【番外編】エリスの送別会1(アリアナ視点)
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ミモザの日から数日後、エリス様が明日帰国される事になったので、お別れパーティーを開いた。
後三週間で卒業なのにと思うけれど、本当はもっと前に帰る予定を延ばしてくれていたらしい。
卒業パーティーに出る事ができないエリス様の為に、なるべく華やかな会にしたかった。
アカデミーの生徒であれば、参加は自由にし、小ホールを借り切り、ダンスや会話と食事を楽しめる様にした。
エリス様の婚約者であるルイス様も招待する。
「アリアナ様、この様な会を開いて頂き、ありがとうございます。私の婚約者を紹介いたしますね。ルイスですわ。」
「エリス様、寂しくなりますわ。ルイス様、お久しぶりでございます。お元気でいらっしゃいますか?」
ルイス様は相変わらず美丈夫だけど、胡散臭い笑顔を浮かべている、普通の令嬢であれば、麗しい笑顔というのだろうけれど。
「アリアナ嬢、ご無沙汰しております。この度はエリスがお世話になりました。」
ルイス様は私の手を取り、甲にキスを落とす。
その仕草が様になっているというか…と私が感心していたところで、その手をパシリと叩く手が伸びて来た。
「ルイス!俺のアリアに触るな!」
レオンハルト殿下だった。
いや、挨拶だし。そう口に出そうとしたら、先を越されてしまう。
「挨拶ぐらいいいだろう?」
ついでだから、私も釘をさす。
「レオンハルト殿下、わたくしがいつ殿下のものになったのですか?わたくしは殿下のものではありませんわ。」
エリス様も加勢をしてくれる。
「そうよ!レオンには、アリアナ様は勿体ないわ。ルイスも私のアリアナ様に触らないで!アリアナ様がルイスの軽薄菌に汚染されてしまうわ。」
う〜ん。軽薄菌なんて、ピッタリ。
そう思った事は内緒。だってエリス様の婚約者だし。
でもエリス様、怒る内容が違うんじゃ…
エリス様は私を背に庇いながら、二人と対峙する。
そんな姿も可愛いなぁ。私のって、エリス様から言われるのは、お友達なんだと実感できて、嬉しい。
明日帰ってしまうなんて、寂しいなぁ。
「酷いなあ、エリス。仮にも私は婚約者だよ。」
「ルイスは女性だと誰でも声をかけていたんでしょう?」
「ふふふ…エリス様、ルイス様が女子生徒に声をかけて回るのは、アカデミーでは有名でしたのよ。動機は不純すぎて、誰も相手にしておりませんでしたが。」
「アリアナ嬢、酷いなあ。動機は不純なんて。私はいつでも、本気だったよ。」
「何ですって!」
「エリス様、大丈夫です。ご令嬢方は、鑑賞用にはいいけれど、お付き合いはないわ。との評判でしたから。」
「本当に?」
「ええ。ご令嬢方を変に利用されても困りますから、わたくしが皆様に、ルイス様の本当の目的を教えておりました。」
「本当の目的?」
「ええ、エリス様、お耳を…」
「……」
「ルイス、貴方アリアナ様には敵わないわね。」
「アリアナ嬢、何を言ったのかな?」
ルイス様は私を睨みつける。
私も口角を上げる。
「さあ?事実をそのままお伝えしたまでですわ。そんなにドスの効いた声を使われても、わたくしには効果ありませんわよ。あの兄に慣れていますから。兄からクロード殿下に、貴方がしていた事を、事細かに報告させましょうか?」
「悪い悪い!降参だよ。」
そこへエリス様と同じクラスの女子がやって来た。
エリス様とレオンハルト殿下を取り囲む。
エリス様の注意が逸れたら、ルイス様が私の隣にやって来た。
「やっぱり君か。私の活動の邪魔をしていたのは。」
「何の事を仰られているのか、わかりませんわ。」
「君は私の邪魔ばかりをしていたではないか。」
