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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】作戦会議(ルーカス視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。

久々のルーカス視点です。

 放課後、空き教室に集まったのは、西の国の王子である俺、ヨハネス、イスマエル、レオンハルト、そしてこの国の貴族子息数人。全部で10人ぐらいだろうか。

 但し、この国の貴族子息は壁際に突っ立っている。


 中央にいる連中の顔ぶれが悪い…

 普通なら引くよな。

 机の上に座っているレオンハルトと、教壇に立ったイスマエルが視線でお互いを牽制し合っていて、普通なら、周囲に立つ事でさえ、身の危険を感じてしまうだろう。

 まぁ、そんな二人の側にいるヨハネスは、流石王族といったところか。


 しかし、ここで対立するなら、来るなよと言いたい。

 お前らガキか!と叫びたいが、ガキだったと思い直す。俺も姿はガキだった。

 かなりの割合で前世の俺が表に出てきているから、ここにいる奴は全てガキに見えてしまう。


 今から、[アリアナ嬢を守る会]の会合らしい。

 なんでもクリストファーがアリアナ嬢を卒業パーティーで婚約破棄し、彼女を断罪するとの情報があり、それから彼女を守るという趣旨で、このメンバーが集まった。


 イスマエルが睨み合いを一旦中止し、皆を見渡す。

「今日集まってくれた事に礼をいう。実はアリアナ嬢が卒業式で婚約破棄され、罪を着せられるという情報がある。」


 卒業式?罪を着せられる?断罪か?どこかで聞いた話だ。

 妹が良く呟いていたよな。ゲームをしながら。

 俺はストーリーは知らないが、妹が時々内容を熱く語ってくれた…その時は2次元で無く、3次元で彼氏を作れよって思って、右から左に聞き逃していたが。

 この世界が、妹がプレイしていた乙女ゲームの世界と同じかどうかはわからないが、これが梨奈が言っていたバッドエンドなのか?


 俺が前世の記憶を思い出していると、レオンハルトが眉間にシワを寄せながら、イスマエルに食いかかっていた。


「それは本当か?何でお前がそんな事を知っている?」


「ああ、そこにいるニコラスがクリストファー派から勧誘を受けている。その際にカーラが言っていたらしい。」


 皆が一斉にニコラスに視線を向ける。


「はい。カーラ嬢から勧誘を受けました。私だけではなく、中立派の生徒は、何らかの誘いは受けているようです。将来の地位の約束や、金品のやり取りといった報酬提示から、カーラ嬢との関係の口止め、借金の肩代わりなどの脅迫まで。皆色々です。報酬提示を断ると、脅迫に変わった例もあります。」


 梨奈はカーラがヒロインだと言っていたが、これでは、悪役令嬢だな。

 しかし、あの頭が軽そうな娘に考えられる事か?

 黒幕がいるのか?


「君は何で協力してくれるんだ?中立派だからカーラから勧誘されたのだろう?」

 俺が素朴な疑問をぶつける。中立派といいながら、この場にいる事は、彼にはかなりリスクが高くなる。


「ええ、ですが、私は個人的にアリアナ嬢を敬愛しております。家も武門の家ですので、脅迫されてもビクともしません。いえ、我が家を脅迫しようとする方が無謀な事なのです。ですので、今回は協力させて頂きます。」


 ニコラスは清々しく宣言していた。

 梨奈の側にさり気なくいる奴だった。

 決して自分の存在を主張する訳でなく、本当に影の様に。ん?もしかして本当に影なのか?

 エリックは護衛を付けていると言っていだが、彼もその一人か。王子達の圧倒的な存在感に押されて、存在感は皆無だったが。

 そう考えると、彼は信用してもいいのか。


「それで、どうするんだ?アリアはこの事を知っているのか?」

 レオンハルトがイスマエルを睨み付ける。


「アリアは知らないはずだ。まだ話していない。婚約破棄だけなら、まだ許せる。いや、私は歓迎だ。我が国に堂々と連れて帰れる。」


「何でお前のところに連れて帰る話になっているんだ?俺のところに決まっているだろう?」


 二人で梨奈の取り合いを始める。


「まあまあ、お二人とも。アリアナ嬢の嫁ぎ先の事より、今は卒業式のことです。」


 ヨハネスが二人を諫め、話を続ける。

「アリアナ嬢が断罪されるとは、一体どの様な罪を着せられるのでしょうか?」


「まぁ、カーラにアリアが何かしたとか、捏造するのだろう。」


 レオンハルトが忌々しそうに言い放つ。


「アリアナ嬢にはこの事を伝えるのか?」

 俺はイスマエルに問う。


「できるならば、教えたくはない。その前に潰してしまいたい。」


「いや、卒業まですぐじゃないか。彼女は知っていると思うぞ。」

 俺がそう言えば、周りの奴等が目を見張る。


「「「えっ!」」」


 いや、梨奈だし。

 彼女も卒業式の断罪イベントを知っているだろう。

 ゲームの世界だと言っていた。バッドエンドとは、断罪イベントか。

 事前の準備に抜かりのない彼女は、きっと情報収集して、自分の身を守る為に何か策を講じているだろう。


 問題は彼女がどう出るか。立ち向かうのか?逃げるのか?


