【番外編】エリスの送別会2(アリアナ視点)
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前話の続き、アリアナ視点です。
久々のヨハネス殿下登場です。
三人の王子様の視線が怖い。
だけど、私は彼等を巻き込むつもりは、全く考えていないし。
「許さないと仰られましても、困りますわ。わたくしが決める事では、ありませんから。」
と、言うものの、私はクリストファー殿下と結婚するつもりはない。
殿下方はそれぞれ個性的だけど、本質は優しい。
私が頼れば、きっと助けてくれるはず。
だけど、殿下方の優しさを利用はしたくはないし、この問題は私自身のものだから、迷惑をかけるわけにはいかないし。
それに、逆断罪をするからには、私もそれなりに責任を取らなければ、いけないはず。身分を捨て、市井でひっそりと暮らすつもりだし。
「本当はクリストファーとは結婚したくはないのだろう?いつでも攫っていくぞ。」
レオンハルト殿下の瞳が鋭く光っている。
この人は本当に実行しそうだ。
「わたくしとエリス様は、攫われたばかりですのに。そんな事を仰るなんて。」
ちょっと気弱な令嬢のふりをしてみる。
「悪い…」
彼は急に神妙な顔になる。まさか素直に謝られるとは、思わなかった。演技をした私の方が罪悪感に駆られてしまう。
「いえ、エリス様こそ、怖い思いをされたのです。申し訳なかったですわ。」
「エリスはアリアが大好きらしいぞ。お姫様を助けた王子様らしい。」
ニヤリと笑うレオン様も意地が悪い。さっきの神妙な顔は演技だった?私に喧嘩売っている?悪かったわね。王子様で。
「まぁ、光栄ですわ。では、わたくしはエリス様にわたくしの生涯の伴侶となって頂けるようお願いしようかしら?」
「「「えっ!」」」
王子様達が一斉に驚く。
あら、いけない事を言ってしまったみたい。
この国をはじめとする周辺国は同性婚は認められていない。一夫一妻、もしくは一夫多妻制の国が殆どだ。しかし、同性のカップルがいないわけではない。ただ国として認めていないだけである。
「いや、やめてくれ。私が悪かった。エリスは真に受けて、アリアの所へ嫁に行くぞ。」
レオンハルト殿下が項垂れている。
そんなに変な事を言ったかしら?ただの冗談なのに。
「アリアナ様、私お嫁に行きたいですわ。」
エリス様は私にだけ、わかるように、ウインクした。私もお芝居に乗る事にする。
「エリス様なら大歓迎ですわ。レオンハルト殿下やルイス様はお断りですが…」
チラリと視線を向ける。
「参ったなあ。」
ルイス様が呟く。
「エリス様、我が家はいつでも歓迎致しますわ。ルイス様の様な不実な方より、幸せにしてみます。」
「キャー!」
私達を遠巻きに見ていた女子生徒たちから、悲鳴が聞こえる。
「私が悪かった。エリス、勘弁してくれ。」
「ルイスより、アリアナ様の方が素敵だわ。」
エリス様は私の腕を取り、ルイス様を睨み付ける。
なんだかわかりやすくて、可愛らしいな。
そこへ、会場の入り口が騒めく。
大きな花束を抱えた兄が入って来たのだ。
「お兄様?どうされたの?」
「ああ、今日はエリス嬢のお別れパーティーだと聞いてな。怖い思いをさせてしまったので、最後ぐらいは、楽しい思い出にして欲しいと思って。」
そう言って、兄はエリス様にピンクの薔薇の花束を差し出す。
エリス様の頬は赤い。
「エリス嬢、アリアナがお世話になりました。これからも妹と友達でいて下さるとありがたいです。」
そう言いながら、さりげなくエリス様の手を取り、キスを落とす。そうして、ルイス様にニヤリと笑う。お兄様、その顔、悪人だから。ワザとしているでしょう?ルイス様を挑発するために。
「とんでもないです。アリアナ様とは、私の方がお友達でいて下さいとお願いしたいぐらいですのに。公爵ご夫妻にも大変お世話になりました。どうぞ宜しくお伝えくださいませ。」
「両親もお別れの挨拶ができないと、残念がっておりました。我が国の思い出に、我が領内で取れた宝石を用意しました。どうぞお受け取りください。」
