【番外編】卒業式前日2(アリアナ視点)
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少し長くなりましたが、前話の続きです。
「ああ、詳しく話すが、どこかで落ち着いて話したい。」
レオンハルト殿下が、鋭い眼差しと共に答えた。
とにかく、女子寮の自室に王子様達を招くわけにはいかないので、迎賓館に向かう事にする。
イスマエル殿下が、皆を転移魔法で移動させてくれた。全く魔法力の無駄使いだと思うけど…魔法陣も無く、簡単に思う所に転移できるとは。
転移魔法が苦手な私には、羨ましい…
しかし王子様達は全身黒尽くめで、一体どこの特殊部隊かと思う。揃いも揃って屋根から降ってくるなんて…頭が痛い。
いや、明日卒業式だけど、大丈夫なんだろうか?
悶々と考えていた明日の事がすっかり飛んでしまった。
転移したエントランスホールから、応接室へ執事が案内してくれ、お茶を用意してくれた。この黒尽くめの威圧感ある集団に動じない彼は優秀だ。
「どうぞお掛けになってくださいませ。」
と私は入り口に一番近い一人がけのソファーに陣取る。
それに合わせて、私に近い方にレオンハルト殿下とイスマエル殿下、それぞれの隣に、ルーカス殿下とヨハネス殿下が座った。国の大きさから言うと、逆じゃない?と思った事は、心に留めておいた。
「それで?」
私が話を促すと、レオンハルト殿下が執事の方に視線を向ける。私は頷いて、防音魔法をかけた。
「防音魔法ですか。」
ヨハネス殿下が素早く反応する。まぁそんなに難しい魔法ではないから、いいかな。
「ええ、これで気兼ねなくお話できますわ。」
「やっぱり色々と魔法が出来るではないか。」
レオンハルト殿下がニヤリとしている。
「簡単なものばかりです。殿下方には及びませんわ。」
「俺はできないがな。」
少し拗ねた様にルーカス殿下が口を挟む。
「ルーカス殿下には申しておりません。話がそれてしまいましたが、何故、屋根にいらっしゃったか、ご説明頂けますか?」
「俺たちは、寮で明日の件で話し合いをしていたんだが、俺たちの護衛から不審者の通報が入った。それで不審者を追って、アリアの寮の屋根に行った。」
とレオンハルト殿下が概要を説明してくれる。
「殿下方を狙う不審者がいたのですか?わたくしならわかりますが。」
私は首を傾げる。
クロード殿下並の魔法力を持つ二人とそれなりの魔法力を持つ一人、どう見ても、その集団を襲うなど、正気の沙汰では無い。
「さすが姫、我々の護衛の一部は貴女の護衛を行なっていました。不審者とは貴女を狙っていた者達です。」
ヨハネス殿下はサラッと、とんでもない事実を暴露する。やっぱり別の護衛もいたのね。最近、我が家の者でない気配はしていたけれど、害は無さそうだったので、そのままにしていたんだっけ。
「そんな中、リナがバルコニーに出てくるから、慌てるだろう?」
ルーカス殿下は反省の(は)の字も見えない。
頭を抱えたくなってしまう。
この人達は自分の方が守られる立場だと、理解しているのだろうか?
