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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】ミモザとアリアナとクロード(クロード視点)

ブックマーク、評価等、ありがとうございます。

大変励みになります。


前話のクロード視点です。

 アリアナがアカデミーに戻ってから、彼女は魔法師団に顔を出していない。

 エリックに確認すれば、アカデミーを休んでいた分、忙しいと連絡が入ったそうだ。


 だが、こう長く顔を見ないと不安になる。なんせ彼女の周りには、彼女を狙う男達がいるのだ。

 エリックが護衛を付けているし、彼の息のかかった伯爵令息から、毎日アカデミーでのアリアナの様子が報告されている。


 今、エリックの部屋で、報告書を読んでいる。表題は「アリアナのアカデミー内での交友関係について」と書いてある。


 アリアナがアカデミーに戻ってからは、周囲はご令嬢方が取り囲み、男達はなかなか近付く事が出来ないとの報告には安堵した。エリックが手を回していたらしい。しかし、アリアナと仲の良いエリス嬢と一緒の時は、レオンハルトも一緒にいる事が多いとの一文に怒りが湧く。


「エリック、アリアナを呼び出せ。」


「お前がそんな怖い顔をしていると、呼び出しても逃げ出すぞ。」

 彼は笑いながら言う。


「お前はこの報告書を見て、何も思わないのか?」


「大丈夫だ。アリアナはレオンハルトの事も、ただの王子としか思っていない。」


「ただの王子って。アイツは隣国の王太子で、堂々とアリアナを口説いている奴だぞ。」


「アリアナは権力が嫌いだからな。王子とかの王族は、煩わしいと思っているさ。」


「…俺も王子だが。」


「お前はその前に兄だから、心配するな。」

 エリックが私の肩を軽く叩く。


「私は兄になりたいわけではない。」


 エリックの言葉は、地味に私を打ちのめす。

 だが、幼い頃からの友は、一瞬切ない眼差しを浮かべた。私も反撃してしまった様だ。


 彼もアリアナの事を大事に思っている。それが兄妹の情以上の感情では無いかと、感じる事が度々ある。

 だが、彼は私のアリアナへの想いを知っても変わらず、私の側で仕え、私の想いを応援してくれている。

 口は悪いが…


「ああ、わかっている。俺もアリアナの顔を見たいから、呼び出してやるよ。」


 エリックが呼び出してから、直ぐにアリアナはやって来た。元々、今日は顔を出すつもりだったらしい。


「ご機嫌よう。クロード殿下、お兄様。」


 アリアナが、優雅に挨拶をしているが、彼女と視線かあった時、彼女の瞳は、逃げ場を探していた。


「アリアナ、座りなさい。」


 エリックから言われ、アリアナは、離れた席に着こうとする。


「そっちでは無い。ここに来なさい。」

 私はアリアナの腕を引き、強引に隣に座らせた。


「殿下、わたくしはあちらで。」

「ダメだ。ここに座りなさい。」

「はい…」

 怯えた子猫の様だ。毛を逆撫でて怒っていたり、自分の思うままに行動するアリアナは、猫の様だな。


「久しいな。アリアナ。」


「この間まで、お世話になっていたではありませんか。」

 ツンとして、アリアナは言う。無理している姿も可愛いと思ってしまう。


「魔法師団に週2回は顔を出す様、申し伝えていた筈だが。」


「忙しく、行けないと連絡はいたしましたわ。」


 だが、レオンハルトと会う時間はあったのだろうと思うと、つい、口調が厳しくなってしまう。


「レオンハルトと親しくしているのではないか?」


「レオンハルト殿下?別に親しくしておりません。わたくしはエリス様とは、親しくさせて頂いておりますが。」

「レオンハルトも一緒にいるのではないか?」

「時々は。」


「やはりアカデミーは辞めろ。」

「嫌です。」

