と、言うと?」
「周辺国の王子達がアリアナに執着していましたから。魔法力の事も知られた可能性があります。アリアナを手に入れようと躍起になっているそうです。姿を消している今は彼らにとって、絶好の機会でしょう。」
「アリアナなんか、どこへでも行けばいいんだ!どこかで野垂れ死にすればいい!」
「何を言っている!衛兵、こやつを牢に繋いでおけ!」
「やめろ!俺は王子だぞ!不敬罪で投獄してやる!」
「そいつはもう王家の人間ではない。地下牢にでも放り込んでおけ!」
父の冷たい声が聞こえて、俺は王子の身分を剥奪され、牢へ連れて行かれた。
俺が連れて行かれた牢に、カーラがいた。
「カーラ、無事だったか?」
「クリストファー殿下?何でこんなところにいるの?私を出しに来てくれたのね!」
「いや、すまない。私も牢に入れられるのだ。」
「王子様なのに?」
「廃嫡された。でもカーラとの結婚には問題が無くなった。これから二人で力を合わせて生きていこう!」
「誰が。あんたとなんか一緒になるわけないし。王子様でないあんたには用はないよ。サッサと牢に入ったら。」
「カーラ、私だけと本当の愛を育むのではなかったのか!」
「バカじゃない!王子様でないあんたなんか、誰が相手するもんかい!」
「そんな…」
「あんたバカだよ。あんなに綺麗で優しく賢い婚約者がいたんだから、大事にしてれば、今頃幸せになれたのに。」
「お前に言われたくない。」
「あのお姫様、わたしが彼女の物を盗ったのに、くれるって言うんだ。だから婚約者の王子も頂戴って言ったんだ。」
「なんだって?」
「彼女は、"婚約者は物ではないから、あげられないけれど、貴女がクリストファー殿下の婚約者として、相応しくなってくださるなら、わたくしの婚約者としての立場は譲る事ができるでしょう。”って言うんだ。」
アリアナとカーラの話など、初めて聞いた。
「それで?」
「わたしにクリストファーを大事にしろってさ。思い込みは激しいけれど、根はいい人で、傷付きやすい人だからって。自分は大事に出来なかったからってさ。」
「……」
「まぁ、私も王子じゃなきゃ、あんたなんか、相手しなかったよ。」
「なんだと!」
「婚約者のお嬢様もあんたと結婚するのは嫌だったんだろうね。」
「黙れ!」
私は今まで一体何をしていたのか…
牢の冷たい床が身に染みる。
自分が信じていた事を否定され、項垂れた。
その夜、アリアナと初めて言葉を交わした日の夢を見た。
何を間違ったのだろうか?
可愛い女の子と友達になりたかった。自分にも微笑んで欲しかった。すれ違った時間はもう戻せない。
俺の姿を写した彼女の空色の瞳を思い浮かべる。
「王家にいる方こそ、自分自身に厳しくならなければ、国は立ち行かなくなります。特権ばかり振りかざし、自分の好きな事だけしか見なければ、民の心は離れます。そうすれば、この国そのものが危うくなります。どうか良くお考え下さいませ。」
彼女の言葉が木霊のように何度も蘇る。
俺はやり直す事が出来るだろうか?
いや、彼女との未来は無理だろう。婚約破棄したのは自分だ。彼女はクロードと婚約するのだろう。
俺はクロードの隣に立つ彼女を、これから臣下として支えれば、彼女は俺に微笑んでくれるだろうか?
いや、彼女はもう戻って来ないかもしれない。
今更ながら、自分の愚かさに気付き、取り戻せない時を悔やんだのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
更新遅くなり、申し訳ありません。
指に大怪我をしてしまい、思うように書くことができませんでした…当たるだけでも痛い…やっと痛みは収まりましたが、普段よく使う指で、生活だけで一杯でした。
自分の不注意ながら、反省です。
まだまだ回復途中で思うように更新出来ないかもしれませんが、お付き合いいただけますと、幸いです。




