【番外編】ヨハネスとアリアナのダンス(ヨハネス視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
誤字報告も感謝しております。
また、更新遅くなり、申し訳ありません。
前々話の場面のヨハネス視点です。
僕は自室の机に向かい、白紙の便箋と向かい合っている。
さっきから、何枚クシャクシャにして、屑籠に放り投げたのか。
彼女に伝えるべきなのか?
さっきから、自問自答して書き出しては、クシャクシャにしている。
気分転換をしようかと、ソファーへ移り、背を預け、目を瞑る。
今晩はアリアナ嬢の友人、エリス嬢のお別れパーティーだった。さっき終わったパーティーを思い出せば、アリアナ嬢から取られた腕が熱く感じてしまう。
「わたくし、ヨハネス殿下とお約束していますの。」
アリアナ嬢の言葉が頭の中を駆け巡る。
アリアナ嬢と踊る事が出来た。
卒業のいい思い出になりそうだ。
しかし…
アリアナ嬢から突然腕を掴まれ、約束をしていると言われた時は、一瞬、何が起きたのかと自分の目と耳を疑ったが、周囲にいた3人の王子達を見て、納得した。
彼女は彼らから逃げたかったのかと。
彼らは我が国より国力がある国の王子だ。
アリアナ嬢に言い寄っていると知っていたが、彼女は婚約しているから、困っているのだろう。
驚きを隠しながら、アリアナ嬢の手を取り、ホールに出る。こんな機会、逃すわけにはいかない。僕も曲がりなりにも王子だ。
彼女は踊りだすと、突然僕の腕を取った事を、謝罪してくれたが、僕の方は、喜びで一杯だったのに。
だが、アリアナ嬢の手を取った時に、彼女の近い未来の一場面が映像として流れ込んで来た。
滅多に出ない力が出てしまった。
僕の魔法というのか、能力というのか…
時々、未来を見てしまう事がある。
神様の悪戯の様に、突然頭に映像が流れて来る。
こんな風に触れた人の未来が。
ただこの能力は自分の思うようには使えない。
僕にとって、持て余している能力だ。
だが、未来を見ても、それを他人に伝えた事は無い。この能力を知っているのは、父と国の巫女の最高位であるお婆婆だけだ。その二人から口止めされていたから、誰にも話さずに心に留めていた。
今の時代、先見の魔法は伝説の中でしか無い。
他人に話しても信じて貰えないだろう。
暫く誰に触れても、未来は見えなかったのに。
何故、今見えるのか。
頭の中から見た映像を、頭から追い出し、アリアナ嬢に微笑む。彼女は私が混乱していると思ったのか、謝ってくる。
「いえ、私も貴女にダンスを申し込みたいと思っていたので、嬉しかったです。」
動揺を隠しながら、本心を伝え、意識をダンスに向ける。
幸いダンスは得意だった。体を動かす事は昔から得意で、ダンスも王族としての嗜みとして、身に付けていた。アリアナ嬢は天使の様に軽やかに踊る。
今まで世話になった礼を言った後は、何気ない会話を楽しむ。
先にアリアナ嬢にダンスを申し込んでいた王子たちに視線を向けると、彼女を取られて怒りに震えている様だ。彼らは、睨み付ける様に私達を見ている。
彼等はアリアナ嬢の未来に関わるのだろうか?
いや、僕も関わる事ができるのだろうか?