「何でルーカスはそんな事を知っているんだ?」

 レオンハルトが忌々しげな視線を向けてくる。


「いや、俺も確信は無いよ。だが、あのアリアナ嬢だ。クリストファーの考えることなど、手に取るようにわかると思わないか?彼女は黙って断罪されるような令嬢じゃないだろう?」


 そう言ったが、ほぼ確信していた。

 梨奈はあんなにバッドエンドに向かいたくはないと宣言していた。前世の彼女の性格からすると、黙って断罪されるとは思わない。


「いや、王子から断罪されれば、いくら公爵令嬢でも無傷ではいられないだろう?だからこうやって集まっているんだが。」


 イスマエルは片手を額に当て、当惑した様子だ。

 彼らにとっては、梨奈はか弱く守るべき対象であるのだろう。


「それはそうかもしれないが。では、どうするんだ?」

 俺は口ではこう言ったが、彼女なら無傷でいるだろうと思っている。

 公爵令嬢としての名誉は確かに傷付く事になるかもしれない。しかし彼女は公爵令嬢の地位には固執していない。


「ああ、まず、アリアナ嬢を裏切らない生徒と、クリストファー派の生徒の洗い出し、中立派はクリストファー派だと思う方がいいだろう。カーラの行動の監視、万一卒業式でアリアナ嬢がクリストファーに断罪される場合には、保護できる体制の確保だな。」

 イスマエルが今後の方針を皆に伝える。


「自分の国に匿うという抜け駆けは禁止だ。卒業式までは休戦だ。卒業後、アリアナ嬢に堂々と申し込み、彼女に選んで貰うで、いいか?」


 俺は二人に釘を刺す。


「「ああ。」」


「ニコラス、生徒の派閥の確認は頼めるか?」

 俺はニコラスに指示を出した。彼なら間違いなく彼女の敵味方を把握しているだろう。


「もちろん。俺たちで、リストを作ります。カーラの監視も可能な限り。」


「それで、アリアには話すのか?」

 レオンハルトが聞いてきた。


「伝えた方がいいだろうな。」

 俺は梨奈は知っていると思うが、そう答えておく。


「お呼びしておりますよ。アリアナ嬢から皆様にご挨拶したいと頼まれていたので。」


 ニコラスが爆弾発言を落として来た。

 それと同時に、扉が開き、アリアナ嬢が優雅に入って来た。


「皆様、ご機嫌よう。ご心配をおかけしました様で。」


「梨奈、話を聞いたのか?」


 彼女は俺の質問を完全にスルーし、皆に宣言した。


「卒業式の事であれば、皆様のお手を煩わす訳にはいきませんので、どうぞわたくしのことはお捨て置きくださいませ。」


「だが、貴女の名誉が傷付けられるかもしれないのだぞ。」

 イスマエルは彼女を説得しようとする。


「クリストファー殿下には、わたくしを傷付ける事など出来ません。これは我が国の問題です。手出しは無用です。」


「貴女が傷付けられたりしたら、私は手を出さずにはいられない。」

 と、イスマエル。


「私も黙って見ている訳にはいきません。」

 と、ヨハネス。


「アリア、俺がクリストファーなど消してやる。」

 と、レオンハルト。


 王子達の言葉を完全にスルーして、梨奈は言葉を続けた。


「皆様、もしも、わたくしがクリストファー殿下から何か咎を受けるような事があったとしても、手出しは無用です。これはわたくしの問題です。クリストファー殿下をあの様に腑抜けに育ててしまったわたくしの責任ですわ。わたくしが対処いたしますから。」