私は皆を見据える。
「だからと言って、殿下方が最前線に出て、何をされてのですか?護衛は何の為にいるのです?万一の事があれば、責を問われるのは、アカデミーであり、我が国であるのですよ。もう少しご自分の立場をお考えください!」
「我々はその辺の賊などには、負けないが?」
ええ、イスマエル殿下の魔法力は相当高いですし、魔法無しでの剣の能力も確かです。
「それも良く存じておりますが、わざわざ危険な場に出向く必要がありますか?」
「嬉々として事件に首を突っ込むリナに言われたくはないなぁ。」
私はルーカス殿下をギロリと睨む。全く前世と変わらないんだから。
「わたくしと殿下方とは、立場が違い過ぎます。わたくしは自分の力を弁えております。その上で行動しているだけですわ。」
「そんな事を言って、攫われたのは誰だ?」
レオンハルト殿下には、かなり普通の私の姿を見せてしまったので、責め立てる事も躊躇しない。
「誰でしょう?」
前も同じ返事をした様な?私は首を傾げてみる。うん、あれは攫われたけど、かなり悪徳貴族を炙り出すことに役に立ったから、任務だった事にしよう。
"バン“とカップの乗ったテーブルが叩かれ、カシャとカップが動いた。
「アリアだろう!だから我々は心配しているんだ。」
イスマエル殿下が怒っている?珍しい…
真剣なその様子に申し訳ないと思いながらも、一応言い訳をしておいた。
「ご心配をおかけした事はお詫び致します。ですが、あの時はわたくしだけではなかったので、応援を待った方が良いと判断したまでです。」
「リナが無謀な事ばかりするから、みんな心配しているんだ。」
ルーカス殿下が横槍を入れてきたので、ちょっとムッとしてしまう。
「ルーカス殿下、貴方の方が余程無謀ですわ。魔法が使えないのに屋根に登るなど。他の殿下方は魔法を使えば、あれくらいの高さは問題ないのでしょうけど、貴方は違うでしょう?」
「魔法は使えないんじゃなくって、使えるものが少ないんだ。それに、あれくらいの高さなら、魔法がなくても問題ないよ。」
「わたくしは能力の過信をするべきではないと申し上げているのです。」
「まあまあ、姫のお怒りもごもっともですが、ルーカス殿も気が気では無かったのでしょう。彼の身体能力は抜群ですからね。」
人が良いヨハネス殿下はこんな時の纏め役だった。
「ヨハネス殿下はお優しいのですね。」
「私は本当の事を言ったまでです。姫、私を含め皆、姫の心配をしているのです。賊に心当たりは?先程の賊は捉えて転がしておきましたので、我々の護衛が対処しておりますが。」
「ありがとうございます。思い当たる先は沢山ありますわ。ですが、普段は我が家の護衛が対処しておりましたから。殿下方にはご心配とご足労をお掛けして申し訳ございません。」
「明日、クリストファーがリナを断罪するのだろう?じゃあ、今の賊は何処から差し向けられたんだ?」
ルーカス殿下は私を見据える。何処と言われても思い当たる所が一杯です。
「わたくしの存在自体を好ましく思っていない勢力が沢山あるとだけ、申し上げておきます。クリストファー殿下が今日の件に関わっていないだろうという事も。」
「クリストファーを庇うのか?」
レオンハルト殿下が鋭い目線を送ってくる。
「庇うも何も。彼に責任を取らせる事は簡単ですが、我が国の内政を混乱させる訳には参りません。」
「では、婚約破棄されるのを受け入れるのか?」
イスマエル殿下が静かに尋ねてくる。
「ええ、婚約破棄に関しては、わたくしも異存はありません。ですが、明日、わたくしにありもしない罪を着せる予定の様ですので、そこは否定させてもらう予定ですわ。」
「そのあとはどうするんだ?アカデミーにはかなりの貴族子女が在籍している。皆の前で婚約破棄などされれば、この国の社交界には居辛いのではないか?」
レオンハルト殿下の心配はごもっともです。
「ご心配なく。これでも筆頭公爵家の娘です。社交界も問題ありません。それに、結婚だけが人生ではありませんし。仕事も持っておりますから生活には困りません。兄は嫁に行かずとも良いとも申しておりますので、これから自分の道を探していきたいと思いますわ。」
「「「「………」」」」
私がそう言えば、何故か王子様達が固まってしまった。私変な事言った?