アリアナ嬢に他の王子達より先に踊っても良かったのか?と尋ねると、彼女は王子達が僕に何か言って来たら、彼女が対処するからと言われてしまう。
一体僕は今まで、彼女にどう見られていたのだろう…
全く不本意だが、頼りない王子と思われていた様だ。それも致し方ないかと自嘲するが、気を取り直し、自分で対応できると伝える。
見た目で誤解されるが、これでも国では、騎士学校では主席だったし、外交も参加していた。
彼らは同じ世代だ。何も問題ない。
それより問題なのは、アリアナ嬢の近い将来の事だ。
だが、この機会を逃すと、ゆっくり話す機会がないかもしれない。
彼女に我が国の製品を取り扱ってもらえる店を紹介して貰った礼を言い、我が国に遊びに来て欲しいと誘ってみる。彼女を守りたい。そう、我が国に来てもらえば、彼女を守る事は容易だ。
「ありがとうございます。機会があれば、是非。」
彼女は微笑みながら、しかし社交辞令で応える。
「遊びでなくとも、ずっと居てくだされば、いいのですが。」
私は彼女と合わせた手に力を入れた。
さっきの映像が頭から離れなかったのだ。
「ヨハネス殿下?」
「いえ、私にはクリストファー殿下と貴女が結婚しても幸せになれるとは、思えない。私に出来る事があれば、いつでも仰ってください。我が国は貴女を歓迎いたします。もちろん私も。ですので、いつでもお越し下さい。北の国は厳しい土地ではありますが、民は皆素朴で気の良い者ばかりです。貴女一人ぐらいは匿う事は容易いですから。」
そう、さっきの映像はクリストファーがアリアナ嬢に婚約破棄を皆の前で、告げる映像だったのだ。
しかもアリアナ嬢を貶める言葉と共に。
そして衛兵に捕らえよと命令したところで途切れた。
貴族の令嬢が皆の前で、断罪されれば、その後は言わずもがな、貴族令嬢として生きていく場所がこの国には無くなるだろう。
全部明らかにする事は、この場では無理だ。
じゃあ、別の機会だったらいいのかと言われれば、困るが。突然こんな事を言い出した事を、不審に思われただろうか?
アリアナ嬢は、その空色の瞳の中にある空を広げる。曇りのないその瞳に吸い込まれそうだ。
「まぁ、殿下にもご心配をおかけしていましたのね。」
彼女はクリストファーとの不仲を心配していると勘違いした様だった。
「まぁ、私は頼りなく見えていたのでしょうが。」
僕は、溜息を吐く。
「そんな事ありませんわ。殿下はとても素敵な方です。頼りないというのは、クリストファー殿下の事ですわ。あら、わたくし口が滑りました。どうぞご内密に。ふふふ。」
彼女のさりげない励まし?に気分は少し上昇する。
「アリアナ嬢はやっぱり優しい方ですね。」
「わたくしは気が強いだけですわ。皆様誤解されているのです。でも、今日は殿下の違う一面を知る事が出来て嬉しかったですわ。」
アリアナ嬢が気が強いのではなく、しっかりしている女性だ。同じ歳とは思えない程に。
こんな会話をしていたら、一曲終わる。
僕は彼女の手を取り、甲に口付けを落とす。
「どんな貴女でも、歓迎します。忘れないで下さい。困ったら私もいるという事を。」
それしか言えなかった。
国として、アリアナ嬢への婚姻の申し込みをしていた。僕の淡い恋心を知った両親が、それならと申し込んでくれたのだ。そしてお前も頑張れと言われていた。全く自分でも情けないと思うが、これが精一杯であった。
「ありがとうございます。殿下も何かありましたら、ご相談くださいませ。わたくしに出来る事など、限られていますが…」
アリアナ嬢が言い終わらないうちに、彼女の後ろに、彼女の兄が立っていた。彼の提案で、僕たちはパートナーを交換した。
エリス嬢は、アリアナ嬢とはまた違った美しさを持つ令嬢だった。
「ヨハネス殿下とは、お話させて頂く機会がありませんでしたけれど、ダンスがお上手なのですね。」
「ありがとうございます。体を動かす事は得意ですので。」
「ふふふ…レオンよりずっと紳士ですのね。」
「レオンハルト殿下がどうかされましたか?」
「ヨハネス殿下、私にとって、アリアナ様は初めてのお友達ですの。だから幸せになって欲しいのです。もちろん、レオンの所に来てくれれば、私も嬉しいのですが、それよりもアリアナ様の気持ちが大事なのです。レオンは少し自信過剰なところがあるでしょう?根は悪い人では無いのですが。」
「ええ…」
彼女は自国の王太子の事を、良く理解しているようだ。
「アリアナ様はレオンの事を、異性としては意識されていませんわ。だからと言って、クリストファー殿下はアリアナ様に相応しくはないし。で、私は心配しておりますの。」