 梨奈…育てるって…

 確かに前世の梨奈から見れば、クリストファーは子供に見えたのだろう。


 周囲からもボソボソと聞こえる。

 この国の貴族子息達が、梨奈の言葉に驚き、あれこれと想像した事を口に出してしまっている。

 育てるって言葉に反応しているが、勝手にいい方向に理解されているらしい。


 キッパリと俺たちに手出しをするなと言った梨奈は、優雅に挨拶をして、教室を出て行った。


 残された俺たちは唖然としてしまう。


 素早く立ち直ったのは、意外にもヨハネスだった。


「皆さん、姫はああ仰いましたが、我々に出来る準備はしておきましょう。何があるかわかりません。先ほど決めた様に動くという事でよろしいですか?次回は一週間後に、それぞれの進捗状況を持って来て、卒業式の対策を練りましょう。」


 全く見事なものだった。

 物腰も柔らかく、見た目は麗人であり、頭も働くらしい。全くノーマークだったな。この間のパーティーまで。

 皆は彼の言う事に頷き、その場は解散となった。


 俺は梨奈を捕まえなければと機会を伺う。

 直接面会を求めても、最近は断られてしまうからだ。


 機会は早々にやって来た。

 次の日の昼休み、梨奈が一人で廊下を歩いていたので、悪いと思ったが、腕を引き、空き教室へ連れ込んだ。


「梨奈、話がしたい。二人きりで。」


「ルーカス殿下、急に引っ張らないで下さいな。話があるなら、この様な事をされなくとも…」


 俺は彼女の言葉を遮る。

「だが、()()()()()は面会申し込みに応じてくれないだろう?」


「わたくしは婚約しておりますから、殿下と二人きりでお会いする訳にはいきません。」


「少しでいいんだ。梨奈、何を考えている?君が知っている乙女ゲームはどんなストーリーなんだ?」


 彼女の空色の瞳が鋭く光る。

 やっぱり彼女はこれから先、何が起きるのか知っているのだろう。


「ルーカス殿下にご心配を頂かなくとも、わたくしは対策をしておりますわ。殿下、わたくしはアリアナです。もう梨奈ではありません。もう前世の事はお忘れ下さい。わたくしもゲームなどに囚われるのはやめましたから。」


 俺は片手を彼女の肩に置き、彼女の空色の瞳を捉える。

「何度でも言う。俺は梨奈とこれからの人生を歩みたい。君が梨奈でなく、アリアナだと言うのであれば、ルーカスとして、アリアナと共に生涯を共に生きていきたい。前世に囚われているのではない。今世を後悔しない様に生きたいだけだ。」


「馬鹿な事を仰らないで下さいな。殿下は前世に囚われていらっしゃいます。わたくしへの償いは必要ありませんわ。わたくしはこの世界でも楽しく過ごしておりますから。」


「俺は本気だ。償いなどではない。」


「償いでないのであれば、わたくしの事はお捨て置きくださいな。」

 そう答えて、彼女は俺の手を肩から外す。


「そんな訳にはいかない。クリストファーが梨奈を傷付ける様であれば、必ず梨奈を助ける。逃げるなら、我が国で匿ってやる。アリアナの名でなく、梨奈としてであれば、身軽になれるのだろう?」


 彼女の空色の瞳が一筋の光を持つ。

 一瞬梨奈の姿が見えた気がした。


「お気持ちだけ、有り難く頂いておきます。せっかく自由になれる機会なんだから、邪魔しないで。今までの鬱憤晴らすのだから。」


「鬱憤?」


「そうよ。だから邪魔しないでね。わかった?」


 梨奈は公爵令嬢としての仮面は外した様だ。

 完全に梨奈の口調だった。

 そう言い放って、教室を出て行こうとする彼女の後ろ姿を見ながら、俺は答えた。


「邪魔しなければいいんだろう。()()()()()()()は。」


 俺はそう言って、口角を上げた。

 鬱憤晴らした後は、俺の好きにさせてもらうよ。そう呟いて。






お読み頂き、ありがとうございました。

次回も不定期更新になりますが、お付き合い頂けますと嬉しいです。


アリアナの育て方発言に関しての貴族令息達の呟きです。書いたけれど、入れる事を断念しましたので、この場で。


【貴族令息達の呟き】


「今育てるってって言ったよな?」

「いや、クリストファー殿下を育てたのは王妃陛下だろう?」

「姫は幼い頃からご一緒だったから、責任を感じているのか?」

「ああ、きっとそうだな。優しい姫だ。あれだけの仕打ちを受けても、殿下を守ろうとなさっているのだろう。」

「いや、しかし腑抜けって…」

「そのままだろう?だから我々の家はクロード殿下に付いているんじゃないか。」

「それはそうだが、姫から言われると、重みが…」

「きっと愛情表現だ。」

「いや、だって男女間の愛情ではなかったぞ。」

「母性か?」

「「「羨ましい!」」」


 お前達、母性でもいいのか!とツッコミたくなるルーカスだった。

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