【番外編】卒業式前日(アリアナ視点)
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明日はいよいよ卒業式だ。
式の後、卒業パーティーが行われる。
明日のパーティーの準備をした後、逃走用の荷物をこっそり纏めた。
カーテンの開いた窓からは、月明かりがさしている。
今日は満月だったのかしら?
そう思って、窓に目をやれば、バサっと音がした。
鳥にしては大きな音だし、何かしら?と、ベランダにでた。
本当は音がしたら、隠れろって言われているんだけど。賊が入って来る可能性があるから、身を隠す事を考えろと。
普通のご令嬢は、必ずそうするべきだと思う。
だけど、普通でない私は、好奇心の方が勝ってしまう。
そのせいで、いつも叱られるのだけど、学習しない私は、ベランダから、周囲を見渡した。
特段に動く影も無く、音も聞こえない。
気のせいかな。やっぱり明日の卒業パーティーの事で気が昂っているんだと納得して、空を見上げる。
満月が空で輝いている。
前世でもこんな月を見たよね。
そう思うと前世の事とこれから自分に降りかかる問題を思い出す。
私の知っているゲームでは、卒業パーティーでクリストファー王子は婚約者であるアリアナに婚約破棄を突き付けて、断罪を始める。俗に言う断罪イベントの日だ。
ゲームの世界に転生した事を知ってから、なんとかクリストファー殿下との婚約を解消しようと努力したけれど、やっぱり卒業パーティーまで来てしまった。
もちろん、彼が断罪イベントを行うつもりなのも知っている。カーラが一生懸命に中立派の生徒たちを勧誘?誘惑?していたから。
ゲームと違うのは、クリストファー殿下以外の攻略対象だったはずの王子様が何故か私に構ってくる。
ヒロインのカーラがクリストファー殿下のルートに入ったから?
王子様達と一部の生徒たちも私の味方をしてくれている。本当に嬉しい。
彼らには咎が行かないよう、クロード殿下にお願いするお手紙も書いたし、準備は万全だ。
ヒロインのルートは幾つか覚えているけれど、悪役令嬢はヒロインがどのルートを選んでもロクな事にならないなぁと思っただけで、詳しくは覚えていない。
まさか自分が悪役令嬢の立場になるなんて、思ってなかったし。
だけど、運命には抗えない。
断罪イベントは明日。
明日さえ乗り切れば、後は身を隠して一般庶民として暮らせるはず?やっぱり断罪されて、投獄されてしまうのかな?
投獄されそうになれば、悪いけど、全力で魔法を使って逃げ出す予定。
少なくとも明日、自分に罪がない事を証明して、ちょっと憂さを晴らすついでに、クリストファー殿下の目を醒さなければ。
ヒロインのカーラは、確かに愛らしい女子だった。だけど、貴族としての常識が全く通用しない。いくら下位貴族だったとしても、それは致命的だ。でも仕方がないとは思う。今まで市井で暮らしていて、いきなりマナーや教養を求める方が間違っている。それは私も理解できる。
でも、貴族社会で生きていくには、必要な事だ。だから努力する姿勢を見せて欲しかった。
だけど、彼女は女子から非常識な振る舞いを指摘されれば、虐められたと男子に訴える。媚びたその振る舞いに男子生徒のかなりの数が彼女の味方となってしまい、今や誰も注意が出来なくなってしまった。
だんだん味を占めてきて、男子生徒に媚を売って、物を強請ったりする様になるし。
ゲームでは可愛いヒロインは、色々と貢がれていいなぁなんて、呑気な事を思っていた前世の自分を張り倒したい。
彼女が真面目で努力する姿を見せてくれれば、婚約者の地位なんか喜んで進呈したいのに。
やっぱりクリストファー殿下がしっかりしてくれれば、こんな事にはならなかったのに。と思うけど、彼に関しては、私も責任の一端はあるかもしれない。
前世と今世の記憶を行ったり来たりと思い出しながら、もう一度、夜空見上げる。
明日、断罪イベントなんか無ければいいのに。
流れ星が見えたら、そうお願いするのに、と思うけれど、そんなに都合良くはない。
少し冷えてきたので、そろそろ部屋に入ろうかとすると、黒い物体が上から落ちて来た。
いや、物体だと思ったのは、人だった。
私は咄嗟に防御魔法をかける。
そして攻撃の体制を取る。
