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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】クロードの不安2(クロード視点)

ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。

この様な大変な時期に、拙作にお付き合い頂き、感謝しております。

 アリアナは小首を傾げだが、すぐに微笑み返してきた。


「他国の王族の方に無礼な振る舞いは出来ませんわ。でも相手が無礼な振る舞いをされるのであれば、わたくしは自分の身を守るぐらいには、多少の反撃は構いませんでしょう?」


 エリックが隣で「多少で済めばいいが…」と呟いている。

 多少など生温い。完膚なきまでに叩きのめしていい。


「アリアナに手出しする奴は他国の王族でも構わないから、潰していいぞ。クリストファーでもな。」


「まぁ、殿下、恐ろしい事を仰らないでくださいませ。国際問題にならない程度と弁えておりますわ。それに、クリストファー殿下はまだ婚約者ですから、鼻を折る程度に致しますわ。」


 アリアナがクリストファーの婚約者だと思うだけで腹立たしい。一切の関わりを絶たせたい。


「クリストファーの件は、私に任せて欲しい。陛下にも一任されている。」


「それは無理ですわ。わたくしの気持ち的にも時間的にも。クリストファー殿下の事はわたくしにお任せくださいな。仮にも婚約者です。解消されるまでは、わたくしにも責任の一端はありますわ。」


「アリアナには責任は無い。だから無理な事をしないでおくれ。」


 私がアリアナをどうやって大人しくさせるかと思案していたら、エリックが横から口を挟む。


「他国の王子達には、アリアナがそれぞれの国を見てから決めると釘を刺しておくか?そうすれば手出しはしないだろう?クリストファーと婚約破棄になれば、色々と煩いだろうから、婚姻の話は別にして、しばらく他国に遊学に行くのも悪くはない、と親父が言っていたぞ。」


 先程、公爵がそんな話をしていたが、エリックとはアリアナを他国へ嫁がせる方向で話が進んでいるのか?何とか公爵を説得したが、これは本気かもしれない。

 しかし、エリックも私の気持ちを知りながら、意地が悪い。彼を睨むが、彼はニヤリとしていた。


「まぁ!お父様がそんな事仰っていたのですか?」

 アリアナも空色の瞳を大きく開き、驚いている。


「ああ、お前がその気なら、各国に短期留学でもさせるかと。」


 アリアナが短期留学…それは魅力的ですわ…と呟き、目が期待に満ちている。


「それはダメだ!公爵にも認めないと伝えている。だいたい無事に帰すかわからないぞ。アリアナは事故死か病死と偽って、そのまま監禁するかもしれない。」


「では、隣国で無ければいいのですよね。」


「「はっ?」」

 エリックと同時だった。

 彼も近隣諸国以外は考えていなかったのだろう。


「ですから、わたくしの同期の方のお国に行く事は許されないけれども、それ以外であれば、可能なのでしょう?わたくし、他の国を見てみたいですわ。」


「どこの国でも、許さない。」

 自分でもわかるぐらい冷えた声だった。


「残念ですわ。見聞を広げる良い機会かとおもいましたのに。」

 と言った後に、ぶつぶつと独り言を言い出した。


「せっかく自分で買付け出来るいい機会なのに…短期留学で諸国を周る事が出来れば、販路も拡大出来るし…でもクロード殿下の許可は必要ないかも。お父様にお願いするかしら?でも…」


 本人は声に出した自覚は無いのだろうが、私達にはしっかり聴こえてしまう。


「お前、見聞じゃなくて、商談に行こうと思っただろう?」

 エリックが指摘するが、アリアナは平然としている。

 全く、考える事が…私は思わず額に手を当ててしまう。


「何を仰っているのですか?お兄様?」

 アリアナは首を傾げる。


「惚けても無駄だ。親父は嫁ぎ先を見つけてこいって言っているのだぞ?」


「嫁ぎ先を探しに行っても、都合よく見つかるとは限らないですわよね。だったら嫁ぎ先を探すという名目での留学は、わたくしにとって、願ったり叶ったりですわ。」


「お前なぁ。相手国はお前の事を妃の候補として、受け入れるのだぞ。相手がお前の事を気に入ったらどうするんだ?というか、既に周辺国の王家からはお前を王子妃にと申し込みが幾つか来ている。」


「あら残念。周辺国()()王族に嫁ぐなど面倒ですから。」


 王家に嫁ぎたくはないと、あっさり言われてしまい、地味に傷付いてしまう。


「では、クリストファーと婚約解消した後は、どうするつもりだ?」

 アリアナが何を考えているのか?