兄はそう言って、従者に持たせていた箱を開けて、ネックレスを取り出す。私とお揃いのロケットだ。蓋の部分にアクアマリンの宝石がはめ込まれている。
「まぁ、素敵!これ、アリアナ様と一緒ですわよね。」
「そうです。石の色が多少違いますが。」
「嬉しいですわ。ありがとうございます。」
私はそっとエリス様の側に寄り、囁く。
「エリス様、そのネックレス、事件の事思い出して嫌じゃありませんか?」
「アリアナ様とお揃いですもの。ところで、これも色々と仕込めますの?」
エリス様の眼が光る。あっ、そっちの方に興味があったのね。
「ええ、お兄様、これ、何か入れていますの?」
兄に近付き、こっそり聞く。
「ああ、アリアナに連絡ができる通信機器だ。エリス嬢が帰国されても連絡が取れるだろう?」
そう言って、兄は私にウインクをする。
「ありがとう。お兄様、嬉しい!」
「開けてみてもよろしくて?」
「もちろん。」
私は花束を一旦受け取り、空いているテーブルの上に置く。
エリス様がロケットを開けると、中からピアスが出てきた。
アクアマリンの小粒の宝石が小花を形どり、愛らしく仕上がっている。
「まぁ、可愛らしい!」
「気に入って頂けたのであれば、嬉しいです。ご存知かと思いますが、通信機器です。使い方はこの箱に入っていますが、アリアナとは繫る様、設定していますから。」
「ありがとうございます。エリック様。」
「アリアナ様、着けてもいいかしら?」
「いいですわよ。ルイス様に着けて頂いたら?」
「私はエリック様にお願いしたいですわ。」
そして、エリス様は私にこっそり耳打ちをした。
「ルイスを妬かせたいの。協力してくださいませ。」
彼女はそう言って、さっさと着けていたピアスとネックレスを取った。
確かにアカデミーでのルイス様の話を聞けば、面白くはないし、ちょっとあの澄ました美丈夫を慌てさせるのも面白いかも。
でもピアスは難易度高いかな?と思ったので、私はピアスを手に取った。
「お兄様、着けて差し上げたら?」
私は兄に目で訴える。私の意図する事がわかったのか、兄は肯いてくれた。
兄はエリス様にネックレスを着けてあげる。
私は横でピアスを付けてあげた。
「とても良くお似合いですよ。エリス嬢。」
横でルイス様が唇を噛み締めている。
兄がそれをチラッと見て、ニヤリとした。
長い付き合いの私にしかわからない、普段優しい兄が腹黒さを表す時の顔。兄もなかなか意地悪だ。
ルイス様が嫉妬の表情を浮かべた事で、私も一安心した。レオンハルト殿下が、自分の都合で婚約者を押し付けたのではないかと、心配していたから。
兄は更にルイス様を煽る。
「エリス嬢、一曲ダンスをご一緒しても?」
「ええ、喜んで。」
二人は今からダンスが始まろうとしているホールに向かう。兄は見た目と外面がいいから、その場に立つだけで、華があるのよねえ。と身内ながら関心してしまう。
つい、気を取られていたら、私の周りに手が3本伸ばされていた。
「アリア、踊ろう。」
「いや、私が先だ。」
「梨奈、俺だよな?」
「ごめんあそばせ。」
そう言って、私は三人から離れようと、回れ右をしたら、ヨハネス殿下がすぐ側にいて、私と目が合った。彼が口を開く前に、私が彼の腕を取る。
「わたくし、ヨハネス殿下とお約束していますの。」
そう言って、ホールへ逃げた。
「ヨハネス殿下、失礼致しました。でも助かりましたわ。」
ワルツを踊りながら、謝罪すると、彼は天使のような微笑みを返してくれた。
「いえ、私も貴女にダンスを申し込みたいと思っていたので、嬉しかったです。」
「まぁ、ありがとうございます。殿下はフラン語がお上手になられましたわ。」
「貴女のおかげです。なかなかお礼を言う機会が無かったものですから。今日はラッキーでした。」
静かで控えめな北の国のヨハネス殿下は、天使の様に軽々と踊り、私も羽が生えた様に楽しく踊った。彼は見た目と違い、体を鍛えている様だ。
「殿下はダンスがお上手ですのね。」
「私は体を動かす事は好きですから。ところで最初のダンスは私で良かったのですか?」
