【番外編】卒業パーティー(クロード視点)
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とうとう明日がアリアナの卒業式になった。
クリストファーがアリアナに婚約破棄を突きつけるらしいが、彼女は一体何を思うのだろうか?
私は彼女の笑顔を守りたい。
これから起こる騒動から、何としても彼女を守らなければならない。
賢い彼女だから、クリストファーとの婚約破棄になり、私と婚約する事になれば、王家や公爵家の為にならないと考えている。
だが、彼女は自身の力の価値を知っている。
だからこそ、他国に行かないと言ってくれているのだろう。
婚約破棄後、私と結婚になれば、彼女の魔法力の為の結婚と誤解されるだろう。そうエリックから教えられ、私は頭を抱える。
私が今までに、彼女に向けていた言葉も全て彼女の力を引き留める為と考えていると。
何故なら、アリアナは、私にアリアナ以外の想う人がいると勘違いしているらしい。
そういえば、以前、アリアナから想う人がいないのか?と聞かれ、いると答えたまではいいが、アリアナだと伝える前にエリックに邪魔された事がある。
あの時、勘違いされたか。
ああ、頭痛がしてきた。
アリアナは逃げるな。
卒業式の日までに、警備を強化したのだが、不安は残る。
彼女の行きそうな所や周囲国の関連施設には見張りを置き、それぞれの街道沿いの街の門、国境の関所、港には、万一に備えて連絡をいれた。
アカデミーの警備も増やし、魔法師団の団員も明日は配置する事になっている。
だが、妙な胸騒ぎがするのだ。
杞憂で終われば良い。
クリストファーから婚約破棄されれば、すぐに私が結婚を申し込むのだから。
エリックからはアリアナの気持ちを手に入れてからにしろと言われたが、悠長に待っていれば、他国の王子に取られてしまう。
彼女の気持ちは、婚約後にゆっくりと私に向かせよう。もう誤魔化す必要も無いし、自分の気持ちを表に出せる。
馬鹿な真似をしたクリストファーを追い落とし、私が王太子になれば、アリアナを蔑ろにする者はいないだろう。
明日を前にして、気持ちが昂り、なかなか眠れなかった。
アリアナもこの月を見ているのだろうか?
夜空に輝く満月を。
幼い頃から、アリアナと何度も一緒に見たな。
これからも、二人で一緒に見る事ができるのだろうか?
いや、弱気になっている場合じゃないな。
明日からは、アリアナと新しい関係が始まる。
もう遠慮なく愛を囁いてもいい。
だから逃しはしないし、誰にも渡さない。
覚悟しておけばいい。
そう思っていたら、エリックから通信魔法が入ってきた。
「夜遅くに悪いが、今少しいいか?」
「ああ、何だ?」
「アカデミーに賊が出た。警備を厳重にしていたが、やはり内部に密通者がいた様だ。」
賊と聞き、体に緊張が走る。
「アリアナは?」
「無事だ。賊は王子達が捕らえたらしい。」
「王子達がか?」
アリアナが無事だと知り、緊張は解いたが、何故王子達が賊を捕らえるのか?