「どうしましょう?やりたい事が沢山ありすぎて。今から楽しみですわ。」


「魔法具店か?」

 思い付いた一つを挙げてみる。魔法具店であれば、まだ私の目が届く。


「魔法具店の事もご存知でしたか。魔法具店は軌道に乗せましたから、わたくしがいなくともやっていけるでしょう。」


 魔法具店以外にもあるのかと、私もエリックも頭を抱える。

 クリストファーとの婚約解消後は、貴族社会から身を引く可能性もあると?そうでなければ、他国へ行くつもりなのか?あれだけ短期留学に興味を示すとは。


 やっとの思いで手に入れられると思っていたのに、私の手の中から、スルリと抜け出していきそうなアリアナを前にして、理性を失いそうだ。


 既成事実を作ってしまえと、悪魔の囁きが聞こえてくる。それを必死で防ぐにも限界がある。


「アリアナ、市井に降りる事は許されない。クリストファーとの婚約解消後の嫁ぎ先も用意している。卒業パーティーで何があったとしても、君は私の大事な人だ。心配しないで私の元においで。」


 理性がなんとか勝利し、オブラートに包んでアリアナを口説く。


「嫁ぎ先って?魔法師団への勧誘でしょう?何故嫁ぎ先の話が出てくるのですか?それとも魔法師団の誰かが犠牲になって、わたくしの結婚相手になるのかしら?その方がお気の毒ですわ。」


 私の気持ちはアリアナには全く通じていない様だ。

 地味に落ち込んだ私を横目に、エリックの肩が震えている。


「ハハハ…犠牲になるって…アリアナ、心配せずとも俺が一生養ってやるから。魔法師団も嫌だったら、遠慮なく家にいていい。親父もそう言っている。王家からお前を引き渡せと言われたら、親父は領地を閉鎖して、独立するぞ。」


 エリックは味方なのか、ライバルなのか…

 彼の言った事は、公爵が本気になれば、実行するだろう。


「お兄様、クロード殿下の御前で物騒な事仰らないで。謀反の疑いをかけられてしまうわ。」


「いや、ファーガソン公爵は忠実な家臣だ。彼が怒る様な事をしたクリストファーが悪い。王家の一員として、謝罪こそしなければならないのに、謀反などと咎めるつもりは無い。」


「クロード殿下は真面目でいらっしゃるから。少しは肩の力を抜いて息抜きされて下さいませ。」


「アリアナが側にいてくれればいい。目を離すと何をしでかすかわからないからな。心配事が一つ減る。」


 ずっと、一生側にいて欲しい。だが、私はアリアナが望んでいない王族だ。これは私の我儘か。


「まぁ、殿下までお兄様の様に仰るなんて。なんだかそれだと、わたくしが問題児みたいだわ。」


「問題児だろう?だから約束して欲しい。無謀な事をしない様に、そして私の側にいておくれ。」

 そう、いつもハラハラさせられている。目の届く範囲にいて欲しい。


 アリアナは首を傾げながら、ボソッと呟いた。


「それは難しいですわ。」


 そう言うアリアナの空色の瞳が揺らぎ、私はとても不安になった。


 空は私の気持ちを表す様に闇に包まれていく。

 このままアリアナを奪いたいのに、それが出来ない立場がもどかしい。


 気が付けば、アリアナを胸に抱きしめていた。ふんわりと薔薇の香りが漂う。


「殿下、放してくださいませ。」


「クロード、放せ。」

 エリックも慌てていた。


「嫌だね。アリアナが逃げ出そうとするのが悪いんだ。少しでいい。少しだけこのままいておくれ。」

 そう言って、私はアリアナの金色の髪にキスを落とす。


「クロード殿下はやっぱりお疲れの様ですわ。」

 アリアナは小さく呟いた。

 そうして、掌を私の胸に当てて、彼女は目を瞑る。


 体中に力が漲り、疲れが取れてくる。

 回復魔法だった。

 アリアナが回復魔法を使える事は知らなかった。

 隠していたのか?