「仕事とは?」
復活したヨハネス殿下が尋ねてくる。
「ささやかなものです。今は公爵家関係の商会を手伝っておりますわ。」
「魔法具店か?」
ルーカス殿下、何故今バラす?と思ったけど、そこは笑顔で誤魔化す。
「魔法具店は今は人に任せております。」
「では、魔法師団か?」
レオンハルト殿下、この間否定したのに、信じてないですね。
「魔法師団に入るほど、わたくしは能力はありませんわ。」
「では、姫は卒業後はお仕事をされると?」
ヨハネス殿下が首を傾げている。
「まだ未定ですわ。わたくしの一存で決めれるものではありませんし。」
「姫、卒業後の進路が決まらなければ、私の国へ遊びにいらして下さいませんか?先日申し上げた様に、妹が姫にお会いしたいと待っております。」
「ヨハネス、抜け駆けはよせ。それならば、我が国にだって来て頂きたい。」
イスマエル殿下がヨハネス殿下と同じく招待してくれる。きっと残りの二人も同じ事を言い出しそうだと、私は先に返事をする。
「お気遣いありがとうございます。そうですね。卒業後直ぐにとは参りませんが、いつか皆様のお国を訪問する事ができたら嬉しいですわ。」
「その際には必ずご連絡ください。最高のおもてなしをいたします。」
ヨハネス殿下は麗しい笑顔で応えてくれる。
「楽しみにしておりますわ。」
私はそう言って立ち上がり、椅子の横に立つ。
「明日が卒業式ですが、忙しくなりそうですので、今、この場で殿下方にお礼を申し上げます。この一年、大変お世話になりました。ご一緒させて頂き、楽しかったですわ。また、明日ご迷惑をお掛けするかもしれません。お詫び申し上げますわ。そして、殿下方の今後のご活躍とご健勝を、この世界のどこかでお祈り致しております。」
優雅に見えるよう、淑女の礼を執った。
王子様達は皆、紳士で優しかった。
もちろん自分の気持ちを押し付けてくる人もいたけれど、ゲームの中での悪役令嬢は王子様達からは、辛辣な言葉を投げ掛けられたり、無視されていたので、この世界でこんなに仲良くなれるとは思わなかった。
本当に感謝している。
私は彼等にこの気持ちを伝える事がきちんと出来ているのだろうか?
明日も巻き込みたくはない。
でもきっと、巻き込んでしまうのかな。
なんだか最後になると思うと、涙が出てきそうだ。
きっと明日は挨拶も出来ずに立ち去る事になる。そして二度と会う事は無いだろう。
そう思って、今この場で感謝を込めて、挨拶をした。
「頭を上げてくれ。最後の様な挨拶をしないで欲しい。明日、何があっても私はアリアの味方だ。アリアの居場所がこの国にないならば、我が国に連れて帰る。アリアなら我が国では救世主だからな…いくらでも身分など作れるぞ。」
「イスマエル、ドサクサに紛れて、俺たちの前で口説くな。俺も大歓迎だぞ。エリスもいる。エリスの父とはアリアを後見する約束を取り付けている。」
「俺だって、いつでも歓迎だ。俺は跡継ぎじゃないからな。リナの行きたい所に付いていける。」
「姫、私だって歓迎致します。我が国の国民全てで。」
ゆっくりと頭を上げる。
心配そうにはしているが、自分の売り込みを忘れない、全くブレない面々に、呆れるやら、嬉しいやらで、私はどうしたらいいんだろう。彼等の優しさが身に染みてしまう。
とうとう一筋の涙が溢れてしまった。
「アリア、どうしたんだ?」
慌ててレオンハルト殿下が寄ってくる。
隣でイスマエル殿下が手巾を出してくれた。
好意に甘え、そっと涙を拭う。
「ふふふ…」
「大丈夫か?」
「殿下方があまりにも変わらないので。最後にこの様な機会が持てました事を嬉しく思いますわ。」
そんな私を、彼等は温かく見守ってくれた。
「最後とは言わないで欲しい。卒業しても、また会おう。必ず。」
「「「そうだな。」」」
そう王子様達が言ってくれるので、私はまた涙が出てしまった。
そう、いつかまた会う事があれば、笑って思い出話しができたらいい。そんな未来を想像して、心がホッコリする。
だけど、市井に下る予定の私には、きっと難しいだろう。でも噂ぐらい聞けるといいなあ。
皆が立派になった話を。
そう考えると、明日のパーティーに立ち向かえそうだ。
夜も更けて来たので、この場は解散となった。
誰が私を送るかで揉めて、結局皆で送ってくれたのはご愛敬だ。
バルコニーでは、この場に及んでトラブルかと、頭が痛くなったけれど、結果として、私の心は軽くなった。
ゲームと同じシナリオ通りに進むとは限らない。
きっと明るい未来もあるはず。
そう思いながら、ベッドへ入ったのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
やっと卒業パーティー前日になりました。
先に話を書いてから、過去に戻ってしまうという、行き当たりばったりの拙い作品にお付き合い頂き、感謝しております。
もう少し書いていきたいと思っていますので、お付き合い頂けると嬉しいです。