「ああ、アイツらそれぞれがアリアナに護衛を付けている。護衛と言えば聞こえがいいが、隙あらば攫おうと目を光らせていたのだろう。まぁアカデミーには自分達の護衛として登録しているから、文句は言えないがな。きっと護衛から連絡が言って、アリアナにいい顔したかったのだろう。」
「アリアナは?」
「賊とは遭遇していないから、問題ない。だが王子達と会談はしたようだ。念のための連絡だ。賊は魔法師団に引き渡された。詳しい尋問は明日以降だな。明日が卒業式だから、敵も焦ったのだろう。卒業後は王宮に上がる事が決まっているので、手出しが難しくなると。」
「だろうな。アリアナが無事ならいい。明日は準備は出来ているな?」
「手配は済んでいる。俺は午前からアカデミーに行く。お前はパーティーからだろう?」
「午前の執務が終わり次第、行くよ。連絡する。」
「ああ。じゃあ明日な。」
エリックの連絡は私を現実に引き戻した。
明日は失敗する訳にはいかない。休めるときには、休んでおこうと、ベッドに入った。
次の日、午前中の執務を片付け、アカデミーに向かう。
「エリック、アリアナの様子は?」
「午前中は普通に式が終わった。アリアナは普段と変わらなかったよ。やはり、卒業パーティーだな。」
そう言って、エントランスに入った所で、警備をしていた団員に呼び止められる。
アカデミー内に、魔法陣が今日になって、幾つも見つかったと。アカデミーの教師も出て、解明に努めているが、幾つか用途不明の魔法陣があると。
魔法陣の一つに案内させる。
「エリック、これは?」
「ああ、転移魔法の魔法陣だな。しかも今は使われなくなった古い型だ。」
「他も同じか?」
「いえ、種類も幾つかありまして。元々隠してあったのでしょう。魔法で感知したら出てきました。転移魔法かとも思いましたが、見た事の無い文字もありまして。」
エリックと二人で顔を顰める。誰が何の目的で魔法陣を書いたのか?いや、それより今はアリアナの身の安全の方が大事だ。
「アリアナは?」
「アリアナ様は卒業パーティーの会場にお入りになりました。」
「エリック、行くぞ!」
「ああ。」
パーティーの会場に入った途端に聞こえて来たのは、クリストファーの声だった。
「 アリアナ-ファーガソン、お前との婚約を破棄する!」
全く何も考えていない愚弟だ。
婚約破棄したいならば、話し合いで穏便に済ませは良いものを。
だが、これはチャンスだ。
来賓席にいる父を確認し、アリアナに気付かれないように移動する。
「父上、クリストファーが愚行に出ました。この場を収める為にも、私とアリアナの婚約を認めて頂けますか?」
「ああ、許可しよう。クリストファーの奴め。馬鹿な真似を。クロード、彼奴を取り押さえておけ。くれぐれも他国に彼女を取られるな。」
父に了解を得る間に、クリストファーはアリアナを断罪し、アリアナが無実を証明しながら、クリストファーに取り入った女の罪を暴いていく。
彼女は生き生きしている。
婚約破棄を言い渡された令嬢ではなく、獲物を狩るハンターの様だ。どんどん追い詰め、逃げ道を塞いでいる。
全く、公爵令嬢が何をやっているのか。
激昂したクリストファーが警備の兵にアリアナを取り押さえるよう命じてしまった。
出遅れたか?
焦ったが、それは杞憂だった。
アリアナは魔法力を全開にし、クリストファーの味方をする者全てに、拘束魔法をかけてしまう。
兵は一歩も動けない。
クリストファーとその腰巾着も。
ふと、隣を見るとエリックがブレスレットを持ち、ワナワナとしている。
「アリアナが魔法力制御のブレスレットを外した。アイツ、転移して逃げる気だ。」
そう隣で呟く。
アリアナはクリストファーに決闘を申し込んでいた。
エリックは額に手をやりながら、
「アイツ、何やっているんだ?嫁に行くの諦めたか。確実に逃げるな。」
と呟いている。
どうやって止めるかと考えていたら、アリアナの元にレオンハルトが近付いている。
アリアナの代わりに、決闘を引き受けて、勝ったら国に連れて帰ると宣言する。
アリアナは冗談として、取り合わなかったが、公開プロポーズをしてしまう。
アリアナ側の生徒たちも、後押ししている雰囲気に焦りを覚える。
あの男なら、実行するだけの力がある。危険人物の側に、アリアナを置く訳にはいかない。
アリアナの元へ急ぎ駆けつける。
彼女は空間防護魔法で空間を作っていた。
かなりの精度で普通の者には、破れないだろう。
レオンハルトはこれに自由に出入りできるのか?