 腕を緩め、アリアナを見ると、彼女は微笑んでいた。


「回復魔法か?」


「ええ、まだ簡単なものしか出来ませんが。少しは効果があったでしょうか?」


「ああ、ありがとう。楽になった。だが使えるのであれば、教えて欲しかったな。」


「申し訳ありません。まだ練習中でしたので。殿下に練習中の魔法を使うなんて、不敬でしたわ。お許しくださいませ。」


「許さないと言ったらどうする?」


「まぁ、どうしましょう?兄に助けて頂きますわ。」


「それは妬けるな。」


「クロード、それくらいにして、アリアナを離せ。アリアナも簡単に回復魔法を使うな。王家に知られたら面倒だって言っただろう?」


「エリック、それはどういう意味だ?」


「お兄様、ごめんなさい。クロード殿下が王家の方だと意識しておりませんでした。ついお兄様と同じつもりで。」


 兄と一緒と言われ、また落ち込みそうだ。


「エリックには回復魔法をかけているのか?」


「お兄様には練習台になって頂いてますから。」


「それは触れるのだろう?」

 なんだかモヤっとする。


「ええ。」


「これからは私が練習に付き合うから、エリックと練習するな。」


「クロード、何勝手に言っているんだ?俺たちは兄妹だから波長が合うんだ。毎日お前にこき使われているんだ。妹の癒しぐらい、いいだろう?アリアナ、そろそろ戻らないとマズイんじゃないか?」


「そうですわね。いくら転移魔法を使うとはいえ、門限には戻らないと。」


「送って行こう。転移ポイントまで。」


「お兄様、ありがとう。」


 二人が部屋を出て行く姿は、恋人同士の様だ。兄妹と理解はしていても、妬けるなと呟いていた。


 机に戻ると、クリストファー派の一部貴族達の違法薬物の取引や人身売買などの報告書が山積みだった。これだけの内容を一週間で片付ける事など不可能だ。貴族だけに絶対的な罪状と証拠を準備する必要がある。


 被害者の救済も必要だし、薬物は入手先と販売先を追って行かなければならない。まだまだ時間がかかる。

 全く国の中枢を担う貴族が犯罪に手を染めるなど言語道断だ。


 魔法師団だけでは済まない案件ばかりで、頭が痛かったのだ。

 今回の犯罪に関わった者の処分だけでなく、この様な犯罪の温床とならない様に、民の生活向上を図らなければならない。


 まずは最初に出来る事は治安維持だろうが、根本的な解決にはならない。

 貧民街を無くす為には、彼らが職を得て、収入を確保して、安心して暮らせる場所にしなければならない。

 彼らがきちんとした職を得るには教育は欠かせないのだが、その日の生活で精一杯の家は子供も働き手になる。教育が先か?環境整備が先か?卵が先か鶏が先かの話の様に、結論が出る問題では無い。

 並行して行うにしろ、予算には限りはあり、貴族には平民を教育するなどとんでもないと反対する者が多い。


 これから自分が為すべき事案を考えると、頭が痛くなる。さっきアリアナに癒して貰ったのにな。


 ふと、この問題をアリアナだったらどう考えるだろうか?と思ってしまう。

 彼女なら、きっと両方を並行して、上手に進めていくのだろうな。こんな事も出来ないなんてと叱られそうだ。


 王太子が決まる前に、事件を明るみに出来た事は僥倖だった。

 この件をきちんと処理して、自分の立場をはっきりさせる。そうすればアリアナに堂々と求婚できる。


 さあ、もう少し頑張るか。先程のアリアナの笑顔を思い出しながら、書類に向き合うのだった。






お読み頂き、ありがとうございました。


次回も不定期更新とさせて頂きますが、お付き合い頂けますと幸いです。

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