「心配?」
「アリアナ様がご自分の心を隠したままに、ご結婚されるのではないかと心配しておりますの。私達、貴族の令嬢として生まれたからには、それなりの義務が伴う事は存じております。でも、限度というものがありますわ。クリストファー殿下とアリアナ様がご結婚されても、アリアナ様が幸せになるとは、思えませんの。」
「確かに。アリアナ嬢はクリストファー殿下とは結婚して欲しくはありません。ですが、彼女は責任感が強いですから、貴女の仰る様に自分の気持ちを押し殺し、嫁ぐかもしれませんね。」
「ヨハネス殿下にとっても、アリアナ様は大事な方なのでしょう?」
心内を見透かされた様だ。私は目を見張る。
「そんなにわかりやすかったですか?ですが、私の片恋ですから。」
エリス嬢は微笑みながら、言葉を継ぐ。
「殿下にとって、レオンはお邪魔だったとは思いますが、ああ見えても、レオンはアリアナ様が初恋なのです。」
レオンも初恋か。初恋なのに、あれだけ自分の気持ちを隠さず、堂々とアリアナ嬢に言い寄れる、その図太さが羨ましい。
「そうですか。」
「でも、私はアリアナ様の味方ですわ。ですから、アリアナ様が望まないならば、例えレオンであっても味方はできないのです。なので、殿下もレオンが暴走しそうでしたら、止めてくださいませ。」
「私にそれだけの力があれば、いいのですが。」
「ヨハネス殿下は素敵な方ですわ。殿下ならと思ってお願いしていますの。アリアナ様も殿下を信頼されている様でしたし。」
「ありがとうございます。貴女は優しい方だ。ルイス殿とお幸せに。」
「あら、ご存知でしたの。残念、殿下を誘惑しようかと思ったのに。」
「貴女のような方から誘惑されるとは、光栄ですが、ルイス殿は気が気では無いようですよ。」
そう言って、ルイスに視線を向ける。
彼は一つ上の学年であったが、非常に女子生徒にモテていた。相手にしていない女子はアリアナ嬢ぐらいだった。だが、彼は決して特定の女子と付き合う事はなかったな。彼女のような人が待っていれば、それは当然か。
今嫉妬の眼差しを向けてくる。
「いいのですわ。少しぐらい嫉妬させたいのです。ふふふ…」
そんな話をしていたら、曲が終わる。
終わった途端にエリス嬢の後ろにルイスが張り付き、彼女の手を取った。
「エリス嬢、楽しかったです。どうぞお幸せに。」
その後は、クラスメイトと会話を楽しんだ。この2年で僕も随分友人が増えた。
これもアリアナ嬢に感謝だと、改めて思ったのだった。
そして自室に戻り、やっぱり先程見た近い未来の話をアリアナ嬢に話すべきかと、机に向かったのだが…
結局、その日はアリアナ嬢への手紙は書けなかった。やっぱり文章にしてしまうには、障りがある。
ならば、次に会った時に、話してみよう。そう思って、ベッドに入ったのだった。
次の日、アリアナ嬢を探していると、ニコラスが話しかけて来た。
「ヨハネス、大事な話があるんだが、今いいか?」
真剣な表情のニコラスに、何か良くない事かと、胸騒ぎを覚える。
「アリアナ嬢の事なんだ。」
「何だって?彼女がどうかしたのか?」
「いや、クリストファーが彼女との婚約破棄を卒業パーティーで計画している。」
そう聞いた時に、思い浮かんだ映像は卒業パーティーだったのかと。
考えに耽ってしまった僕に、ニコラスは言葉を続ける。
「カーラが国の貴族令息を、クリストファー側に付けようと画策している。俺にも誘いが来た。」
「それで、ニコラスはどう応えたんだ?」
「もちろん、断った。だが、話しているところをイスマエルに見つかってしまったんだ。それで、イスマエルにもクリストファーの計画を話した。」
「イスマエルは何て?」
「アリアナ嬢を守りたいから、協力者を集めて欲しいと。」
「イスマエルは何をするつもりだ?」
「さあ、ニコラスはどうする?イスマエルに協力するか?王子同士で、難しいなら無理強いはしない。」
「アリアナ嬢の為なら、なんでも協力するよ。」
これから起こりうるアリアナ嬢の未来のあの映像、あの未来が回避できればいい。
抗う事は出来ないかもしれない。だが、何か彼女を守る手段があるかもしれない。
その為であれば、他国の王子達とも協力しよう。そう決心したのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
誤字報告、ありがとうございました。
何度も見直したつもりでしたが、見落としがやっぱり出て来て、反省です。
次回も不定期更新ですが、お付き合い頂けますと幸いです。