「何故だ?勉強はもう十分だろう?」

「後少しだけです。卒業ぐらいしたいですわ。あっ、お兄様、これ。」

 アリアナはバスケットを、エリックに差し出す。


「何だ?」

 エリックは訝しげに籠をみる。

「嫌だわ。今日はミモザの日よ。クロード殿下とお兄様にミモザとケーキとクッキーを用意したの。」


 ミモザの日。すっかり忘れていた。

 アリアナがこの日に私に会いに来てくれた。大事な人と過ごす日。ここ数年、エリックを含め一緒に過ごして来た。今年も忘れずにアリアナが来てくれた事がとても嬉しい。


 前に座っているエリックも、目を細めている。

「ああ、そうだったな。」


「あら、それで呼び出されたのだと思ったのだけど。お兄様方はどなたかに贈られたの?」


「それどころでは無かった。」

 エリックは遠い目をしている。このところの忙しさを思い出したのだろう。


「ですわよね。お茶入れて来ましょうか?」


「いや、侍従に頼んでくるよ。」

 エリックはそう言って席を立つ。

 やっと、アリアナと二人きりになれた。エリックに感謝し、後で礼をしなければと思う。


「アリアナ、傷は痛まないか?」

 私は彼女肩に視線を向ける。


 私を庇って、負ってしまった傷。

 傷自体は治癒したが、傷痕が残っているはず。痛みが残っていてもおかしくはない。首まで覆われているドレスが、傷痕を見せない為かと思うと、自責の念に駆られ、早く綺麗な肌に戻さなければと思う。

 だが、傷痕は私のものだという印の様にも思え、消したくないとも思い、相反する気持ちに苛まれる。


「ええ、もう痛みはありません。ご心配をおかけしました。」


「傷痕はどうなった?」


「さあ?見ておりません。侍女が薬は塗ってくれていますが。」


「傷痕をみせろ。治癒魔法をかけてやろう。」

「治癒魔法なら、治療院の先生にお願いしますわ。」


「アリアナの肌を見せたくはない。」

 アリアナの肌は、誰にも見せたくはない。

 白い滑らかな肌も、傷痕さえも。


「肌って…肩ですから。ドレスを着れば出ていてもおかしくない場所ですわ。それに今日のドレスだとすぐに肩を出せません。」


 アリアナは傷痕を見せようとしなかった。

 仕方ないかと、服の上から治癒魔法をかけるが、やはり状態を見ながらでないと、難しい。


「やはり、服の上からだと難しいな。やっぱり傷痕を見せなさい。」


 治療の為でもあるが、アリアナの傷痕を直接この目で確認したい。酷い様ならば、やはり綺麗に治してやらなければなるまい。

 アリアナは困惑しているようだ。


「ああ、ドレスのボタンが後ろだから、自分でできないのだろう?私が外すぞ。」


 彼女か応える前に、私は首の後ろ側にあるボタンに手を掛け、外していく。

 白い項が現れ、思わず息を呑む。


「殿下、ダメです!」

 アリアナが私を止める。だが、私は止めるつもりはない。


「何がダメなんだ?二人きりだ。他に見る者はいない。」


「いえ、殿下の名誉に関わるかと。」


 アリアナが余りにも必死に言うので、思わず笑ってしまう。魔法力の強い彼女が本気になれば、私から逃げ出す事は容易だ。だが、彼女は私から逃げ出さないばかりか、私の心配をしている。


「クックック…それを言うならば、アリアナの名誉だろう?心配するな。ここには防音、防御、目眩しの魔法をかけている。エリックしか入って来れない。」


「兄でも問題があると思いますが。」


「エリックなら、何も問題ない。」


 彼女は俯いているが、耳がほんのり赤い。

 上から五つほどボタンを外すと、そっと右肩側のドレスを外すと、彼女は慌てて胸の前で、ドレスを抑える。


「ああ、悪かった。」

 私はそう言って、上着を彼女の反対側の肩から、そっと前面に掛けた。そうでもしないと、私の理性が保てそうにない。本当は今すぐ奪ってしまいたい。しかしそれは許されない。