彼は笑顔のままで、鋭い言葉を投げかける。
笑顔の下には、容赦しないと書いてある様だ。
ならば、私も本気を出してもいいわよね。
「我が国の事を漏らす訳にはいきませんもの。女子が甘い言葉で騙されると、馬鹿にするからですわ。男性だって、女性に甘い言葉を囁かれると勘違いして、色々と余計な事まで話してしまうでしょう?」
暗に諜報活動はバレているのよ。あんたのところの王子様も誘惑されれば、色々と話すかもよと挑発してみる。
ルイス様は目を見開く。
「いや…馬鹿にしていたわけではないが。何でわかった?」
「さあ?ちなみに兄にはその都度、報告しておりましたから。まぁ大した実害は無いので、放って置いたみたいですね。で、一体なんの目的ですか?」
扇で口元を隠しながら、彼と対峙する。
令嬢たちから、家の内情を聞き出し、弱味を握ろうなんて、紳士のする事では無い。一体何を探っていたのか。
この男、本当にエリス様には相応しくはないわ。
まぁ、諜報活動に携わる男は、紳士などではいられないのでしょうけれど。
「君は何者だ?」
ルイス様の目が鋭くなる。
「質問を質問で返されるのは、好きではありませんわ。そうねえ、貴方と一緒とか?」
ふふふと笑ってみる。
そうよねえ、諜報機関の者が王子に近づくなんて、護衛の失態だし。
「まさか…魔法師団の制服を着ていただろう?」
私が魔法師団だと疑っている?まぁバレたとしても、構わない。諜報機関と関わっていると勘違いされていた方が都合がいいかも。
「魔法師団だからと言って、貴方と同じ仕事ではないと言い切れないでしょう?」
「そんなバカな…」
彼は片手を額に当て、項垂れている。
「魔法師団には入っていませんわ。入っているのは、兄よ。あれは逃げ出す為に変装したの。意外と似合っていましたでしょう?一度着てみたかったのですわ。大体、わたくしなどが、魔法師団に入れるほど、我が国の魔法師団は甘くはありませんわ。」
そう言えば、ルイス様は顔を上げつつ、私を睨む。
私は令嬢の仮面を貼り付け、にっこりと微む。私のこの顔も相当胡散臭いかも。
「君自身、魔法力が強いだろう?私は海賊襲撃の際に、クロード殿下と一緒に海賊に立ち向かう君を見た。」
「あの野外活動には参加しておりましたが、海賊と立ち向かうなど、わたくしには無理ですわ。」
「クロード殿下の隣にいたのは、君だろう?」
「ルイス様は眼鏡を愛用された方がよろしいですわ。そんな事より、エリス様を泣かせる様な事をしたら、わたくしが許しませんからね。覚えておいて下さいませ。」
私が強く言うと、彼は目を見張る。まさか私からエリス様を大事にしろと言われるとは思わなかったのだろう。
私の隣に戻ってきたエリス様が、私達を不思議そうに眺める。
「ルイス、アリアナ様と何を話しているの?」
「いや。大した事じゃないよ。」
「アリアナ様、本当?ルイスが変な事を言ったんじゃない?」
「ルイス様が今までお声掛けされていたご令嬢方について、お話させて頂いたのですわ。エリス様お気をつけあそばせ。」
「ルイス!説明してよね。」
「アリアナ嬢!俺は無実だ!」
「あら、わたくしが証人ですわよ。なんならお声掛け頂いた女子を連れて参りましょうか?皆喜びますわ。卒業されたお姉様方は難しいですが、在校生ならかなりこの場にいらっしゃいましからね。」
私はふふふと笑ってみる。さっきの仕返しだ。
「悪かった!今はエリスだけだ!」
ルイス様は焦った様に、エリス様の機嫌を取る。その必死な様子に、エリス様の事は本気なんだと少しホッとした。
「アリア、楽しそうだな。」
レオンハルト殿下がそう言いながら、私の手を取り、甲にキスを落とす。挨拶だとわかっていても、この人がすると周囲が騒がしい。
キャー!とか、女子の騒めきが…