黒いマントから頭と手が出てきたので、私も身構えた。
結果、マントから出てきたのは、ルーカス殿下だった。
『待て。梨奈、俺だ、ルーカスだ。』
私の殺気に当てられたのか、彼は慌てて名を名乗る。
しかも日本語。
さっきまで、前世の思い出に浸っていた私は、思わず日本語で素で対応してしまった。
『ルーカス殿下?えっ?どこから来たんだっけ?ここ2階ですが?』
『悪い。上からだ。』
彼は頭を掻きながら、バツが悪そうだ。
『何やっているんですか?落ちたら危ないでしょう?』
思わず、声を荒げてしまう。全く前世のままだった。
『はい。すみません。』
彼も前世のまま、素直に謝ってくる。全く謝るぐらいなら、最初に考えて行動しなさい!と、口に出そうになってしまう。
『で、何か御用ですか?夜分にレディの部屋を訪ねるなど、王子様のする事では無いと思いますが?屋根からいらっしゃるなど、ストーカーですか?』
本当に、一歩間違えると、我が家の護衛に殺られるわよ。一応護衛には、危害を加えないよう目配せしたけれど。
『卒業式前に、梨奈と話したくって。』
『だからと言って、こんな夜中に忍び込むなんて、非常識だわ。』
『だって日中は会ってくれないだろう?今日も放課後探したんだ。』
放課後は明日の打ち合わせをしていました。はい。王子様抜きで。王子様を入れると面倒なので、信頼できる数人に事情を話して、万一の時には手助けしてもらえる様にお願いしたのだった。
『で、ご用件は?手短にお願いします。』
『部屋には入れてくれないのかい?』
『ゆっくりお話するつもりはありません。誤解されても困りますし。』
『防御魔法も解いて欲しいんだけど。』
『お断り致します。』
防御魔法は私の周囲にかけている。
ルーカス殿下が何か仕掛けてくるとは思わないけれど、自衛していないと護衛が飛び出して来て、兄に連絡がいく。きっと。そうすれば、またお説教だ。
それだけは阻止したい。
『仕方ないなぁ。梨奈を連れて行こうと思ったんだけど。』
王子様スマイルで彼は笑う。生憎その笑顔に騙されません。
『どこに?』
私は彼を睨む。彼は、私が明日迎える修羅場を理解している。だからその前に連れ出そうと、考えている?
『俺の国。』
あっ、やっぱり。
『冗談ですよね?』
冗談にして欲しい。国を出ることは難しい。
あの兄とクロード殿下の手の内から逃れられる自信は無い。他国に行くなど、国際問題になる。
それに彼は前世に囚われ過ぎている。そう何度も説得したのだけど、わかって貰えない。
『本気だよ。』
『謹んでお断り致します。』
ここはキッパリと断らないと、今姿を消せば、欠席裁判になり、私が全面的に悪者になる。
それだけは私の矜恃が許さなかった。
『だよね。じゃあ少し話すだけでいいから、その警戒を解いて欲しいな。』
ルーカス殿下は今までの真面目な表情を一転し、佐伯くんの様な、くだけた表情になった。
話が平行線だ。ここはアリアナにならなければと、日本語のまま、アリアナ口調に戻す。
『先触れも無く、突然部屋のバルコニーにいらっしゃる方の前で防御魔法を解くほど、わたくしは愚かではありませんわ。』
『さっきのは本気だけど、今実行したら、俺の身も危ないって。』
そう彼が言った途端、やっぱり黒い影が3つバルコニーに降ってきた。
「ルーカス、先に行くなどズルいぞ。」
と、出てきたのは、イスマエル殿下。
「だって、リナがバルコニーに出てくるから。俺はちゃんと仕事をしたぞ。下にニ匹転がっている。」
えっと…二匹って、さっきの音は気のせいでは無かったのね。
「だからってお前が行かなくとも良いだろう?」
と言った黒い塊は、レオンハルト殿下。
「三人ともアリアナ嬢が驚いていますよ。」
さっとマントのフードを外し、美しい顔で三人を諫めているヨハネス殿下。
そう、降ってきた黒い物体は王子様達だった。
何故にこうなる?と考えても、埒が明かないので、取り敢えず、攻撃体制を解除し、防御魔法を解いた。
「それで、どなたがこの状況をご説明下さいますのかしら?」
私は目の前の四人の王子様を見渡した。
お読みいただき、ありがとうございました。
一話で収めようと思っていましたが、長くなってしまい…中途半端なところで区切る事になり、申し訳ありません。