「ありがとうございます。」


 私は傷痕の上に、直接触れ、指先で傷痕を撫でていく。傷痕の赤みが少しずつ薄くなる。

 ふと、アリアナに魔法がかけられている気配を感じる。また追跡魔法か。前回解術したが、消した事を悟られたのか?また別の者にかけられてたのか。

 いずれにしろ、アリアナに近付く事ができる人物だな。治癒魔法をかけた後に、その追跡魔法を解術する。


「殿下、擽ったいです!」

 彼女の肩が震えている。


「動くな!もう少しで済むから、我慢しろ!」


 口調がつい、乱暴になったのは、許して欲しい。

 そうでもしないと、自分の理性が保てそうになかった。


 傷痕を数回撫でると、線になって貼りつい皮膚の赤みが少し薄くなる。傷口にキスしたい衝動を抑えながら、彼女のドレスを引き上げ、ボタンを掛けた。


「終わったぞ。随分薄くなったが、後、数回は治療が必要だな。」


 アリアナは私に上着を返しながら、礼を言う。

「ありがとうございました。ですが、これ以上は殿下のお手を、煩わせる訳にはいきません。」


 アリアナは相変わらず私と一線を引こうとする。

 だが、悪いが、私はもう彼女を離すという選択肢はなかった。


「いや、私が最後まで面倒をみるから心配するな。」


 そう、一生面倒をみたい。彼女が私の側で笑っていてくれるならば、どんな苦難でも乗り越えていける。その為に今まで努力してきたのだ。


「殿下、もう十分です。わたくしは傷痕があろうとも、わたくしには変わりありません。クリストファー殿下との婚約解消が成れば、殿下に甘える訳にはいきませんわ。」


 私は、彼女の言葉に眉を顰める。

 クリストファーとの婚約解消が成れば、私が彼女を貰い受ける手筈が整っている。なのに彼女は私から離れようというのか。


「クリストファーと婚約解消が成った暁には、アリアナはどうするつもりか?他国の王子の元へ、嫁ぐのか?」


「まさか!王子様方は、皆様良い方ばかりですが、わたくしには、勿体ないお話です。」


「その王子達から、求婚の申し込みが来ているが?婚約解消後、いや、早急に婚約解消し、我が国に来て欲しいと何件も。」


 そう、その為にクリストファーとアリアナの婚約解消がなかなか進まない。アリアナの魔法力を知る者は、陛下とその側近のごく一部に過ぎない。

 大半の貴族たちは、アリアナはただの公爵令嬢だから、隣国の和平の為、クリストファーと婚約解消させ、彼女を差し出せと煩い。クリストファー派の画策でもあるのだろう。


「もちろん、国王陛下や、父から嫁げと言われれば、嫁がなければならないかもしれませんが。」


 アリアナも事情は知っている様だ。彼女の事だ。自分を犠牲にしても和平の為ならと、他国へ嫁ぐかもしれない。


「アリアナは、他国へ嫁ぐというのか?」

 王子の誰かから、何か吹き込まれたのか?

 レオンハルトあたりか。


「今の立場のわたくしには、選ぶ事など出来ません。貴族の娘として、それは充分承知しております。自分が想う方と一緒になる事など、夢のまた夢ですわ。」


 私は彼女の両腕をガシッと掴む。

 アリアナが好きな男がいるとは、思ってもみなかった。だからこそ、男として意識されていなくとも、これからだと、我慢してきた。


「誰か好きな男がいるのか?」

 嫉妬と焦りで、声を荒げてしまう。

 早く否定して欲しい。私はアリアナの答えを待った。







お読みいただき、ありがとうございました。


次回もクロード視点の予定です。

不定期更新で申し訳ありませんが、お付き合い頂けますと幸いです。


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