彼はチラリと三人の王子様たちを見る。
私も視線を向けると、睨み付ける様に私達を見ている。ああ、怒っているなぁ。あれじゃご令嬢方が近付けないし。
ルイス様は令嬢達が囲んでいるが、視線はエリス様を追っている。
エリス様、作戦成功ね。
「わたくしは構わないのですが、殿下にご迷惑をお掛けする事になるかもしれません。何かあれば仰ってくださいませ。」
「私は構いませんよ。最初のダンスを踊る栄誉をあずかる事ができ、嬉しいです。私も一国の王子です。彼等が何か言ってきたとしても、対応はできますよ。」
ヨハネス殿下の表情が引き締まる。
天使から凛々しい貴公子の顔になる。
普段の優しい雰囲気とまた違い、立派な王子様の顔だった。
「まぁ。殿下の違う一面を見せて頂いた様です。わたくしも殿下とご一緒出来て、楽しかったですわ。あのウサギのぬいぐるみは大事にしておりますのよ。マリー様に宜しくお伝えくださいませ。」
そう言えば、彼はまた天使の微笑みを返してくれた。
「貴女のおかげで、我が国の民が潤いました。特に女性達の現金収入が増えて、子供達も学校に通える様になりました。感謝しています。我が国へも一度遊びにいらしてください。歓迎いたします。冬は雪に閉ざされますが、夏は涼しくて過ごしやすいですよ。」
「ありがとうございます。機会があれば、是非。」
「遊びでなくとも、ずっと居てくだされば、いいのですが。」
彼は私と合わせた手に力を入れた。
「ヨハネス殿下?」
「いえ、私にはクリストファー殿下と貴女が結婚しても幸せになれるとは、思えない。私に出来る事があれば、いつでも仰ってください。我が国は貴女を歓迎いたします。もちろん私も。ですので、いつでもお越し下さい。北の国は厳しい土地ではありますが、民は皆素朴で気の良い者ばかりです。貴女一人ぐらいは匿う事は容易いですから。」
他の王子様達とは違い、控えめであるが、真剣に私の事を心配してくれていると、ヒシヒシと伝わってくる。でも匿うって?私の計画はバレていないはずだけど。いつの間にか、逃げ出す前提になっている。
「まぁ、殿下にもご心配をおかけしていましたのね。」
逃げ出す前提の話は、気付かない振りをしよう。
「まぁ、私は頼りなく見えていたのでしょうが。」
殿下は、溜息と共に、悲しげな表情になる。
「そんな事ありませんわ。殿下はとても素敵な方です。頼りないというのは、クリストファー殿下の事ですわ。あら、わたくし口が滑りました。どうぞご内密に。ふふふ。」
「アリアナ嬢はやっぱり優しい方ですね。」
気を取り直した様に、殿下も微笑みを返してくれたので、私もホッとし、微笑みを返す。
「わたくしは気が強いだけですわ。皆様誤解されているのです。でも、今日は殿下の違う一面を知る事が出来て嬉しかったですわ。」
こんな会話をしていたら、一曲終わる。
ヨハネス殿下は私の手を取り、甲に口付けを落とす。
「どんな貴女でも、歓迎します。忘れないで下さい。困ったら私もいるという事を。」
「ありがとうございます。殿下も何かありましたら、ご相談くださいませ。わたくしに出来る事など、限られていますが…」
そう話していたら、兄が後ろに立っていた。
他の王子様を牽制してくれているらしい。
エリス様も兄にエスコートされたまま。
パートナーを入れ替え、もう一曲踊ることになった。エリス様は、ルイス様に嫉妬させる作戦を続行中らしい。
「ヨハネス殿下、エリス様はわたくしの親友ですので、よろしくお願いします。」
「もちろんです。こんな可愛らしい方とご一緒出来るとは、光栄です。」
流石、王子様と思った事は内緒。
だけど、エリス様も嬉しそうだし、まぁいいかと任せて、私は兄と踊り出したのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
あと少しで卒業パーティーなのに、なかなか進まず…申し訳ありません。
拙い文章にお付き合い頂き、感謝しております。
コロナ騒ぎで鬱々としておりますが、皆様もお体お大事にされてください。