一瞬、そんな疑問が浮かぶ。だが、今は目の前の問題だ。アリアナをレオンハルトから離さなければならない。
私も中に入りアリアナの前に出て、こちらを向かせる。
「アリアナ嬢、この度は愚弟が迷惑をかけた。この婚約に関しては、明日にでも話し合いをさせてくれないか?君に不利になる事は無いと約束しよう。」
先ずは、アリアナに非が無いと、この場にいる皆に届く様、声を張り上げる。
「クロード殿下、わたくしなどに頭を下げてはなりませぬ。クロード殿下に謝罪を頂かなくとも、婚約破棄に関してはわたくしも同意しておりますわ。」
私の姿を見て、彼女は慌てている。
私は、彼女の手を取り、甲にキスを落とす。
「ならば、私との婚約を結んでもらえないだろうか?」
婚約破棄が現実となった今、私を阻むものはない。
正式に結婚を申し込む。
「はっ?」
アリアナは、空色の瞳を、まん丸にして、驚いている。
「いや、せっかく愚弟が婚約破棄してくれたから、このチャンスは逃せないと。陛下も後押ししてくださるそうだ。」
アリアナは父の方をチラッと見た。
「決闘なら私が代ろう。愚弟に引導を渡す。」
レオンハルトなどに、アリアナを取られる訳にはいかない。
「殿下、わたくしはわたくしの名誉の為に、決闘を申し込んだのです。ファーガソン一族の者として、売られた喧嘩は自分で落とし前を付けなければ、ご先祖様に申し訳が立ちませんわ。殿下はわたくしの実力はご存知のはずです。」
アリアナの魔法力は高い。だからと言って、王子相手に決闘をすれば、彼女の実力が露見してしまう。
そうすれば、益々彼女の価値が上がる。
「では、名誉の為だけに、決闘というのかい?」
思い直すようにと、暗に伝える。
一瞬アリアナは、怯んだ気がしたが、是と答えた。
「そこのレオンハルト殿下の求婚はどうするのかい?」
レオンハルトをチラッと見て、口角を上げる。
お前などに、アリアナは渡さない。
「レオン様の求婚はいつもの冗談ですわ。わたくしが剣を取らなくとも良いように庇って下さったのですわ。でも、わたくしは庇ってもらうほど弱くはありませんわ。」
アリアナがレオンハルトの求婚を本気と取っていない事に安堵する。だが、レオンハルトはそうではない。彼の目には、アリアナに対しての恋情が浮かび、私には獰猛な顔つきで牽制をかけてきた。
「アリア、冗談じゃないよ。本気だ。婚約破棄になったら連れて帰っても構わないだろう?」
レオンハルトがいつの間にかアリアナの後ろに立ち、肩に手を置き、私から引き離す。
取り戻そうと手を伸ばすが、レオンハルトは彼女の手を取り、甲にキスを落とした。そしてアリアナの耳に何か囁いていた。
何故、アリアナはあの男を隣に立たせる?
私より、レオンハルトの方が良いのか?
身を隠した後、彼の国へ行くのか?
心の奥底から、どす黒い嫉妬の塊が吹き出てきそうだ。何とか目の前の男に剣を突きつける事を我慢していたら、更なる障害が湧いてきた。
「決闘に勝てば、アリアナ嬢を貰い受ける事ができるのであれば、私もこの勝負、加えて頂きましょう!」
他国の王子達が、決闘に勝てば、アリアナと結婚できると、勘違いした様に見せかけて、名乗りを挙げてくる。
エリックが収拾のために、参戦してきた。
いや、先ほどから、クリストファーへの怒りが収まらない様子だった。ただの復讐か。
だが、アリアナは、私を含めた王子達や兄の事を見向きもせずに、クリストファーと二人だけの防護魔法を作り直して、奴に向き合った。
結果、クリストファーの完敗だった。剣を取る前までは、魔法を使っていたが、剣を取った後は、魔法を使わず実力だった。
当然の結果であるが。
クリストファーはアリアナに負けて、放心している。
アリアナはクリストファーに王族としてのあるべき姿を説き、拘束魔法を解いた。
そして見事な礼を執り、転移魔法で消えた。
「エリック、追うぞ!」
「おう!」
二人で慌ててアリアナの魔術の痕跡をたどる。
辿り着いたのは、魔法具店の一室だった。
何故かレオンハルトも一緒だったが。
背中を向けていた、アリアナがゆっくりと振り向き、私達を凝視した。
その瞬間に彼女は別の扉を開き、逃げ込んだ。
さあ、どうやって捕まえようか?
邪魔なレオンハルトを横目で確認しながら、私は次の一手を考えたのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
やっと卒業パーティーとなりました。
その後の結末に迷いが…
不定期更新で申し訳ありませんが、あと少しだけ、お付き合い頂けますと、嬉しいです。