「レオンハルト殿下、ルイス様の過去の女性問題について、議論しておりました。殿下のお国の男性は、情熱的ですわね。」
彼の手を振り解きながら、距離を一歩取る。
注意しなければ、彼の国の男性は距離感が近く、すぐに捕まってしまうし。
「澄ました男より、いいだろう?」
「ふふふ…」
「何がおかしい?」
「いえ、女性を見ると口説く事がご挨拶の様で。」
「俺がいつアリア以外を口説いた?」
彼の眉が寄るのがわかる。
確かにアカデミーでは、口説かれている方かも。皆王太子妃の座は他国でも魅力的だしね。
この国の王子の一人はカーラ様に夢中だし、一人は兄がピッタリ張り付いていて、近寄れない。
だったら他国の王子様に、となるのもわかるかな。
まぁ身分に寄っていくのも、いかがなものかしらとも思うけど。
だけど、私はレオン様には容赦しなかった。
「あら、わたくしの知らない所で、口説かれているのては?お国に新しい婚約者と仰られる方もいらっしゃいますよね。」
「へー。レオンハルトは国に婚約者がいるんだ。」
ルーカス殿下が割り込んできた。
彼はいつの間にか、私の隣に陣取り、私の手を取り、挨拶のキスを落とす。
全く、ルーカス殿下としての彼は、こんなキザな事をサラリとしてくるところが、タチが悪い。私と二人の時は佐伯くんのままなのに。
「あれは勝手に言っているだけで、正式に決まったものではない。」
レオンハルト殿下の機嫌が悪くなる。
「あら、ルーカス殿下には、婚約者がいらっしゃらないのですか?」
いつの間にか、私達のところに戻っていたエリス様が尋ねる。
「俺はいないな。リナだけだ。」
彼はそう言って、肩に手を掛けてくる。
私はその手を外しながら、彼を睨む。
「ルーカス殿下、お戯れを仰るのは程々に。」
だから近いんだってば!と叫びたくなるのを我慢し、目で訴えてみる。彼が側に来ると、つい前世の私が表に出て来てしまい、調子が狂ってしまう。
「ルーカス、アリアから離れろ!」
レオンハルト殿下が私の隣に来て、ルーカス殿下を睨み付ける。
「離れるのは、お前だろう?」
と、ルーカス殿下。
「いや、二人ともだよ。」
私が二人のやり取りにウンザリしていたところに、更にもう一人。
慌てて令嬢の仮面を被った。
「イスマエル殿下、ご機嫌よう。」
「イスマエル殿下もアリアナ様狙いですの?」
エリス様、皆を煽らないで。
「アリアは私の恋人だからな。」
そう言いながら、彼も私の手に挨拶のキスを落とす。
「きゃっ!」
エリス様の目が輝いている。きっと誤解された。
私はイスマエル殿下を睨む。
「イスマエル殿下、ちゃんと訂正してくださいませ。元恋人と。」
「私は今も恋人のつもりだが?」
「契約は解消させていただきましたわ。」
「契約は終わったから、本当の恋人になると宣言しただろう?」
「わたくしはその様なつもりはございません。」
「イスマエル、見苦しいぞ。」
レオン様か横槍を出す。
なんだか怪しい雲行きになって来た。この際、きっぱりとお断りをしておこう。
「殿下方から過分なお心遣いを頂き、ありがとうございます。ですが、わたくしは卒業後は我が国の王宮へ上がる事が決まっておりますので、これ以上のお気遣いは無用ですわ。」
「本気でクリストファーと結婚するつもりか?」
イスマエル殿下が私に鋭い眼差しを向ける。
かなり怒っている様だ。
「さあ?」
私は首を傾げる。
「「「許さない!」」」
三人の声が重なって聞こえ、私は頭を抱えてしまった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回もパーティーの続きを予定しています。
不定期更新とさせて頂きますが、お付き合い頂けますと、幸いです。




